選抜試験③
試験は三段階に分かれている。
一つ、筆記試験。
騎士団の入団試験でも用いられる内容だ。
問われるのは一般教養と、王国に対する知識。
またこういう状況に陥った時、自分ならどうするかを選択肢から選ぶ。
騎士としての適性を図る目的だ。
二つ、体力測定。
筋力、動体視力、反応速度や魔力量など。
身体情報を数値化する。
騎士団団員の平均値との差を求め、数値が上回っている項目が半分以下だと、その時点で落とされてしまう。
私は女性だから、素の肉体の力は男性に劣りやすい。
その代わり、魔力操作のセンスは女性のほうが上回りやすい傾向があった。
長所を活かし、短所を補う。
七年間しっかり訓練を積んできたのだから、性別の差があろうとも、平均値を下回ることはないだろう。
あとは長所でどれだけ他と差がつけられるか……。
そして、試験の中で最も重要とされている実技。
いくつかのグループに分かれて、受験者同士で実力を見せ合う。
剣術、体術、魔法など。
自分がいかに強く優れているかをアピールするポイントだ。
先の二つの試験は前座で、実技が本命という声も多い。
実際、実技で好成績を収めた者ほど、合格者になる確率が高かったそうだ。
「全員席についてください。これより筆記試験を開始します」
定刻になり、さっそく試験は開始された。
配られた用紙に目を通す。
(よし。これなら騎士団の入団試験と同じだ)
予想通り、内容には見覚えがあった。
カンニングしているみたいで気が引けるけど、この程度の筆記試験なら満点が取れて当たり前だ。
仮に初めてだったとしても、低い点数にはならない。
緊張が少しだけほぐれた。
ドンッ!
「っ――!」
椅子が揺れた。
私は咄嗟に首を後ろに向ける。
気づかなかった。
私の後ろにいたのは、入り口で難癖をつけてきた貴族の一人だった。
揺れたのは彼が私の椅子を蹴ったからだ。
(地味な嫌がらせを……)
何度も蹴ってくる。
私の集中力をそぐためだろう。
ここで振り返って文句を言えば、私がカンニングしていると思われてしまう。
無視するしかない。
こんな陰湿な嫌がらせに屈して溜まるか!
ただ、やられっぱなしも嫌なので……。
(ちょっと反撃)
「痛っ!」
蹴られる瞬間、衝撃が跳ね返るように椅子に力を加えた。
振動を内部に伝える打撃技術の応用だ。
魔力も少しだけ込めたので、蹴ったつま先は相当痛かっただろう。
彼は声を上げてしまった。
「私語は厳禁です! 受験番号二五二七番、退場してください」
「なっ! 待ってください! 悪いのは私じゃありません! こいつが私に妨害をしたんです!」
「後ろの席にどうやって妨害を? 何のためにするのですか?」
「それは……」
「退室してください」
「くっ……」
試験監督を務めているのは、騎士団の団員だった。
面識があるわけじゃないので、贔屓してもらえるわけじゃない。
ただ、彼らは公平に接する。
貴族であれ、平民であれ、ルールに準じて判断を下す。
私に嫌がらせをしたせいで、彼は不合格になった。
正直、スカッとした。
◇◇◇
筆記試験が終了し、そのまま会場を野外訓練場に移す。
受験番号が若い順に身体測定を行っていく。
私は二千番台だから、まだ先だ。
呼ばれるまで筆記試験を受けた部屋で休憩する。
(筆記試験はたぶん満点。今のところ順調だ)
「おい、さっきのってさ」
「彼女ブレイブ家の人間でしょ? 確か六、七年前に当主が戦死して」
「あー、結構有名だった話か」
どうやら私の席の周りが貴族が多いらしい。
試験参加者の八割は一般人だけど、残り二割は貴族や現役の騎士団員だ。
こういう偶然もある。
貴族の間では、ブレイブ家の話は一時期有名だった。
私としては不本意だけど、それだけ名の知れた貴族だったということだ。
時間が経過し、私の番になると部屋に待機していた受験者が一斉に訓練場へ向かう。
身体検査は騎士団で採用されている項目、検査方法を使うらしい。
これも見習いになる過程で一度受けた。
受けたのは七年前だから、あの頃よりは確実に成長しているだろう。
(うわっ……)
視界の端に、私に嫌がらせをしてきた貴族のお仲間が見えた。
どうやら同じ部屋にもう一人いたらしい。
つまり、退場処分になったことを知っている。
当然、穏やかではない。
私をギロっと睨んでいた。
「……無視だ、無視」
私は気にせず身体測定に挑む。
筋力の測定が終わり、続けて足の速さを測定する。
受験者が十名ほど一列に並び、一斉に走って時間を図る。
神様は意地悪だ。
それとも裏で手を回しているのか。
私の隣は、あの意地悪貴族の一人だった。
「覚悟しろよ」
「……」
この男は馬鹿なのだろうか。
スタート前にそんなことを口にしたら、また何かすると宣言しているようなものじゃないか。
速度を図る試験。
何をするかなんて、大体想像はついた。
「位置についてください! 三秒後、スタートします」
試験官がカウントを始めた。
皆が前を見る中で、隣の男は私の足に視線を向けている。
「二、一、始め!」
スタートの合図と同時に、男は私のほうへ足を出してきた。
(やっぱりきた)
そう来ることは予想済み。
わかってさえすれば関係ない。
邪魔な足ごと蹴飛ばす勢いで、地面を蹴って駆け出す。
「うわっ!」
男は私が無視して走り出すとは思わなかったのだろう。
瞬間的にパワー負けして、足をかけたほうが盛大にずっこけてしまっていた。
私は構わず全力で走る。
これで私が不正を疑われることはない。
なぜならスタート時、レーンは区切られていた。
私の足跡は、レーンの中にしかない。
彼がこちらに侵入して、勝手に転んだことは明白だった。
この後試験官が確認し、彼の不正が発覚して退場処分になった。
やはり気分がいい。
自分が好戦的な性格だったことに気づかされた。