選抜試験②
第一王子付き専属護衛騎士。
文字通り、王子を守るため、常に傍に仕える騎士のことを指す。
王族はその立場、様々な方面から狙われる。
時には命を脅かす事件も起こるだろう。
そうなった時、身を挺して王族を守り、敵対者を排除するのが役割だ。
通常、騎士団の中から選ばれることが多いが、稀に試験を設けることがある。
騎士団以外からも優秀な人材を集めることが目的らしい。
過去の例では、一万人を超える志願者が集まったそうだ。
専属騎士になれば、一般人でも貴族と同等の待遇が与えられる。
同時に王族を守る名誉も授かるのだ。
おそらく今回も、相当な人数が集まるだろう。
「すぅーはぁー」
私は深呼吸して、会場へと向かった。
会場は騎士団が管理している野外訓練場と、現在は使われていない旧騎士団隊舎。
普段は騎士団の入団試験にも使われている。
私も見習いになる過程で、ここで簡易的だけど試験を受けた。
身近にある場所だから、見慣れていて平常心でいられるかと思ったけど……。
「やっぱり緊張するなぁ」
人生の大きな分岐点。
ここで合格できるかどうかで、私の未来は変わると確信している。
だからこそ、緊張が漂う。
すでに会場には、参加者が集まってきていた。
人だかりもできている。
参加者がいくら多くても、合格できる人数はごくわずか。
専属騎士に数の規定はないけれど、例年通りなら最大でも三人くらいだ。
この国の職業で、もっとも狭き門と言えるだろう。
ごくりと息を飲み、会場の前で立っていると。
「邪魔だ」
「っ――」
後ろから誰かがきて、私の肩にどしんと自分の肩をぶつけてきた。
私はふらついて倒れそうになる。
咄嗟に足を出して堪えたけど、ちょっぴり間抜けな姿勢になってしまった。
「ぼーっとしてんじゃねーよ」
「……」
ぶつかった男性は貴族だとわかる服装をしていた。
私のことを見下し、笑っている。
ぶつかったのは一人だけど、取り巻きのように二人、彼の後ろで笑っている男性がいた。
彼らも貴族だろう。
裕福そうな目立つ格好をしている。
ぶつかってきたのは向こうだけど、道の真ん中で立っていた私も悪かった。
私は謝罪する。
「すみませんでした」
「はっ! これだから落ちこぼれはどんくせーな」
「――!」
彼は私が、ブレイブ家の人間だと気づいている。
気づいた上で、ちょっかいをかけてきたのだ。
そうなら最初から言ってほしかった。
ブレイブ家を侮辱する者に下げる頭はない。
私はすぐに頭を上げて、彼を無視して会場へと歩き出す。
「てめぇ、無視してんじゃねーよ。没落貴族の人間は、挨拶もまともにできねーのか?」
「……はぁ……」
ブレイブ家も貴族の一つだ。
家名を守り、復興を目指すなら、こういう面倒な貴族とも関わらないといけない。
本当は嫌だけど、私は可能な限り笑顔を見せて挨拶をすることにした。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「何がよろしくだ? まさか、お前もこの試験を受けるつもりじゃないよな?」
「受けるために来ました」
「冗談だろ? お前みたいな奴が、王族の護衛に相応しいわけがない。王族に対する侮辱もいいところだ! 即刻辞退しろよ」
「……」
頑張って作った笑顔が、さっそく崩れてしまう。
なぜ彼らにそんなことを言われなくてはならないのかと、イラっとしてしまった。
「相応しいかどうかを決めるために、これから試験をするんです。決めるのは皆さんではありません」
「こっちは親切に教えてやってるんだぜ? どうせ恥をかくだけなんだから、今のうちにやめておけ」
「お気遣いありがとうございます。私は平気ですので、それでは」
「チッ」
私は彼らを無視して会場へと速足で入った。
舌打ちの音が響く。
距離をとってから、私は大きくため息をこぼす。
「はぁ……まぁ予想してたけど」
こういうこともある。
ブレイブ家は現在、名前が残っているだけで貴族としての地位は薄い。
爵位を剥奪されないのは、私がまだ幼かったことや、父と母の生前の頑張りのおかげだろう。
それも永遠ではない。
いつ、爵位を奪われるかわからない。
だから早く、示さなくてはならないんだ。
この試験で、私の存在を認めさせてみせる!
会場に集まったのは約七千人。
例年より少ないのは、試験を行うという知らせから開催までの期間が短かったからだ。
突発的に行われたことで、間に合わなかった人もいるのだろう。
逆に言えば、そんな試験でも七千人集まったことが脅威だとも言える。
狭き門であることは変わりない。
「会場にお集まりの皆様、これより試験を開始します」
野外訓練場に集まった受験者に、身なりの整った男性がアナウンスする。
騎士ではなく、王族に近い貴族だろうか。
てっきり第一王子が出てくると思ったけど、今のところ姿はない。
「まずは筆記試験を行います。入場時に配られた用紙に、試験会場となる部屋が記されているはずです。その部屋に向かい、試験開始まで待機をお願いします」
アナウンスは終わり、ぞろぞろと受験者が移動を始める。
私も自分の部屋に向かう。
道中、ひそひそと声が聞こえた。
「あれがブレイブ家の……」
「よく来れたな。今じゃ平民より情けない癖に」
「……」
心ない声が届く。
気にしていたらキリがない。
今は無視して、試験に集中しよう。
力を示し、合格してしまえばいいんだ。
そうすれば彼らも、私やブレイブ家を……お父様を馬鹿にすることはなくなる。