表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

選抜試験②

 第一王子付き専属護衛騎士。

 文字通り、王子を守るため、常に傍に仕える騎士のことを指す。

 王族はその立場、様々な方面から狙われる。

 時には命を脅かす事件も起こるだろう。

 そうなった時、身を挺して王族を守り、敵対者を排除するのが役割だ。

 通常、騎士団の中から選ばれることが多いが、稀に試験を設けることがある。

 騎士団以外からも優秀な人材を集めることが目的らしい。

 過去の例では、一万人を超える志願者が集まったそうだ。

 専属騎士になれば、一般人でも貴族と同等の待遇が与えられる。

 同時に王族を守る名誉も授かるのだ。

 おそらく今回も、相当な人数が集まるだろう。


「すぅーはぁー」


 私は深呼吸して、会場へと向かった。

 会場は騎士団が管理している野外訓練場と、現在は使われていない旧騎士団隊舎。

 普段は騎士団の入団試験にも使われている。

 私も見習いになる過程で、ここで簡易的だけど試験を受けた。

 身近にある場所だから、見慣れていて平常心でいられるかと思ったけど……。


「やっぱり緊張するなぁ」


 人生の大きな分岐点。

 ここで合格できるかどうかで、私の未来は変わると確信している。

 だからこそ、緊張が漂う。

 すでに会場には、参加者が集まってきていた。

 人だかりもできている。

 参加者がいくら多くても、合格できる人数はごくわずか。

 専属騎士に数の規定はないけれど、例年通りなら最大でも三人くらいだ。

 この国の職業で、もっとも狭き門と言えるだろう。


 ごくりと息を飲み、会場の前で立っていると。


「邪魔だ」

「っ――」


 後ろから誰かがきて、私の肩にどしんと自分の肩をぶつけてきた。

 私はふらついて倒れそうになる。

 咄嗟に足を出して堪えたけど、ちょっぴり間抜けな姿勢になってしまった。


「ぼーっとしてんじゃねーよ」

「……」


 ぶつかった男性は貴族だとわかる服装をしていた。

 私のことを見下し、笑っている。

 ぶつかったのは一人だけど、取り巻きのように二人、彼の後ろで笑っている男性がいた。

 彼らも貴族だろう。

 裕福そうな目立つ格好をしている。

 ぶつかってきたのは向こうだけど、道の真ん中で立っていた私も悪かった。

 私は謝罪する。


「すみませんでした」

「はっ! これだから落ちこぼれはどんくせーな」

「――!」


 彼は私が、ブレイブ家の人間だと気づいている。

 気づいた上で、ちょっかいをかけてきたのだ。

 そうなら最初から言ってほしかった。

 ブレイブ家を侮辱する者に下げる頭はない。

 私はすぐに頭を上げて、彼を無視して会場へと歩き出す。


「てめぇ、無視してんじゃねーよ。没落貴族の人間は、挨拶もまともにできねーのか?」

「……はぁ……」


 ブレイブ家も貴族の一つだ。

 家名を守り、復興を目指すなら、こういう面倒な貴族とも関わらないといけない。

 本当は嫌だけど、私は可能な限り笑顔を見せて挨拶をすることにした。


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「何がよろしくだ? まさか、お前もこの試験を受けるつもりじゃないよな?」

「受けるために来ました」

「冗談だろ? お前みたいな奴が、王族の護衛に相応しいわけがない。王族に対する侮辱もいいところだ! 即刻辞退しろよ」

「……」


 頑張って作った笑顔が、さっそく崩れてしまう。

 なぜ彼らにそんなことを言われなくてはならないのかと、イラっとしてしまった。

 

「相応しいかどうかを決めるために、これから試験をするんです。決めるのは皆さんではありません」

「こっちは親切に教えてやってるんだぜ? どうせ恥をかくだけなんだから、今のうちにやめておけ」

「お気遣いありがとうございます。私は平気ですので、それでは」

「チッ」


 私は彼らを無視して会場へと速足で入った。

 舌打ちの音が響く。


 距離をとってから、私は大きくため息をこぼす。


「はぁ……まぁ予想してたけど」


 こういうこともある。

 ブレイブ家は現在、名前が残っているだけで貴族としての地位は薄い。

 爵位を剥奪されないのは、私がまだ幼かったことや、父と母の生前の頑張りのおかげだろう。

 それも永遠ではない。

 いつ、爵位を奪われるかわからない。

 だから早く、示さなくてはならないんだ。

 この試験で、私の存在を認めさせてみせる!


 会場に集まったのは約七千人。

 例年より少ないのは、試験を行うという知らせから開催までの期間が短かったからだ。

 突発的に行われたことで、間に合わなかった人もいるのだろう。

 逆に言えば、そんな試験でも七千人集まったことが脅威だとも言える。

 狭き門であることは変わりない。


「会場にお集まりの皆様、これより試験を開始します」


 野外訓練場に集まった受験者に、身なりの整った男性がアナウンスする。

 騎士ではなく、王族に近い貴族だろうか。

 てっきり第一王子が出てくると思ったけど、今のところ姿はない。


「まずは筆記試験を行います。入場時に配られた用紙に、試験会場となる部屋が記されているはずです。その部屋に向かい、試験開始まで待機をお願いします」


 アナウンスは終わり、ぞろぞろと受験者が移動を始める。

 私も自分の部屋に向かう。

 道中、ひそひそと声が聞こえた。


「あれがブレイブ家の……」

「よく来れたな。今じゃ平民より情けない癖に」

「……」


 心ない声が届く。

 気にしていたらキリがない。

 今は無視して、試験に集中しよう。

 力を示し、合格してしまえばいいんだ。

 そうすれば彼らも、私やブレイブ家を……お父様を馬鹿にすることはなくなる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ