選抜試験①
ここから先が新展開です!
十七歳になった私は、今も騎士団隊舎で訓練をつけてもらっている。
と言っても、子供だったあの頃とは少し違う。
「ラントさん! お願いします!」
「おう」
私は木剣を握り、ラントさんと向かい合う。
周囲には彼の部下の団員たちが見学に集まっていた。
いつもの光景だから、見られることにも慣れ始めている。
私は視線を気にすることなく、木剣を強く握りしめて、地面を蹴った。
「行きます!」
「――!」
まっすぐ飛び出し、ラントさんとの距離を詰める。
私の剣が届く間合いは、ラントさんの間合いよりわずかに遠い。
ラントさんの剣が届かないギリギリを見極め、横薙ぎで首を狙う。
「っと! 相変わらず怖いところ狙ってくるな!」
「本気じゃないと稽古にならない! 父にそう教わりましたから!」
「ロイドさんらしいよ」
彼は元々、お父様の部下だった人だ。
お父様から剣術を学んだのは、私だけじゃない。
私の動きをギリギリで見切り、今度は彼のほうから間合いを詰めてくる。
距離を詰められないよう、私は一歩さがる。
彼のほうが体格も筋力も上だ。
私の方が間合いが広いのも、通常より長い木剣を使用しているから。
リーチの差を補い、逆に利点に変えるために。
もちろん、木剣を長くするほど重さは増し、扱いにくくなってしまう。
成長したといえ、私の身体はまだ幼い。
それを補うために、私は体内で魔力を生成し、全身を駆け巡らせて肉体を強化している。
「ほんっとうに嫌な距離で攻めてくる!」
「ここが私の間合いですから!」
「二人とも凄い気迫だ」
「隊長が押されているぞ!」
観客たちの視線も熱くなっていた。
七年の期間で私は成長した。
けれど、成長したのは私だけではない。
あの頃は平の隊員だったラントさんが、今は部隊をまとめる隊長になった。
当然、剣士としての実力も練り上がっている。
私がここまで互角に戦えているのは、七年間彼に指導してもらったたまものだ。
私にとってもう一人の剣の師匠!
ラントさんに勝って、私は試験に臨む!
「――! ミスティアちゃん、そこまでだ」
「え?」
ここからだ、というところでストップをかけられてしまう。
ラントさんは木剣を降ろし、訓練場の壁にかかっている時計に視線を向けた。
私は察する。
「あっ! もうこんな時間だったんですね……」
「そうみたいだ。これ以上続けると、バテバテの状態で試験を受けることになりかねない。今日の訓練はここまでだ」
「わかりました」
少し残念だけど、今日はこれから大事な試験がある。
万全の状態で臨むためにも、力は温存しておくべきだろう。
パチパチと、周囲から拍手が送られる。
「ありがとうございました!」
私はラントさんと、周囲の人々にもお礼を言って頭を下げた。
ラントさんがゆっくり歩み寄る。
「いよいよだな」
「はい」
第一王子の専属騎士選抜試験。
私の運命を変えるかもしれない大事な時間が迫っている。
さすがに緊張してきた。
「ミスティアちゃんは、ラインハルト殿下についてはどのくらい知っている?」
「えっと、当代きっての大天才……と」
ラントさんは小さく頷く。
ラインハルト・グランツ。
剣術、魔法、魔力操作、あらゆる学問や技術に精通しており、その全てが達人の域に達しているという。
人々は彼を大天才、神の子と称した。
ただ……よくない噂も同時に聞こえてくる。
「ラインハルト殿下は、次期国王候補の筆頭だ。才能だけで見れば、間違いなく国王になるべきお方だと言われている。ただ、殿下の振る舞いや態度は、あまり大きな声では言えないが批判も多い」
「聞いたことがあります。自分が好きなことには積極的で、そうでないことには徹頭徹尾無関心だと」
一言で表すなら、究極の我儘だ。
ある意味では貴族や王族らしいのだけど、当然そんな態度では一国をまとめる王にはなれない。
私は両親が亡くなってから、パーティーや大きな催しには参加していない。
そのため、殿下とお話する機会などなかった。
遠目でお顔を拝見した程度だ。
とにかく大変な人、というのは認識している。
「仮に合格できたとしても、きっと大変な日々を送ることになるだろう。その覚悟はあるか?」
「もちろんです! どんなに険しい道でも、私は進むと決めました」
相手が誰であろうと。
我儘王子であっても、王族の専属騎士になれるのであれば構わない。
かつて父が目指した場所へ、父の代わりにたどり着いてみせる。
「そのために! この七年間を費やしたんです!」
「……愚問だったな」
ラントさんは安心したように笑う。
「君の騎士としての実力は、間違いなく現騎士団でも上位に入る! 胸を張って臨むといい! 君ならきっとロイドさんを越えられる」
「――はい! 精一杯頑張ってきます!」
私のために七年間を使ってくれたラントさんの期待に応えるためにも、この試験に合格する。
そして証明してみせる。
ブレイブ家はまだ、死んでいないということを!