表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結!】貧乏令嬢、第一王子の騎士になる  作者: 日之影ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/39

その刃は誰が為に③

 私は息を飲む。

 現国王、この国トップの亜人種に対するスタンスは、果たしてどちらなのか。

 見つめ合う二人を、私は見守る。


「ラインハルト、お前の言いたいことはわかっているつもりだ。彼女は何の罪も犯していない」

「その通りです。むしろ彼女は、俺の命を救いました。あれは賞賛に値する行いです」

「うむ、報告は受けている。無論感謝はしている。だが、我々には王族としての立場があるのだ」

「だから、何の罪もない個人を罰すると?」

「そこまでは言っていない。だが、このまま放置もできん。今や噂は広まり、一部では暴動も起きている」

(そこまで……)


 行き過ぎた主張に発展していたのか。

 私もそこまで事態が悪化していることは初めて知った。

 殿下は知っていたのだろうか?

 彼は僅かに眉を動かした。


「不自然だとは思いませんか? たかが一人、噂程度で暴動が起きるというのは」

「それほど彼らにとっては重要なことだと理解すべきなのだ」

「いいえ、考えるべきはそこじゃない。ラプラスです」

「――! 亜人種で構成された反政府組織か」

「はい。この暴動、彼らが関わっているかもしれません」


 ラプラスという単語に、私もわずかに反応した。

 殿下の主張は思い付きのようで、しかし的を射ている。

 噂が広がり、暴動が起こるまで早すぎる。

 ただエルフの侍女を招き入れたというだけで、人々が怒るだろうか?

 疑問こそ抱くにしろ、暴動は行き過ぎている。

 私も、殿下の意見を聞きながら整理する。


「暴動を起こすことが彼らの狙いなら、その先があるはずです。我々はそれに備えるべきだ」

「理解できないな。暴動など起こせば、亜人種に対する風当たりが強くなるだけだ。彼らは自由を求めているのだろう?」

「そうです。そのために、王政を打倒しようとしています。なら、この暴動の真の狙いは――」


 直後、爆発音が城内に響く。

 同時に地響きが鳴った。

 外の護衛を務めていた騎士が慌てて王座の間に入ってくる。


「失礼します! 緊急事態です! 陛下!」

「何事だ?」

「城内に侵入者です!」

「なんだと? どこから入った? 何者だ?」

「おそらく暴動に乗じて中に入ったものと。報告では姿を隠しておりますが、背に黒い花の文様があったと」


 ラプラスの花。

 殿下の予想通り、暴動も仕組まれたものだったのか?

 だとしたら狙いは明白だ。


「すぐに騎士団と連携し、城内に侵入した者たちを拘束しろ! 抵抗するなら切り捨てて構わん」

「それが、暴動に人員を割いている分、城内の警備が不足しております。外からの救援は、暴動を鎮圧してからでないと……」

「そういうことか」


 暴動で入り口に蓋をして、城内と外を隔離する。

 それこそがラプラスの狙い。

 

「父上、狙いは城ではなく内部の人間です。侵入できても少数のはず。城内にいる要人に騎士たちを回してください」

「そうだな。城内での魔法も許可する! 誰も死なせるな!」

「はっ!」


 騎士は報告に戻ろうと扉を開けた。

 が、そこに立っていたのは――


「よぉ、邪魔するぜ」

「貴様――がっ……」

「――!」


 半開きの扉を拳で破壊し、巨体の男は王座の間に入り込む。

 私たちは知っている。

 その男は、ジーナス先生を殺したラプラスの構成員。

 私と殿下が取り逃がした手練れだ。


「見つけたぜぇ! 雁首そろってるじゃねーか」

「ちっ……父上! 俺の後ろに」

「ああ」

「ミスティア!」

「わかっています!」


 私は剣を抜き、ラプラスの男と向き合う。

 注意すべきは彼だけじゃない。

 ぞろぞろとフードの男たちが部屋に入ってきて、あっという間に私たちを取り囲んだ。

 数は十二……魔力の乱れがある。

 おそらく魔法使いも何人かいて、姿を消している者もいる。

 狙いは間違いなく……。


「邪魔するなよ、女。オレたちのターゲットはそっちの二人だ」

「なら邪魔をします! 私は殿下の騎士です」

「そうかよ。そっちのほうが面白いけどなぁ!」


 瞬間、男は突進と共に大剣を振るう。

 その動きは一度見た。

 私は受け止めるフリをして、刃が触れた瞬間斬撃を逸らし、大剣を地面に叩きつける。

 隙が出来たところで、大剣を持っている腕を狙う。


「うおっと!」

「――!」

(剣を離して――)


 大剣を即座に手放し、素手で殴りかかってくる。

 殺気と共に魔力を感じた。

 受けたらヤバい。

 私は咄嗟に大きく跳び避けて回避する。


(この人……やっぱい動きがおかしい。普通の人間じゃない。それに……強い!)

「いいな、お前。中々悪くねーよ。王子の前座にしちゃ十分だ」

「ミスティア! 下がれ!」

「ダメです! 殿下は陛下の護衛に集中してください!」


 他にもラプラスの刺客がいる。

 私は剣術しか使えないから、一体多数の状況で、二人を守って戦うのは不向きだ。

 足手まといになってしまう。

 なら、私が今すべきことは、この場で最も障害となるこの男を……。


「彼は私が相手をします!」

「……負けるなよ」

「はい!」


 殿下が他の刺客に集中できるように、この男だけは行かせない!

 私は目の前の男に剣を向ける。

 が、男は何やら考え事をしている様子で……。


「うーん、その剣筋どっかで見たことあるんだよなぁ」

「……?」

「あ! 思い出したぜ! お前もしかして、あの時貴族の馬車を護衛してた剣士の弟子かなんかか?」

「――!」


 身体が震えた。

 エルフの里で知ってから、深く考えないようにしていたことがある。

 私のお父様が散った戦場……。

 あの時、貴族を襲った賊はラプラスだった。

 なら、誰がお父様を殺したのか。

 考えないようにしていた……考えてしまえば、怒りで冷静さを失いそうだったから。


「あいつも中々強かった。上質な剣士はいい血肉になる。お前も、このオレの糧になってもらおうか」

「そうか……お前が……お父様を殺したのか!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
[気になる点] 王とラインハルトの会話の中で 「その通りです。どちから彼女は、俺の命を救いました。あれは賞賛に値する行いです」 というラインハルトの台詞がありますが、「どちから」とは何でしょうか?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ