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【第一部完結!】貧乏令嬢、第一王子の騎士になる  作者: 日之影ソラ


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日の光を恨む④

 その病が発覚したのは、ミトス殿下が五歳の頃だった。

 いつものように外へ出た。

 燦燦と照らす太陽の光に、彼の肌が焼けた。

 もがき苦しむ殿下に治癒の魔法をかけたが効果はなく、日陰に移動することで治まり、徐々に肉体が回復した。

 まるで怪我などなくなったように、元通りとなった。

 

「それまで普通でした。普通に外に出られたのに、突然こうなったんです。今でもこの通り、ちょっとでも光に当たると焼けてしまいます」


 そう説明した殿下の手は、すでに完全回復している。

 日に弱い肌と、一瞬で回復する治癒力。

 まさに吸血鬼の力だ。

 だが、彼は王家の血を引いている。

 同じ父と母から生まれ、後天的に吸血鬼のような特徴が現れた。

 亜人種の特徴は、生まれながらにして持っているものだ。

 後から発現するなどありえない。

 宮廷の医者や魔法使いは、これを呪い、もしくは新種の病と仮定して、治療に当たっている。


「進展はない。事情を知らない貴族の中には、ミトスの余命が近いと思う者もいるようだが、本人はこの通り元気だ」

「どこも悪くありません。日の下でなければ、今でも走り回れます!」

「そんなことが……」

「リズ、お前に聞きたかったのはこのことだ。何か知らないか?」


 彼女はエルフだ。

 亜人種の彼女なら、何か知っているかもしれない。

 期待の視線が注がれる。


「ご、ごめんなさい……こんなの初めてで、私にもわからない……です」

「そうか」

 

 殿下は顔に出さないようにしているが、辛そうだった。

 それをリズも感じ取っている。


「ごめんなさい」

「気にするな。時間を取らせて悪かった。お前たちは先に戻ってくれ」


 部屋には殿下だけが残り、私たちは退出する。

 先に戻るように命令を受けた。

 道中、ステラが教えてくれた。


「殿下が王になりたがらないのは、ミトス様のことがあるからです」

「どういう意味ですか?」

「……ミトス様のご状態はよくありません。原因がわからず、吸血鬼のような状態になってしまい、表に出ることもできない。陛下も尽力なされていますが、十年以上進展がなく、諦めつつあります。問題となっているのは症状です」


 説明を受けながらかみ砕き、理解する。

 吸血鬼に似ている。

 そう、似ていることが問題視されてしまう。

 ここは人間の国だ。

 貴族の中にも、亜人種を差別する者は多く、人々の大半がそういう思想を少なからず持っている。

 王族の中に亜人種が生まれた。

 などと広まれば、王家の信用は失墜する。

 

「陛下も、ラインハルト殿下が王になることを望んでおられます。ですがそれを否定し続けることで、ミトス様が王になる可能性を残し続けているのです」


 そうか。

 殿下が王にならなければ、王の候補はミトス殿下しかいない。 

 だから今も、十年経っても治療を続けている。

 希望を持ち続けている。

 もしもラインハルト殿下が王になる気があれば、誰もミトス様の回復に期待しない。

 必要がなくなってしまうからだ。

 王家にとっても、貴族たちにとっても、吸血鬼のような王子など……いないほうがいいと。


「そんなこと……」

「実際に言われたわけではありませんが、殿下は感じ取ったのでしょう。王にはならない。そう言い始めたのも、ミトス様のご病気が発覚してからです。思えば殿下が魔法の研究に力を入れ始めたのもその頃からでした」


 あらゆる分野に才覚を放つ大天才。

 彼がそう呼ばれるようになったのは、ミトス様の一件から一年ほど経過した頃だった。

 もしかすると彼は、ミトス様のご病気を治す手がかりを探していたのかもしれない。

 今も尚……。


「なんか……殿下らしくないですね」

「え?」


 もやもやする。

 今の話を聞いて、心がざわついた。

 私は思い立った行動するタイプの人間だ。

 だから気づけば、踵を返している。


「ミスティアさん?」

「ちょっと行ってきます!」


  ◇◇◇


「賑やかでしたね」

「そうだな。うるさかったか?」

「いえ、兄さんが楽しそうでよかったです」

「俺がか?」

「はい!」

「そう見えるか」


 ミトスはベッドに座り、その隣にラインハルトも腰を下ろしている。

 二人だけになり、ラインハルトも柔らかな表情で話していた。


「……兄さんは、まだ王になる気はないんですか?」

「お前もそれを聞くのか?」

「だって! 兄さんが王にならないのは僕のためですよね?」

「……勘違いするな。お前のためじゃない」

「でも!」


 ミトスも察している。

 兄の優しさを。

 それを後ろめたく思っていた。


「俺は……どんな王になりたいのか、想像できないんだよ」

「兄さん……」

「王になって何がしたい? どんな国にしたいのかがわからない。そんな俺が……王に相応しいとは思わない」

「それは今だけです。兄さんならきっと見つけられます。だから僕のことは」

「ミトス、お前は……」

「失礼します!」


 バタンと部屋の扉が開いた。

 二人ともビクッと身体を震わせる。

 姿を見せたのは、少し怒っているミスティアだった。


  ◇◇◇


 勢いよく部屋に入った。

 当然驚かれるし、王子たちの時間を邪魔した。

 本来なら罰を受けるだろう。

 でも気にしない。

 今はただ、思ったことを伝えたい。


「お前……何しにきた?」

「殿下に言いたいことがあります」

「俺に?」

「殿下!」


 私はどしどしと歩み寄り、殿下に顔を近づける。


「らしくありません!」

「……は?」

「ステラから聞きました! 殿下が王にならないって決めた理由!」

「……勝手なことを」


 彼は目を逸らした。

 この反応をするということは、ステラの話は図星なのだろう。


「殿下がミトス殿下のことを心から心配しているのはわかります! とっても優しい顔をしていましたから!」

「……だから勘違いだ。俺は……」

「でも、だったらどうしてそんなに後ろ向きなんですか?」

「後ろ向き……?」

「だってそうじゃないですか! ミトス殿下を守るために王にならない? 意味がわからないです! 私が知る殿下なら、誰かに任せるんじゃなくて、自分で何とかしようとするはずです!」


 モヤモヤの意味を、発露しながら理解する。

 殿下は強くて、凛々しくて、いつも真っすぐだった。

 そんな殿下が後ろ向きだ。

 ミトス殿下のご病気を、他人に委ねようとしていることに、違和感を抱いた。

 他人に頼ることは悪じゃない。

 でも、殿下のそれは……。


「殿下も、諦めてしまっているんじゃないですか?」

「なん……だと?」

「ミトス様のご病気のことです! 殿下自身が無理だと思っているから、誰かに縋ろうとしている。自分でやろうとしていない!」

「お前……それ以上は怒るぞ?」

「構いません!」

 

 覚悟はしている。

 これをきっかけに、専属騎士から降ろされたなら、それまでだろう。

 殿下ならきっと……。


「諦めてないなら! 自分が王になって周りの意見を変えるくらいしてください!」

「――!」

「殿下ならそれができるはずです! 自信がないなら私も手伝います! 一緒に、ミトス様の病気を治す

方法を探しましょう!」

「お前……」

「私は殿下の騎士です! 殿下を支え、守るためにいます! 殿下が本気で願うなら、どこまでもお供する覚悟があります!」


 お父様ならきっとそうするだろう。

 私個人としても、殿下には何度も助けられた。

 あの日、殿下に強さを磨けと教えられた日からずっと……。


「言いたいことは以上です! 罰なら受けます!」

「……ぷっ、はっはははははははは」

「兄さん……」

「お前は馬鹿みたいに前向きだな」

「それが私の長所です」

「自分で言うか。まったく……だが、見習うべきかもしれないな」


 殿下はミトス様を見つめる。


「彼女の言う通りだ。俺は……諦めていたのかもしれない」

「兄さん……」

「すまなかった。待っていてほしい。お前の病気は、俺が治してみせる」

「私も手伝います!」

「大口は、俺を助けられるようになってから言え」

「うっ……はい」


 相変わらず手厳しい。


「ミスティア」

「はい」

「……感謝するよ」


 その日、殿下が見せた笑顔は……過去一番自然で、穏やかだった。

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