表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結!】貧乏令嬢、第一王子の騎士になる  作者: 日之影ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/39

日の光を恨む③

 殿下はそのまま仕事に戻り、書類に目を通す。

 私もそうするつもりだった。

 でも……。


「殿下」

「なんだ?」

「……聞いてもよろしいでしょうか?」


 どうしても気になってしまった。

 殿下があそこまで怒りを見せた理由を……。

 弟君の状態は?

 彼が頑なに王座を避ける理由が、そこにある気がして。


「何を聞きたい?」

「……ミトス殿下のことです」

「……」


 彼はピクリと眉を動かした。

 触れられたくない部分なのは明白だ。

 怒りを露にした直後で、きっと気持ちも高ぶっている。

 その怒りが私に向けられる覚悟もしていた。

 

「知ってどうする?」

「え?」


 思わぬ質問に動揺する。

 殿下は仕事の手を止めて、真剣な表情で私を見つめていた。

 私も彼と向き合う。


「それを知って、お前は何ができる? 何がしたい?」

「それは……」


 知りたい理由は好奇心?

 それもあるけど、根本は違う。

 知りたいと思ったのは、殿下が苦しそうだったからだ。

 王にならないと口にする時、殿下はいつも苦虫をかみつぶすような顔をしていた。

 その理由が知りたい。

 知ってどうしたい?

 私に……何ができるだろうか。


「私は――殿下の力になりたいです」

「――!」


 何ができるかなんて、考えたところでわからない。

 ただ、私のできる限りを尽くして、殿下の力になりたいと思った。

 方法は後から考えよう。

 私なんかじゃ役に立てないくらい、大変な秘密かもしれない。

 その時は、もっと努力して強くなろう。

 私は殿下を王にする。

 殿下の騎士であり続けるために。


「……ふっ、俺より弱い癖によく吠えるな」

「うっ、今はそうかもしれませんけど、必ず追いついてみせます! 私は諦めが悪いですから!」

「……そうだな」


 殿下が笑った。

 緊張がほどけたように。

 そうして立ち上がる。


「ついてこい。答え合わせをしてやろう」

「それって……」

「ちょうどいい機会だ。試したいこともある。リズとステラを呼べ」

「はい!」


  ◇◇◇


 ステラとリズに声をかけ、合流して殿下の後に続く。

 いつになくステラも表情が硬い。

 どこへ向かっているのか、彼女はわかっている。


「お話しする気になられたのですね、殿下」

「不服か?」

「いいえ、殿下がそう思ったのなら私も賛成します」

「そうか」


 リズは状況がわからないくて、キョロキョロしながら私に後ろにいる。


「あ、あのさ? 何なの? 私なんかしちゃった?」

「ううん。大丈夫ですよ」

「本当に?」

「リズ」

「はい!」


 殿下に名前を呼ばれてビクッと反応する。


「お前たちエルフの魔法理論は独特だ。俺たちにはない考え方を持っている。その視点から、意見を聞きたい」

「は、はい……わかりました」


 リズはよくわかっていない。

 私も、殿下が何をおっしゃっているのか理解できなかった。

 彼に会うまでは。


「入るぞ」


 部屋にたどり着き、無造作に扉を開けた。

 そこは寝室だった。

 カーテンが閉められ、昼間なのに暗い部屋に明かりがともっている。

 ベッドには色白の少年が座っていた。

 彼は殿下に気づき、笑顔を見せる。


「兄さま! 来てくださったのですね!」

「ああ、身体の調子はどうだ? ミトス」

「今日は調子がいいです!」

「そうか」


 この方が……ミトス・グランツ殿下?

 ベッドから普通に立ち上がり、ラインハルト殿下の元に駆け寄る姿は、どこも病んでいるとは思えない。

 ただ、異様に白い肌が特徴的で、手足も細い。

 まるで人形のような身体だ。


「ステラさんも来てくださったんですね」

「はい。お元気そうで何よりでございます」

「はい! えっと、そちらの方々は?」

「紹介しよう。俺の専属騎士のミスティアと、新しく侍女になったリズだ」


 ミトス殿下と視線が合う。


「あなたが兄さんに選ばれた騎士さんですね!」

「はい! ミスティア・ブレイブです。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。とても優秀な方だと聞いています」

「そ、それほどでは……」

「買いかぶりだ。まだまだ未熟だぞ」

「うっ……」

「そんなこと言って、兄さんが騎士に認めるなんて初めてじゃないですか。兄さんも期待しているんでしょう?」


 無邪気な笑顔を見せるミトス殿下に、ラインハルト殿下は目を逸らす。

 殿下も弟君の前では雰囲気が違う。

 なんだか優しい。


「リズさんは、エルフの方なんですね」

「は、はい」

「初めて見ました! とても綺麗ですね!」

「――! あ、ありがとうごあざいます」


 リズは顔を赤くする。

 ミトス殿下も、亜人種に対して偏見はない様子だ。

 まずはホッとする。


「ミトス、身体の状態はいいんだな?」

「はい。今日は曇っていますから」

「そうか」

「天気が何か関係あるのですか?」


 私が質問すると、どんよりした空気になる。

 聞いてはいけないことだったのだろうか。

 ラインハルト殿下が口を開く。


「ミトス。彼らを呼んだのは、お前の病気について相談するためだ」

「そうだったのですね。ありがとうございます」

「……見せてやってくれないか? 一瞬でいい」

「はい」


 見せる?

 

 ミトス殿下は窓際に近づく。

 締め切ったカーテンの隙間から、光が漏れていた。

 そこへ手をかざす。


 ジュッ――


「っ!」

「ミトス殿下!」

「大丈夫……です……」


 すぐにステラが駆け寄り、焼けた手のひらを診る。

 しばらくすると、傷が治癒を始めた。

 凄まじい速度だった。


「こ、これは……」

「吸血鬼?」


 リズがぼそりと口にした。

 そうか。

 亜人種の一つ、吸血鬼は日光に弱く、日光を浴びると燃え上がる。

 その特性と似ている。


「これが、ミトスが抱える病だ。日の光を浴びられない。まるで……吸血鬼のように」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ