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【第一部完結!】貧乏令嬢、第一王子の騎士になる  作者: 日之影ソラ


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日の光を恨む②

 リズを侍女にしたことは、王城中の誰もが知っている。

 当然だ。

 常に我が道をゆく大天才。

 その人が、新たに侍女を招き入れたのだ。

 しかもその侍女は人ではない。

 エルフの特徴を持っている。

 噂はあっという間に広がり、様々な声が王城で飛び交う。


「殿下は何を考えておられるのか。仮にも王族ともあろうお方が、亜人種を部下に加えるなど……」

「なんでもエルフの里から連れてきた者と」

「わからん。奴隷ならまだしも、侍女として迎え入れるなどありえんことだ」

「殿下のお考えは、我々には理解しがたいものですな」

「これでは国の未来も危うい。せめて弟君が回復されれば……」

「それこそ難しいでしょう。不治の病であれば」

(不治の病?)


 殿下のお使いで資料を持ち運び、廊下を歩いていると貴族たちの会話が聞こえてきた。

 盗み聞きしたつもりはないけど、ふいに聞こえてしまった。

 リズのこと。

 そして、殿下の弟君のこと。

 弟君は病弱で、あまり表舞台には出てこられない。

 私が知っているのはそこまでだ。


「不治の病って……」


 どういうことなのだろう。

 殿下に聞いてもいいものなのか。

 デリケートな部分だから躊躇われる。

 いいや、今はそれよりも……。


「エルフは国家転覆を企てているのだろう? 野蛮な種族め……」

「侍女になったエルフも、殿下を騙しているかもしれない。即刻罪人としてとらえ、拷問して情報を吐かせるべきだ」

「うむ。殿下に進言しても無駄だろう。陛下にお声がけをして」

「……」


 リズのことが心配だ。

 彼女はエルフのハーフだから、余計に王城では目立ってしまう。

 彼女のことを快く思わない人間に、危害を加えられるかもしれない。

 私がしっかり守らないと。


  ◇◇◇


「リズのことなら、お前が気にすることじゃない」

「ですが、周りの方はリズのことを……」

「そんなこと、初めからわかっていたことだろう? お前も」

「……」


 執務室で殿下のお仕事を手伝いながら、リズのことを相談した。

 彼の言う通りだ。

 亜人種への当たりの強さは知っている。

 彼女を連れ出せば、こういう反応になるのは当然だった。

 わかった上で、私は彼女に手を伸ばした。


「あの子もわかっている。わかった上で、お前の手を取ったんだ」

「そう……なのでしょうか」

「見た目よりよっぽど現実を見ているぞ。里できつい日々を送っていたからだろうな。どちらがマシかは、本人に聞かなければわからないが」

「……」


 せめて、里にいた頃よりものびのび生活してほしい。

 それだけを願う。


「リズのことは俺も気にかけておく。何かあれば対応しよう」

「ありがとうございます。やっぱり殿下、リズに優しいですね」

「何度言わせる気だ?」

「す、すみません!」


 殿下は小さくため息をこぼす。


「ラプラスの動向は依然掴めていない」

「――!」


 その名に反応する。

 エルフの里は、案の定もぬけの殻だった。

 行方を騎士団が追ってくれている。

 これをきっかけに、王国全体でラプラスを危険視する思想が広まった。

 今までは私たちが勝手に動いていたけど、これからは国の総力を挙げて対処するそうだ。

 

「エルフに獣人……おそらく他の種族も味方につけている。数は俺たちに劣るだろうが、彼らはそれぞれが何かに特化した種族だ。そのうち何か仕掛けてくるだろうな」

「そう……ですね。その前に見つけないと!」

「ああ。ん?」


 トントンと、ドアをノックする音が聞こえる。


「何だ?」

「アレクトロです! 殿下にお話があり参りました」

「そうか。入れ」

「失礼します」


 部屋に入ってきたのは中年男性の貴族だった。

 見覚えがある。

 この声も……さっきリズのことを廊下で話していた貴族の一人だ。


「話とはなんだ?」

「殿下、あのエルフをどうされるおつもりですか?」

「……リズは俺の侍女にした。そう伝えてあるはずだ」

「何をお考えなのです!」


 アレクトロは声を荒げる。

 突然のことで私はビックリして背筋がピンとなった。


「あれはエルフです。国賊と同じ種族ではありませんか! それを侍女になどと……国民が知ればどう思われるか!」

「勝手に決めるな。あの娘は俺を助けた。他のエルフとは違う。人間の血も混ざっているしな」

「だから何だというのです! そうして殿下の油断を誘っているだけかもしれない!」

「そんなっ――!」


 咄嗟に口を挟もうとして、威圧感に押されて口を閉じる。

 アレクトロは怒っていた。

 殿下は動じずに返す。


「それも含めて問題ないと判断した。何かあった時の責任は俺が取る」

「殿下! 殿下は次期国王となられるお方です! その殿下が、亜人種などに肩入れしていては、国民に示しがつきません!」

「はぁ……俺は王にはならないから関係ないな」


 また、殿下は王になる気はないと口にした。

 貴族の前ですら……。

 どうしてそこまで、王になることを拒むのだろうか。


「殿下はそうおっしゃいますが、現実を見てください。殿下以外に次期国王になれる方はおりません。ミトス様のご病気は治る気配もない!」

「……」


 ミトス……ミトス・グランツ。

 殿下の五つ下の弟君で、第二王子。

 殿下同様、次期国王の候補ではあるけど……彼は病にかかっているようだ。

 世間には病弱と伝えられているけど、その実態は……。


「ミトス様があの状態では、王座にはつけません! どころか命がどれだけ持つのかも……」

「黙れ」

「――!」


 初めて聞いた。

 殿下の低く、怒りに満ちた声を。

 場は凍り付く。

 先ほどまで威勢がよかったアレクトロも、殿下に睨まれて固まっていた。


「殿下……」

「話は終わりだ。出て行け……二度と弟の話をするな」

「っ……失礼します」


 バタンとしまった扉の音が響く。

 静寂と、気まずさだけが残され、なんとも言えない空気になった。

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