日の光を恨む①
「ほ、本当にいいのかよ?」
「よく似合っていますよ! リズ」
エルフの里から帰還した私たちは、エルフと人間のハーフであるリズを連れて戻った。
勢いで連れてきてしまったから、その後のことは考えていなかったけど、殿下が上手くやってくれたらしい。
彼女はステラと同じ、殿下専属の侍女として働くことになった。
侍女服を着たリズは落ち着かない様子だ。
「わ、私、ここに居ていいの?」
「殿下がそうおっしゃっているんだから大丈夫!」
「でも……私がいると迷惑がかかるんじゃ……」
「殿下がお決めになられたことです。何かあっても殿下が守ってくれます。私も後輩が欲しかったの
で大歓迎です!」
ステラも上機嫌だった。
後輩ができて嬉しいらしく、侍女服に着替えたリズをニコニコしながら眺め、勢い余って抱き着く。
「それに可愛いですね!」
「可愛っ! え! ちょっと!」
「そう思いますよね? ミスティアさんも」
「はい。リズはとっても可愛いと思いますよ?」
私とステラに可愛いと言われて、リズは顔を真っ赤にしていた。
相当恥ずかしかったらしく、暴れて離れてしまう。
「くっつくなよ! わ、私は半分エルフなんだぞ? いいのかよ!」
「何度も言わせるな」
黙って見守っていた殿下がついに口を開く。
呆れたような表情で続ける。
「俺がそう決めたことだ。誰も文句は言わせん」
「……」
「嫌なら出ていくことは止めないぞ?」
「ダメですよ! リズちゃんは私の後輩になるんですから!」
「ちゃ、ちゃんはやめて!」
「いいじゃないですか! 可愛いです」
「もぉー!」
ステラはリズのことをすっかり気に入ってしまったらしい。
エルフの特徴など気にしていない。
リズも嫌がっているけど、本気で避けてはいないし、内心は嬉しいのだろう。
ホッとする。
私はじゃれ合う二人を眺めながら、殿下に近づいて言う。
「ありがとうございます。リズのこと、本当は大変でしたよね?」
「まったくだ。面倒な手続きなどさせて……お前が勝手に連れてきたからだぞ?」
「す、すみません……」
「まぁ、あのまま放置もできなかったがな。もし残れば、何をされていたかわからない」
「はい」
殿下もなんだかんだ言って、リズのことを気遣ってくれたのだろう。
「何をニヤついている」
「いえ、殿下は優しいですね!」
「俺はいつも優しいだろ? もっと厳しくしてほしいか?」
「結構です!」
「ふっ、元気なやつだ。落ち込んでいるかと思ったぞ」
「……」
ラプラスの件は、何も解決していない。
エルフが敵だとわかったことで、殿下は直々に騎士団と宮廷魔法使いに命令し、エルフの里を抑えるために部隊を派遣した。
ただ、リズの話によれば、エルフの里は複数あり、そのうちの一つに過ぎない。
おそらく今から向かっても、誰も残っていないだろう。
「リズ」
「な、は、はい!」
「里の場所はわからないのか?」
「わからない……です。私には教えてくれなかったので……」
「そうか」
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はない。あの場でお前が俺たちを庇った。おかげで無事に脱出できたんだ。誇っていいことだ」
「……」
殿下の言う通り、彼女が行動していなければ大変なことになっていた。
脱出はできたかもしれないけど、無傷では済まなかったはずだ。
賞賛する殿下を、リズはじっと見つめる。
「なんだ?」
「あ、その……王子って、エルフのこと……嫌いじゃないんですか?」
「どうしてだ?」
「だって、人間は私たちが嫌いで、その王子だから……」
「そう教えられたのか?」
リズは小さく頷いた。
里で人間についてそういう風に教育されたらしい。
人間を信用するな。
近づくなと言われ、その教えを破った彼女の母親は非難された。
里に戻ってからの扱いも酷く、病になったのはそのストレスからだとリズは考えている。
「くだらん教育だ」
「……」
「俺は種族など、どうでもいい」
「どうでも……」
「見た目、種族、生活習慣……どれも個人を構成する要素に過ぎない。必要なのは俺にとって、有意義な存在であるかどうか。お前は俺たちを守った。そこの騎士よりよっぽど優秀だ」
「なっ!」
「言い訳があるか?」
「……ないです」
宴会に浮かれて暢気にはしゃぎ、毒を食らって動けなくなった無能は私です。
反省しなくては。
次から食事をする時は、殿下に聞いてからにしよう。
「次から気をつけます!」
「そうしてくれ。荷物を増やす気はない」
「はい!」
「ミスティアさんは前向きでいいですね! リズちゃんも見習いましょう」
「お、おう……そうだな」
リズが笑った。
少しずつだけど、私たちの前で笑顔を見せてくれる。
まだ緊張しているから、もっと慣れてくれたら嬉しい。
それにしても……。
「殿下、リズに優しいですね」
「俺は誰に対しても優しいだろ?」
「どの口が言っているんですかー?」
ステラがじとーっと殿下を見つめる。
「殿下は優しいですよ?」
「聞いたか?」
「ミスティアさんの優しい基準が低いんですよ!」
「そ、そうですかね?」
私の優しさ基準って低かったのか。
そういう環境で育ったから?
ちょっとショックだ。
「とにかくいいことです! 新しい仲間が増えましたよ!」
「ですね!」
「よ、よろしくお願いします!」
「ふっ、騒がしくなるな」




