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【第一部完結!】貧乏令嬢、第一王子の騎士になる  作者: 日之影ソラ


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エルフの里⑤

「私の母さんは里が好きじゃなくて、若い頃の家出したんだ。その先で出会ったのがお父さんらしい」

「駆け落ちみたいですね」

「似たようなものだったみたい。お父さんも貴族で、周りはお母さんとの結婚を反対したから、二人で逃げたんだって」


 逃げてばかりだよなと、彼女は笑いながら語ってくれた。

 宴会を皆が楽しむ中、私はリズから両親の馴れ初めを聞いている。

 どうやら割と最近の話みたいだ。

 エルフは見た目とは裏腹に高齢の方が多いけど、彼女は見た目通りの年齢で、今年で十五歳らしい。

 私よりも年下だったことには驚いた。


「しばらくひっそり暮らしてて、けどお父さんが病気で死んで……私はまだ小さかったから覚えてないんだけど、エルフのお母さんは大変だったと思う」

「……そうでしょうね」


 エルフは、というより亜人種は世界的に肩身が狭い。

 人間社会の中でははみ出し者として扱われる。

 彼らの社会的地位は低く、国によっては奴隷として扱われている場合も少なくない。

 私たちの国でも、貴族の中には亜人種を奴隷として飼っている者もいる。

 

「一人で子育てをするのはきつくて。だから里に戻ってきたんだ。でも、お母さんも病気で死んじゃって、私は里長に引き取られたんだ。里長は怖いけど、私をここまで育ててくれて、門番の役割もくれた。感謝してるよ」

「いいですね。じゃあリズにとって里長さんはお爺ちゃんですか」

「そんな恐れ多いこと言えるかよ」

「思ってはいるんですね」

「っ……うるさい!」


 話してみてわかった。

 彼女は普通の女の子と同じだ。

 エルフと人間のハーフだからって、私たちと何も変わらない。

 種族の違いなんて然したる問題じゃないんだ。

 きっと世間でも、人々の意識さえ変われば、彼らにとってもっと生きやすい世界になる。


「なぁ……外の世界ってどんな感じなんだ?」

「興味ありますか?」

「まぁ……だって、お父さんと出会った場所だし、私は小さくて覚えてないから」

「じゃあ今度、私たちの街に遊びに来てください! 案内しますよ」

「――! いいのか? 私、半分エルフだぞ」

「大丈夫です! 何かあっても私が守ります! これでも殿下に選ばれた騎士ですから!」

「……ホント、変な奴だな」


 彼女は私に笑ってくれるようになった。

 せっかく関われたのだから、一回だけの関係で終わりたくはない。

 願わくは、この先も友人になれたら……。

 

 こうして宴会が終わる。


「ご馳走になった。俺たちはそろそろ帰らせてもらうよ」

「ありがとうございました! リズもまたね?」

「……お、おう……またな、ミスティア」

「はい!」


 彼女は照れながらも、私の名前を呼んでくれた。

 それが嬉しかった。


「もう遅いです。宿泊されてはいかがですか?」

「そこまで世話になれない」

「そうですか……それは困りましたね」

「――!」


 あれ?

 身体が急に……。


 力が抜けて、膝から崩れ落ちる。

 殿下と一緒に。


「帰られては困るんですよ。せっかくの餌だ」

「――!」

「里長! これは……」

「リズは黙っていなさい」

「っ――」


 里長が倒れ込んだ私たちを見下ろす。

 身体が痛い。

 力も入らない。

 これはまさか……。


「毒?」

「左様です。あなた方の飲み物にだけ含ませていただきました」

「どうして? なんでこんなこと……」

「これを見ればわかるでしょう?」

「――!」


 里長は腕をまくり、腕に刻まれた黒い花の文様を見せた。

 それは紛れもなく、ラプラスの花。

 つまり彼らは……。


「嘘だったんですね! 断ったというのは!」

「当然でしょう? 我々は亜人種です。彼らが願う世界こそ、我々が望む理想世界……まさか王子自ら足を運ぶとは、驕りが過ぎましたね」

「っ……どうして? 友人だと!」

「ええ、友人でした。だが、彼はもういない。彼のいない国など私には関係ありません」

「そんな……」

「何を驚くのですか? 我々を迫害し、こんな場所に押し込めているのは誰ですか? あなた方人間がいるから、我々は自由に生きられない! そんな世界は間違っている! だからこそ壊すのです」


 ラプラスの思想。

 亜人種が自由に暮らせる世界を作るために、人間社会を破壊する。

 そのために国家転覆を企てている。

 理解した。

 私がこの里にきて感じていた不安は、彼らの中にあるどす黒い感情を感じていたからだ。

 魔力の流れには感情が現れる。

 私は無意識に、彼らの憎悪を察知していた。


「これまで幾度も協力してきました。有力な貴族を攫い、その財力を奪うことも……一度だけ失敗してしまいましたが、あれ以来失敗はありません」

「一度……」


 ふと、予感がした。

 その一度が、いつなのか。

 ラプラスは貴族を狙って襲撃している。

 お父様が最後に受けた任務は……。


「アーノルド・シレイツン大臣の護衛……」

「ああ、そんな名前でしたね。運のいい貴族だ」

「……」


 そうか。

 そうだったのか……。

 私のお父様を殺したのは――ラプラスだった。

 怒りで歯を食いしばる。


「安心してください。あなた方は交渉材料になる。殺しはしな……馬鹿な」

「まったく、話が長いな。そんなこと聞かずともわかっている」

「殿下!」


 殿下は平然と立ち上がり、膝についた泥をとる。


「なぜ? 毒を食らったはずなのに……」

「なめるな。俺は王子だ。毒には慣れさせてある。魔力を阻害されなければ、解毒も容易だ」


 殿下は私に触れる。

 ふわっと身体が軽くなった。


「立て」

「ありがとうございます」

「お前は他人を疑うことを覚えろ」

「すみません……」


 逆に助けられてしまうなんて情けない。

 ここから挽回しなくては。

 解毒は出来ても……。


「ふふっ、この状況の不利は変わりませんよ? 少々手荒になりますが、もう一度倒れていただきます」

「殿下」

「強引に突破するぞ」

「逃げられると思わないでください? ここは我々の森の中、容易には抜け出せない」


 森全体から敵意を感じる。

 里が隠されていたように、出口もわからなくされているのだろう。

 エルフと交戦しながら出口を探すのは、中々骨が折れそうだ。

 そう思った直後、煙が舞う。


「なんだ? この煙……」

「二人ともこっち!」

「リズ!」

「リズ! 貴様ぁ! 育てた恩を忘れたかぁ!」

「っ……」


 煙幕を張ってくれたのはリズだった。

 私たちは彼女に誘導され、混乱に乗じて出口を目指す。

 追ってくるエルフたち。


「邪魔だ」

「なっ! この壁は……」


 殿下が魔法で土の壁を形成し、追手を阻む。

 時間ができたことで、私たちは出口にたどり着けた。


「ここを出れば外だ」

 

 出ようとする私たちに対して、リズは立ち止まる。


「何してるの? リズも一緒に」

「私は無理だ。だって……」

「関係ないよ! 言ったでしょ? 私は気にしない! 私はリズの味方だよ!」

「――!」


 私は彼女に手を伸ばす。


「一緒に行こう! 王都を案内してあげる!」

「……うん」


 彼女は涙ぐみ、私の手を握ってくれた。

 こうして彼女の協力の元、エルフの里を脱出する。

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