青春に憧れて⑤
「凄く楽しいですね! 学園は!」
「……おい」
「はい」
「お前、ちゃんと仕事してたのか?」
「うっ――!」
夕方。
学園から戻った私は、殿下に一日の報告をした。
それはそれは楽しくて、有意義な時間だった。
テンションが上がった私は、ありのままを話してしまった……。
まずいことに後から気づく。
「いえ、その……」
「遊んでいたわけじゃないよな?」
「す……すみませんでした! 学園生活が楽しく過ぎて、聞き込みを忘れていましたぁ!」
私は素直に話して謝罪した。
誤魔化しても無駄だと諦めたのだ。
絶対に怒られる。
私は頭を下げたまま震える。
「はぁ……一人にしたのが間違いだったか」
「すみません」
「まったく聞き込みをしなかったのか?」
「いえ、二人だけ……仲よくなったので」
「……顔を上げて情報を言え」
私は顔を上げると、殿下は椅子に座って私が話すのを待っている。
怒ってはいない様子だった。
「怒らないのですか?」
「情報次第だ。何も得られてなかったら、罰を受けてもらうぞ」
「ばっ、はい!」
怖いけど、頭ごなしに怒らないあたり、彼なりの優しさだと感じた。
とりあえず二人から聞いた情報を伝える。
「学園の中で消える……か」
「はい。全員かどうかはわかりませんが、そういう噂があるそうです」
「なるほどな」
「あの……役に立ちそうですか?」
「それはこれから次第だ」
殿下は椅子から立ち上がり、部屋を出ていく。
私も慌てて後に続く。
「どちらに?」
「学園だ。今の時間なら生徒もいないし、自由に動ける」
「今からですか! もう真っ暗ですよ」
「怖いのか? なら留守番していても構わないぞ」
「怖くないです! 殿下が心配なだけです!」
「ふんっ、俺の心配などする暇があったら、自分の腕を磨け」
◇◇◇
私たちは夜の学園にやってきた。
なんだか不気味だ。
あれだけ人がいた場所に、今は誰もいない。
警備兵が門に配置されている以外、学園内は無人だ。
「ここで消えるというなら、秘密は学園の中にある」
「秘密……攫われた生徒たちは、まだ学園にいるということですか?」
「さぁな。秘密の部屋でもあるのか。探知に引っかからない転移の魔法陣があるのか。どちらにしろ、何か隠されているのは確かだ。そしておそらく、魔法によって隠されている」
「なぜそう思うのですか?」
「ここは魔法を学ぶ場だ。魔法を使っていても誰も疑わない。木を隠すなら森の中、ということだ」
確かに……。
十五人もの生徒が消えて、学園側も完全に放置していたとは思えない。
探したはずだ。
加えて多くの生徒たちが在籍し、毎日通っている。
誰にも気づかれず、隠し通せるとすれば、魔法以外にはない。
だったら……。
「魔力の痕跡を……」
「どうした?」
「探っているんです。魔法によって隠されているなら、痕跡が残ります。それを掴むことができれば……」
魔力操作を極めていくと、自身の魔力だけではなく、相手の魔力の流れを感知できるようになる。
さらには魔法発動の際に生じる魔力の流れや痕跡、予兆を感じ取ることで、先手を取ることが可能となった。
私には魔法を扱う才能はない。
ただ、流れる魔力を制御する技術を、七年間ひたすら磨いた。
おかげで私は高い魔力操作の技術と、それに伴う魔力探知が可能となった。
人が多く、魔力の流れが乱れていた昼間とは違う。
私たち以外誰もいない今なら……。
「感じます……わずかに魔力の流れ。私たちじゃありません」
「――! どこからだ?」
「遠い……深い?」
「地下か」
「はい。おそらく」
「辿れるか? 魔力の流れを」
「やってみます!」
私は殿下を引き連れ、魔力の痕跡を辿る。
「魔力操作はセンスだけでは成長しない。地道な努力による積み重ねで、精度は極められ、より確かなものに昇華される」
私の背後から、殿下の言葉が響く。
それは殿下から私への、純粋な賞賛の言葉。
「一つ、認めてやろう。魔力操作に関しては、お前は俺を越えている」
「――! 本当ですか!」
「今のところそれだけだがな」
「頑張ります! 他の全部も、殿下を越えられるように!」
「本気か?」
「もちろんです! そのために今も毎日特訓してますから!」
専属騎士になってからも、毎朝の訓練は欠かさない。
一日の終わりに反省会をして、課題を見つけて対策ををとったり。
職場が変わっただけで、今までとやっていることは同じだ。
訓練は私の日課になっている。
地味だし、成果が出るのはずっと先かもしれないけど……。
「……お前は諦めないんだな。俺を見ても」
「はい? 何をですか?」
「何でもない。そろそろ静かに進もう。俺も感知できる距離になってきた。警戒しろよ」
「はい!」
何かが隠されている。
私たちは空き教室の床に、魔法で偽装された扉を見つける。
開けると地下へと続く階段になっていた。
魔力の流れが濃くなる。
この先に何かがあるのは明白だった。
そして――
私たちがたどり着いたのは、研究室のような部屋だった。
見慣れない魔導具が並んでいる。
驚くべきは、緑色の液体の中に、人間が入っていることだ。
「見つけたぞ……」
「――!」
マントとローブで身体を隠した何者かが、私たちに気づく。
顔は見えない。
けれど、私は感じ取っていた。
彼の魔力を……。
「そんな……先生?」
【作者からのお願い】
短編版から引き続き読んで頂きありがとうございます!
本日ラスト更新でした!
ぜひともページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から、お好きな★を頂ければ非常に励みになります!
ブックマークもお願いします。
ランキングを維持することでより多くの読者に見て頂けますので、どうかご協力お願いします!
次回をお楽しみに!




