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青春に憧れて③

 学園の中を歩くのは初めてだった。

 憧れを抱いたことのある場所だ。

 不謹慎だけど、ちょっとワクワクしてしまう。


「キョロキョロするな。不審者か」

「す、すみません! つい……」

「そんなに珍しいか? ただの建物だ。規模は王城とさして変わらないだろう?」

「それはそうですが、ここは魔法使い最高峰の学び舎です。自分には縁遠い場所だとしても、少し憧れてしまいます」


 もしも私に魔法使いとしての才能があったら、騎士団ではなくここで学んでいたかもしれない。

 騎士団は好きだし、父に習った剣術を極める道に後悔はない。

 ただ、他の道があったかもしれないと、時折思うことがあるだけだ。


「お前は魔法使いになりたかったのか?」

「そういうわけではない……と思います。剣術は好きです」

「ふっ、好きか。贅沢ものだな」

「殿下は違うのですか?」


 あれだけの剣技、魔法を身につけている。

 才覚だけでは手に入らない強さだ。

 間違いなく殿下は、私が見ていないところで努力されている。

 

「俺にそんな感情はない。剣も魔法も、ただ必要だったから身につけただけだ」

「必要……それは王族として、ですか? ですが殿下は……」


 次期国王候補でありながら、国王になる気はないとおっしゃった。

 王になる気がないのなら、彼は何のために努力し、力を身につけたのだろう?

 彼を王にするために、私はその理由を知らなくてはならない。


「無駄話が過ぎたな。そろそろ講義が終わる。生徒たちに聞き込みをするぞ」

「は、はい!」


 まだそれを聞けるだけの関係値を築けていない。

 殿下が何を考えているのか。

 彼の心に踏み込むために、もっと信用してもらわないと。


 講義が終わり、ベルが鳴る。

 生徒たちが講義室からぞろぞろと出てくる。

 殿下は適当に生徒を見つけて、声をかけた。


「ちょっといいか?」

「はい? なんっ――ラインハルト殿下!」

「殿下が学園に?」

「え、え? どういうこと?」


 案の定、殿下の存在に生徒たちが驚いてしまった。

 物珍しさに集まる生徒もいれば、怯えたように逃げていく生徒もいる。

 声をかけられた男子生徒は、完全に固まっていた。


「少し話を聞きたいんだがいいか?」

「は、はい! な、なんでしょうか?」

「ここ最近、生徒の失踪が相次いでいる。何か変化はないか?」

「と、特には……ありません」

「そうか。ならもういいぞ」

「はい! 失礼いたします!」


 生徒は逃げるように去って行く。

 殿下は次の標的を見定めるように周囲を見渡した。

 生徒たちは目を逸らす。

 自分には話しかけないでくれと願うように。

 その様子に、殿下はため息をこぼす。


「はぁ……面倒だ」


 殿下と視線が合う。

 何を言いたいのか、口にしなくてもわかった。

 私は頷く。


「後は頼んだ」

「はい」


 それからずっと、殿下の代わりに私が聞き込みを行った。

 殿下は私の後ろで、退屈そうに黙っていた。


  ◇◇◇


 翌日。


「まさかの単独……」


 殿下から直々に、今日は一人で調査してこい、と命令されてしまった。

 昨日も実質私一人で聞き込みをしていた状態だ。

 殿下が一緒だと、周りの生徒たちが緊張してしまい、上手く情報が聞き出せなかった。

 さすがに困るので、殿下は別ルートから探るらしい。


「こっちは任せたとか言われてもなぁ」


 私は学園の生徒じゃないし、建物の構造にも詳しくない。

 適当に歩いていたら普通に迷ってしまいそうだ。


「あれって昨日、殿下と一緒にいた騎士だよな?」

「今日は一人なんだな」

「……」


 殿下ほどではないにしろ、私も注目を集めている。

 昨日の今日でもう噂が広まったのだろうか。

 殿下は有名人だから、その隣にいる私にも興味を抱くのは普通のことだろう。

 こんな形で殿下の役に立つことは予想外だ。

 できればもっと格好いい形で、私の存在価値を示したかったなぁ。


「はぁ……」


 なんて落ち込んでいても始まらない。

 私は気を取り直して、聞き込みをすることにした。

 とりあえず、誰かに話しかけよう。

 ぐるっと見渡すと、派手な薄黄色の髪をした女子生徒と目が合った。


「すみません。少しお時間よろしいですか?」

「は、え? 私ですか?」

「はい。お聞きしたいことがあるのですが」

「はい! フィーナ・アントーク! 二年生です! 得意魔法は回復系です!」


 突然の自己紹介が廊下に響く。

 聞きたいのは彼女のプロフィールではなかったのだけど……。

 困っていると、ぽかっと彼女の頭を男子生徒が叩いた。


「痛っ! 何するのさ! ジン!」

「てんぱりすぎだ馬鹿。困らせてどうする?」

「馬鹿っていうな! 成績はあんまり変わらないでしょ!」

「そういう意味じゃねぇよ。というか変わらなくないだろ? 俺のほうがどう考えてもいいだろうが!」

「なんだとぉー!」


 二人でいがみ合い、喧嘩を始めてしまった。

 そのほうがよっぽど困る。

 私は慌てて仲裁する。


「あの、落ち着てください!」

「あ、ごめんなさい!」

「これは失礼しました。お見苦しいところをお見せして」

「いえ、えっと……」


 ここからどうすればいいのか。


「申し遅れました。俺はジン・パスウェルといいます。ラインハルト殿下の専属騎士、ミスティア・ブレイブさんですよね?」

「私のことをご存じなのですか?」

「有名ですよ。あの大天才に認められた逸材だと」

「そ、そんなぁ……」


 照れて顔が赤くなる。


「私も凄いと思います! 尊敬しています!」

「あ、ありがとうございます」


 なんだか久しぶりな気がする。

 純粋に褒められたのは。

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