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青春に憧れて②

 休日を終えた翌日。

 私はラインハルト殿下の騎士に復帰した。

 今日からまた頑張ろう、と意気込んでいたのだが……。


「あの殿下……ここって……」

「知らないわけないだろう?」

「も、もちろん知っています! ここは……」


 私の前にそびえたつのは学び舎。

 グラニカ王国最大の教育機関であり、多くの貴族や才ある者たちが通う場所。

 王立魔法学園。

 その名の通り、魔法を学ぶための場所である。

 王都で暮らす者なら誰もが知っている。

 世界三大教育機関の一つだ。

 魔法使いとしての才能が希薄な私には縁のない場所だったけど、この国に生まれた者として憧れは感じていた。


「どうしてこちらに? 本日はこちらで業務があるのですか?」

「何を言っている? 生徒が学園に通うことに理由が必要か?」

「え……えぇ! 殿下もここの生徒だったのですか!」


 私は声を上げて驚いた。

 魔法使いとしてすでに卓越している殿下が学園に通う必要があるのか?

 という驚きより、殿下が学園に通っていることそのものに対して驚いている。

 殿下の性格を考えると、仲間と共に切磋琢磨したり、誰かに学ぶような環境は合わない気がした。


「お前……何か失礼なことを考えていないか?」

「い、いえ! 学園に通っていたことを知らなかったので……」

「ふんっ、形上だけ在籍しているが、ほとんど講義には出ていないからな」

「ほとんど……では、参加されたことがあるのですか?」

「入学時に一度だけな。学園の講義がどんなものか確かめたかった」


 その後は一度も通っていないという。

 結果は聞くまでもなかった。

 が、殿下が苛立ちながら勝手に話し始める。


「あれを受ける価値はない。時間の無駄だった」

「あはははっ……」


 そりゃ殿下の魔法使いとしての実力を考えたら、学園の講義なんて退屈なだけだろう。

 ではなぜ、わざわざ学園に席を設けているのか?

 単純な理由だ。

 学園を卒業することが、魔法使いにとって一つのステータスになるから。

 平民、貴族に問わず、優秀な魔法使いは誰もが学園の卒業生だ。

 おそらくは宣伝と、学園の拍を保つ意味合いもあったのだろう。

 あの大天才も学んだ学園!

 という風に周囲が見れば、学園の評価も上がるから。


「くだらない印象操作だ。そんなものに協力する義理はない」

「でも、籍は残していらっしゃるんですね」

「父上がどうしてもとうるさくてな」

「……」


 自分勝手かと思えば、父である陛下のお願いには応えている。

 肉親にはそこまで横柄ではない?

 彼の性格からは意外だった。


「なんだ?」

「いえ、なんでもありません。殿下が学園の生徒であることはわかりましたが、どうして今になって足を運ばれたのですか?」

「これを見ておけ。歩きながら説明する」

「は、はい!」


 殿下から資料を手渡され、学園の敷地内へと足を踏み入れる。

 学園は王城と、貴族たちが暮らす区画の間に位置しており、鉄柵で囲まれた区画がそのまま学園の敷地内である。

 この敷地内にいる間は、学園の生徒として平等に扱われる。

 身分の差は関係ない。

 貴族も、平民も、王族であっても。

 便宜上そうなってはいるが、身分格差はあるらしい。

 私も噂に聞く程度で、実際はどうかわからない。

 気になるが、今は渡された資料に目を通す。


「失踪事件……」

「そうだ。ここ数日……正確には二か月ほど前から、学園の生徒が行方不明となる事案が起こっている」


 報告書には行方不明になった生徒のリストが記されていた。

 現時点で十五名。

 うち五名は貴族であり、その中でも一人、王都でも有名な貴族の名があった。

 今まで不穏な失踪がありながら大事にならなかったのは、行方不明者が平民や辺境の貴族だったからだろう。

 資料にはようやく、騎士団への調査依頼を出すことが決まったと書かれていた。


「随分と対応が遅いですね」

「くだらんプライドのせいだ。学園側も、生徒の失踪を隠そうとしていた。問題になれば、学園の信用失墜に繋がる」

「貴族のご子息が行方不明になり、隠しきれなくなったと」

「そういうことだ。俺に報告が来たのもつい昨日のことで……肩書や身分で命の優劣を決めるなど、神にでもなったつもりか」

「殿下……」


 殿下はいつになく苛立ちを見せている。

 学園側の対応に怒っている様子だ。

 ただ、それだけが理由ではないように思えて……。


「もうわかるな? 俺がここへ来た理由が」

「はい。行方不明になった生徒の捜索と、原因と調査ですね?」

「そうだ。騎士団も動かすが、学園側が余計な真似をしないとも限らない。証拠を隠蔽される前に、俺たちで解決する。一日休んだ分、お前にも働いてもらうぞ」

「はい! 頑張ります!」

 

 私はピシッと背筋を伸ばして返事をした。

 普通の態度のつもりだったけど、殿下はキョトンとした表情で言う。


「やけに嬉しそうだな」

「すみません。不謹慎だとは自覚しているのですが……殿下が私に頼ってくださることが、嬉しかったので」

「――!」


 殿下は驚く。

 無自覚だったのだろうか?

 殿下なら、一人で解決できるから助けなど必要ないと。

 そうおっしゃると思っていた。

 だから意外だったし、嬉しかった。

 お前にも働いてもらうぞ、と言ってくれたことが。


「……これも試練だ。お前が有用か確かめるためのな。せいぜい成果を示せ。先日のように情けない姿を見せれば、その時点でクビにするぞ」

「大丈夫です! 今度はちゃんとお役に立ちます!」

「この間は怯えていた奴がよく言えるな」

「はい。私は恐怖しました……でも今は、その恐怖を乗り越えられると知っています。だから大丈夫です!」

 

 失敗や経験から学んでいく。

 今までもそうだった。

 私は殿下のように天才じゃないから、地道に積み重ねていくしかない。

 失敗しても落ち込んでいたら成長できないから、どんなに苦しくても前だけは見続けると決めている。


「ふっ、前向きな奴だな」

「それが取り柄なので!」

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