大天才の素顔④
七年前のパーティーで、イジメられていた私を助けてくれた人。
私に道を示してくれた。
名前も名乗らず、また会おうと言ったのは……。
「あれは、殿下だったのですね」
「ん? なんだ? 気づいていなかったのか?」
「殿下は覚えていらっしゃったのですか? 七年前のこと」
「ふっ、忘れていたさ。お前を見るまでな」
殿下はニヤリと笑みを浮かべる。
「てっきり俺だと気づいていると思ったが、お前は鈍感だな」
「だ、だって! 名前も教えて頂けませんでした」
「名乗らずともわかるだろう? 俺は王子だぞ?」
「それは……そうですが……」
私はあまりパーティーなどに参加していなかった。
両親が他界してからは、あのパーティが最後だ。
殿下とお会いする機会などなく、遠目で見たことがある程度だった。
さらに場所が外だったから、月明かりしなくて顔がハッキリ見えていない。
「意地悪だったな。あの頃のお前に察しろというのは酷だったか」
「いえ……気づけず申し訳ありません。殿下は覚えていらっしゃったのに」
「忘れていたと言っただろう?」
「ですが、私を見て思い出してくださいました。もしかしてあの時、私の要望を受け入れてくださったのは……」
私がかつて、助言を受けた少女だと気づいたから?
殿下は呆れたように笑う。
「俺はお人好しじゃない。昨日、お前の剣を交えたのは、お前の態度が気に入ったからだ」
「態度、ですか?」
「あの場でお前だけだ。この俺に本気で勝とうとしていたのは」
「――! も、申し訳ありません」
「なんで謝る? 俺は褒めているんだぞ? 俺のことを知っていながら、尚挑む奴なんてそういない。だから受けた。言葉だけの偽者か、本物の強さを持つのか知るためにな。お前は証明したんだ。自分の存在価値を」
「私の……」
七年間を費やして強くなった。
誰にも、ブレイブ家やお父様を悪く言われないように。
あの日、強くなればいいと教えられたから。
「ありがとうございます! 殿下があの日、教えてくれたおかげです」
「気まぐれだ。まっ、それが今になって芽吹いたというのは、なんとも因果な話だがな。運命という奴だろうか」
「運命……ですか。そうだと嬉しいです」
「お前……笑っているほうがいいぞ」
「え?」
唐突に、殿下は私の顔をじっと見つめる。
より近く、顔を近づけて。
お互いの顔しか見えないほどの距離感。
私の心臓が加速する。
「せっかくいい顔をしているんだ。俺の前で笑顔を心掛けろ」
「は、はい! 精進します!」
いい顔なんて初めて言われた。
心臓がドキドキする。
「さてと、しゃべりすぎて疲れた。俺は二度寝する」
「え」
「ダメですって! 早く着替えますよ!」
「面倒だぁ。手伝ってくれ」
「もぉー! すみません、ミスティアさん! 殿下のお着替えをするので、少し外で待っていてくださいませんか?」
「は、はい。わかりました」
殿下の着替えをステラに任せて、私は部屋の外に出る。
ばたんと扉をしめて、一呼吸置く。
「……大丈夫なのかな」
凛々しく真剣な姿と、だらしなく抜けた姿……。
果たしてどちらが本物なのだろう?
その後は朝食、ではなく時間的に昼食をとり、午後からはお仕事に励む。
王子は国王陛下の次に多忙だ。
殿下の執務室のテーブルには、山のような資料が積まれていた。
「今日中にお願いします」
「面倒だな」
「文句を言わないでください!」
二人してため息をこぼす。
殿下は嫌々言いながら、目の前の書類を片付けていった。
「あの、ステラさん、いつもこんな感じなんですか?」
「ステラでいいですよ。いつも通りです」
「そうですか……」
「すみません。せっかく今日からお仕事なのに待たせてばかりで」
「いえ! こうして専属騎士の任に付けたのも、殿下が私を起用してくださったからです。感謝しております」
「いい心がけだな。そのついでにこの仕事を代わりにやってもいいんだぞ?」
「殿下ぁ!」
ステラが注意して、殿下は舌打ちをする。
この二人は王子と侍女というより……姉弟みたいだ。
体格的には殿下がお兄さんだけど、やっていることは手のかかる弟に世話を焼く姉である。
「えっと、補助でしたらできると思います」
「お、じゃあ頼む」
「ミスティアさん。あまり殿下を甘やかさないほうがいいですよ。すぐ調子に乗りますから」
「いえ、私も何かしていないと落ち着かなくて」
専属騎士の任務は、日常的な殿下の護衛だ。
何か危険が迫った時に対処する。
それが基本。
特に危険がなければ、ただ立っているだけで一日が終わってしまう。
何もしていないとサボっているような気がして、なんだか申し訳なくなってしまうのだ。
「ミスティアさんは真面目な方ですね。殿下も見習ってください」
「俺もやる時はやっているぞ」
「いつもちゃんとしてください! 殿下は次期国王候補なんですよ! もっと自覚をもってください」
「だから、俺は王になる気はないと言っているだろう?」
「え? そうなのですか?」
そう言えば、そんな噂もあったような気が……。
あれは事実なのか。
「王なんて窮屈な立場、俺には向いていない」
「では誰が王になるのですか?」
「さぁな。勝手に拾ってくればいい」
「無茶を言わないでください」
あれ?
殿下には弟君がいらっしゃったはずだ。
殿下がならないのなら、弟君が国王の有力候補になる。
どうして二人の会話に、弟君が出てこなかったのだろう?
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