Bar Aliens
涙した。
-少ししょっぱい。
私はそう呟いた。
隣の席にあった温もりはすでにもう冷めきっていて、それは私たちの関係のようだと思えた。
私は店の外に出た。
見上げれば鈍色の空を背景にチラチラと白い雪が舞っている。
振り返ると店の看板はcloseに変わるところだった。
まだお客さんが残っていたように思えたけど、それはきっと常連の人なんだろう。
特別な時間があの店では始まっている。
私の時間は今止まったと言うのに。
彼とは5年の付き合いだった。
婚約指輪は貰えなかったが、そのような話は何度かしたことがあった。
別れ話をする雰囲気は確かにあった。
いつもと違う、用件だけの静かなメッセージがそれを予感させていた。
二人の行きつけのバーに着くと彼はもう待っていて、案の定。
-好きな人が出来た。
ただ、そう告げられて。
-君とはもう付き合えない。
はっきり突き放されて。
-これで終わりにしよう。
勝手に幕引きされた。
最後の逢瀬は15分もかからず終わり、私はそこに一人残された。
それからしばらく一人でお酒を飲み続け。
今に、至る。
一人で歩く、真夜中の繁華街。
少し惨めな気持ちになった。
もう戻らない彼に対しての未練はない。
ただ、もう戻らない時間に対しての未練は大きかった。
行く宛もなく、終電もない。
タクシーで帰るには遠すぎるが…
-仕方ない、散々な日に大きな出費が重なるが、諦めよう。
私は、タクシーを捕まえる為に大通りへ向かって歩き出した。
そして、少し歩いた所で一軒のバーが目に入った。
「…エイリアンズ?」
【Bar Aliens】
入り口の上に立てつけられた煌煌と光る看板にはそのように記されている。
赤レンガの壁、手すり付きの小上がりの階段、黒い重そうな扉。
何度かここは通ったことがある。しかし、こんなお店はなかったはずだ。
不思議な雰囲気。絶対に見たことないはずなのに、昔から存在してるかのような熟成された雰囲気。
引き寄せる魅力がそこにはあった。
-入ってみようかしら。何時までやっているかは知らないけれど、始発の時間まで営業していたら最高ね。
今思えば魅了されていたのかもしれない。
バーに向かって歩き出し、5段程度の階段を登ると、私は扉に手をかけた。
これが、新しい出会いの始まりになるとは思いもよらなかった。
初小説です。
非常に遅筆ですが、頑張ります。
応援よろしくお願いいたします。