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その1

トントントン……。


深夜、アスファルトを革靴が鳴らす音が響く。暑い夏だったが、この時間にもなれば少しは涼しい。住宅街にも関わらず、どこからか虫の声がする。


足早に歩いて、本日の対象に近づく。対象は、八十を超えた老人であり、情報能力に乏しいらしい。

対象まで、五メートル。四、三、二……。

対象の肩を叩き、仕事の開始を告げる、合言葉の様なセリフを吐く。


「迷い人様、お迎えに上がりました」


送迎社。俺が働いている会社の名前である。表向きとしては、タクシー会社ということになっているらしいが、俺はこの会社における、本業の方を担当している。


「この会社において、我々は生きた人間を送迎するのでは無い。死んでなお、行くべき場所に行けない方々を送迎することが仕事である。これは、国家において認められた……」

正式な仕事であるが、一般人の不安を煽ってはいけないため、秘密裏に行なわれている。その事を忘れないように、だ。


この話を何度聞けばいいんだろうか。

入社して三年、業績としては上の下。適性検査でズタボロにされながらも、努力で個人業績の上層にくい込んだ。


「では、職務に励むように」

会議が終わったので、さっさと仕事に向かおうとする。仕事は真面目にするに限る。ダラダラとしていては、いい仕事はできない。


「坂上、ちょっといいか」

前で話していた本部長が俺に声をかけてきた。臨時の仕事だろうか。

「お前と今日から一緒に仕事をするやつを紹介したいんだ。ちょっと来て欲しい」

「はぁ」


本部長に連れられて、何故か休憩室にたどり着く。一緒に仕事とは、どういうことなのだろうか。そもそも、なんで休憩室なんだ。


「……いるな。では坂上、紹介しよう。こちらは、今日から君と共に仕事をする、風音二兎(かざね ニト)だ」

本部長が手で指し示す先には、ただのソファがある。

ソファを背中から見ているから見えないのだとすると、こいつは子ども並に小さいのか……? と思ったその時、ソファの背から、靴下をはいた足が飛び出てきた。


「あ、ホンブチョー? え〜、何? 今日からこいつと仕事一緒にすんの?」

いる。何者かがいる。にしても、態度がデカイな。

「……何者なんですか、この人は」

小声で本部長に聞くと、本部長も困っている顔をしていた。

「こいつは……大変優秀なのだが、まぁ見ての通りだからな……坂上なら、風音を教育出来ると思って」

一緒に仕事っていうのは、社員の教育って事だったのか。


「……承知しました。初めまして、私は坂上」

「坂上貴翔(きしょう)。名前、知ってるよ〜。適性検査ボロボロだったんでしょ〜? よくこの会社入ったね」

なんだ、こいつは。社会人ともあろうものが、仕事関係において初対面の相手に、敬語も使えんのか? ニトと言うやつは、足を揺らして、勢いをつけて起き上がる。


「一応、オレここ五年目。坂上より先輩だよ〜?」

「せん……ぱい?」

社会人と言うよりも学生の見た目をしている。スーツすらまともに着こなせていない。本当に先輩なのか、この人は。


「一応、仕事は出来るんだ。君の足を引っ張らないとは思うが……頼んだぞ」

そう言うと、本部長は逃げるように休憩室から出ていった。

二人しかいない空間で、空調の音だけが聞こえる。


「と、とにかくいきましょうか。風音さん」

そう言ってソファにいるままの風音さん……に声をかけると、次の瞬間、眉間になにかぶつかった。何かが落ちる音がして、床を見ると、袋に包まれた飴玉が落ちていた。


「意外とどんくさ〜。そんくらい取ってよね。あと何その作り物感ありありの話し方。貴翔じゃなくて、キショーって感じ?」

な、なんだこいつは……!


「あのなぁ! だいたい先輩ならもっとちゃんと」

「はーいはい、わかってるっつの。ほら、行こうよキショー。仕事、今日は今から行かないとダメなやつでしょ?」

軽い身のこなしでパッと立ち上がり、てれんてれんと休憩室の扉に向かって歩いていく。


なんで、こいつと仕事することになったんだ俺は。

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