第8話 メイドの嫌がらせ
私は時計を見た。
もうすぐ殿下が公務を終えて私の部屋に来る時間だった。
私の部屋にいらしたら、まずはお風呂にゆっくりと入ってもらって、一日の疲れを取り、汗を流していただく。
そのあと何をするかは言うまでもない。
私の生活は文字通り三食昼寝付きだ。
働く必要はない。
ここでのことも全てメイドがやってくれるので、ただ私は美しくしていて、殿下から愛されていればいいのだ。
夢のような生活だった。
ソンベルト家では、男爵令嬢だったが、頭首のソンベルトから様々な嫌がらせを受けて冷遇されていた。
それに比べてここは天国だ。
あと5分ほどでエドワードが来る。
私はお風呂がちょうどいい湯加減になっているかを確認しに行った。もちろんお湯を沸かして、浴槽に適温の湯をはるのはメイドの仕事だ。私は何もすることが無い。
「あら!」
浴槽は空だった。
確かさっきまでお湯で満ちていた。
私は浴槽の肌を触った。
温かいし、湿っている。
間違いない。
誰かが直前に湯を抜いたのだ。
「ローザ!」
エドワードの声がした。
「はーい。今洗面所にいるの。すぐに行くから」
「分かった」
私は浴槽に手をかざした。
「水と火の精霊よ」
またたくまに湯が浴槽に満ちた。
私は笑顔でエドワードの待つ部屋に戻った。
「このドレスはどうかしら」
「大変よく似合っております」
エドワードが買ってくれた新しいドレスだ。
今日はエドワードの母君、つまり女王が三人で会食をしたいということで、念入りにドレスアップしているところだ。
「もうすぐね」
王宮の会食の間に行く時間だった。
「これはお下げしてもよろしいですか」
メイドが私が飲みかけて残した紅茶を下げてもいいかと訊いた。
「ええ」
そのメイドは私の側を抜けて出てゆこうとした。
その時、そのメイドがよろけて転んだ。
飲みかけの紅茶は私が着ている新品のドレスにかかった。
ドレスには大きな茶色い染みができた。
「申し訳ございません」
メイドが謝った。
だが、ぺろりと舌を出したのを私は見逃さなかった。
私は洗面所に駆け込んだ。
「あらあら、洗面所で号泣するつもりかしら」
「あの姿じゃ、女王様の前には出られないものね」
そう小声で言って、嘲笑するのが聞こえた。
私が洗面所に駆け込んだのは泣くためではない。
能力を使うところを見られたくないからだ。
私は水の精霊を呼んで、ドレスを着たまま水の渦で洗濯をした。
そのあとは、風の精霊と火の精霊の力で瞬間的にドレスを乾かした。
数秒後、私は綺麗になったドレスで洗面所から出てきた。
「ちょうど時間ね。女王様との会食に行くわね」
私がパニックになって泣きはらした顔で出てくるのを期待していたメイドたちは、目を丸くしていた。
「あら、どうしたの」
私はメイドたちに訊いた。
彼女たちはうつむいて震えていた。
彼女たちにこれ以上、かまっている暇はなかった。
なにせ愛しのダーリンのお母様が待っているのだから。
私は鼻歌まじりで王宮の廊下を歩いた。
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