第7話 殿下の愛妾になります!
「きゃああああああ」
女性の悲鳴で起こされた。
「せ、聖女様が……」
私を指さしてメイドが震えていた。
自分の姿を見た。
一糸まとわぬ姿で、エドワードと寝乱れたベッドの上にいた。
メイドが助けを求めるように部屋から出て行った。
それから数時間後、私は御前会議で審問を受けることになった。
枢機卿が司会役だった。
「それで、猊下、いや、コホン。ローザ殿がエドワード王子と男女の関係になったと言うのは事実なのだな」
横には私がエドワードのベッドに裸でいたことを目撃したメイドが証人として来ていた。
「はい」
「ローザ殿はこの告発の事実を認めるか」
「はい」
私は胸を張って言った。
そう答えながら、思わず頬が緩んで笑みがこぼれた。
でも、同時に恥ずかしくて頬が熱くなった。
私のリアクションとは反対に御前会議の空気は凍りついた。
「何ということだ……」
王が頭を抱えて絶望したような声を絞り出した。
枢機卿は放心したような表情で天を仰いだ。
「それで枢機卿、ローザの聖女としての力は?」
「もちろん全て失われました」
御前会議に出席していた者、皆のため息が聞こえたように思えた。
実は御前会議が始まる前に、父である精霊神が再び私の前に現れた。そして、何があっても私の特別な能力が失われていないということは秘密にしなさいと言った。
「どうしてなの?」
「予言では聖女は、純潔を失うと神通力も失われるとされる。だが、それは一般人の場合だ。お前はワシの子だから、そんなことで力が失われたりしない。むしろ、愛する対象を得て、その愛する者を守る気持ちから力はより強くなるだろう」
「別にそれを言っても差し支えないのじゃない」
「娘よ。お前の幸せを思ってのことじゃ」
「私の幸せ?」
「ああ、お前は王子と一緒になりたいのだろう?」
「はい」
「お前が教皇の座を降りても、軍隊の師団以上の力を有していることが広まればどうなると思う。政治の世界の陰謀の中心になるぞ。お前の力を軍事利用しようと他国からも工作員が来て大変なことになる。愛する人と結ばれて、一緒にいるという幸せが台無しになる」
私は父に抱きついた。
「ち、近いぞ」
「大好き。そこまで私のことを思ってくれたのね。お父さん、ありがとう!」
「よいな。今はまだお前の力を公にする時ではない」
「はい」
―――「それでローザ殿をどうするかだが」
父の言葉を思い出していたが、私の名前を呼ばれて現実に引き戻された。
「父上、私はローザと結婚します!」
エドワードが立ち上がって言った。
「ならぬ!」
「どうしてですか!」
「お前には民の失望が分からぬのか。100年ぶり、いや数百年ぶりに大聖女が降臨したのじゃぞ。民はこれからは大聖女による神様のご加護で、豊作に恵まれ、平安な世になると狂喜していたのが昨日のことだ。それが、お前と愛し合い、神通力を失って、ただの女性に戻ったと知ったらどうなる!」
エドワードはうなだれた。
「お前たちが正式に結婚して、ローザが王女になるなんて火に油を注ぐようなものだ」
王は吐き捨てるように言った。
「では、どうしたらいいのですか」
「陛下、側室にされては」
大臣が進言した。
「ならぬ。子が生まれて、その子が王位継承権を得ることになるというのであれば、民が納得しないだろう」
「では、ローザを放り出すおつもりですか」
「それも困る。一日であっても教皇としてこの国のトップにあった人間を放りだして、他国や犯罪組織に利用されたりしたら、それこそ国の威信にかかわる」
「ではどうしたらいいのですか」
「エドワードよ。お前はどうしてもローザが好きなのか」
「はい」
「ローザよ。貴殿は息子エドワードと教皇の座を捨てまでもどうしても一緒になりたかったのか」
「はい」
「なら、仕方ない。ローザをエドワードの愛妾とすることなら認める」
「そ、そんな。ローザを愛妾にするなんて!」
エドワードが怒って立ち上がった。
「それ以外は認めない」
王がエドワードに負けない大声で言った。
私はやりとりの意味がよく分からなかった。
「ねぇ、エドワード、愛妾って何?」
エドワードは苦い顔をした。
「君を侮辱するような話だ」
「私は意味がよく分からないのよ」
「愛妾というのは、文字通り妾のことだ。子供が生まれても王位継承権はない。王族の愛玩具として王宮の奥で囲われる存在だ。僕は、そんな風に君のことをしたくはない」
エドワードは泣きそうだった。
「ねぇ、それってエドワードと王宮で一緒に暮らせて、愛し合えるってことよね」
「そうだ」
「公務はあるの?」
「公務? そんなもの一切ない」
「生活費とかはどうするの」
「王宮で囲われるのだから、すべて私持ちだ。身の周りの世話をする専属のメイドも複数付く」
「ということは、何の公務も仕事もしないで、ただエドワードから愛されていればいいっていうことなの」
「まあ、そういうことになる」
(なんて素晴らしいの!!)
私は権力欲の強いソンベルト男爵の家で、貴族の世界の裏で行われる権力や名誉をめぐっての醜い陰謀の数々を知っていた。王女になれば、そういう貴族社会に身を置くことになる。公務だって大変だ。それが無いのだ!
私が黙ってしまったので、エドワードは私がショックを受けていると勘違いしたのか、ごめんねを連発していた。
私は顔を上げた。
そしてにっこりと笑った。
「もちろん、お受けします。エドワード王子の愛妾で結構です」
「ローザ!」
エドワードが驚きの声をあげた。
「殿下、私は殿下と一緒にいられれば、あとは何もいりません」
「では決定だな」
王が重々しく言った。
こうして私は、殿下の愛妾になった。
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