第22話 ご成婚パレード
「ローザ様、お美しゅうございます」
サラが涙ぐみながら言った。
これから始まる大聖堂での結婚式の前にウェディングドレスの着付けをチェックしているところだった。
「もうお時間です」
控室に行くと国王が私を待っていた。
「王子のところまでは私がエスコートする」
やさしい笑顔でそう言った。
「陛下、よろしくお願いいたします」
教会の大聖堂には、連盟を結んだ諸国の王や王妃が来ていた。
貴賓席の数が足りないと執事たちが嘆いていたのを思い出した。
「今日の聖堂は全席が貴賓席みたいなものだな」
横にいる陛下が会堂を見回し、冗談まじりに言われた。
陛下のエスコートで祭壇の前に行った。
ステンドグラスから漏れる光が虹のように輝き、私を待つエドワード王子を照らしてくれた。
私は、祭壇で神に永遠の愛を誓った。
エドワードは私の顔にかかった白いヴェールをあげると、永遠の愛の誓のキスをしてくれた。
王子からこんなにも愛されて幸せだった。
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「どけ邪魔だ」
俺はパレードを見ようと群がっている群衆をかき分けた。
前の場所を陣取った。
不思議なことに俺のいる場所だけ周りに人がいない。
「なに、あの人、臭い」
すいている場所があると思って俺の側に出てきた若い女性が顔を歪めて、俺のそばから逃げてゆく。
俺の放つ悪臭で群衆が避けてくれるなら好都合だ。
俺は鞘に収まっている魔剣の柄を握った。
『死の接吻』の魔法がかかったこの短剣で切られたら死ぬ。
回復魔法も蘇生魔法もこの『死の接吻』の前では無力だ。
「大聖堂での式での王子様がローザ様に愛の誓いの口づけをするところでは本当に観ていて泣いたわ」
後ろのババアが何かほざいていた。
「式に出られたのか?」
「抽選に当選したのよ」
「あれは1万分の1の当選確率だぞ」
そんなやりとりを聞きながら、ローザが次に受ける接吻は俺の短剣の『死の接吻』だとほくそえんだ。
この『死の接吻』も永遠だ。
地獄に送ってやる。
その時、観衆がどよめいた。
ローザを乗せた馬車が来たのだ。
俺は身をかがめて目立たないようにした。
馬車が近づく。
俺は静かに短剣を鞘から抜いた。
大通りに出た。
本当にローザの周りには警護の者がいない。
まさか大聖女は暗殺されることが無いとでも思い込んでいるのか。
これなら殺れる。
俺はローブの下に凶器を隠して近づいた。
俺の行動に気が付いて、沿道の警備をしていた剣士が慌てて駆け寄ってくる。
だが、もう遅い。
ローザの馬車は目の前だ。
俺は、馬車に飛び乗ろうとした。
その時、体が浮いた。
「な、何だ」
ものすごい突風だ。
ローブがはだけ、手にした短剣が飛ばされた。
「あっ! 短剣が」
短剣が空高く舞い上がる。
まるで翼が生えたようにどこまでも、どこまでも遠くに短剣が飛んでゆく。
俺は下を見た。
「なな、なんだ!?」
俺も風にあおられるようにして飛翔していた。
風にもみくちゃになり、飛ばされてゆく。
「うあああああああ」
俺は体がぐるぐる回り、上がったり、落とされたりした。
どのくらいの時間そうしていたのか分からない。
突然、落下して地面に叩きつけられた。
あまりの衝撃に息ができなかった。
「ゲホッ、ゲホッ」
俺は体を起こした。
どこかの村の広場に落ちたようだ。
なんだか見覚えのある風景だ。
「おーい。空から人が降ってきたぞ」
その呼び声に、村人が集まってきた。
俺は短剣を探した。
無かった。
村人を見た。
「これは! もしかしてソンベルト男爵ですか」
どこか見覚えがあると思ったら俺の領地の村のようだ。
助かったと俺は思った。
「そうだ。ワシじゃ、お前らの領主のソンベルトだ」
私は胸を張って威厳のあるところを見せようとした。
「それにしても臭いな。本当に落ちぶれちゃったんですね」
「不当な陰謀に巻き込まれてこのありさまだ。さっそくだが、風呂と食事と新しい服を用意しろ」
「何か勘違いをしてませんか。俺らはもうあんたの民じゃない」
「そうだったな。忘れていた。ちゃんと礼はする。だから風呂と食事を頼む」
村人は顔を見合わせた。
「ところで、今のお前らの領主は誰だ? ブタダール公爵か?」
「本当に知らないんですか」
「知らん」
「ローザ公爵様ですよ」
「なに! ローザだと。しかも公爵?」
俺は混乱した。
「それはそうと、あなたが領主をしていた時のことでお返しをしなくてはならないものがあります」
「おおそうか」
(なにか、こいつらに貸しがあるらしい。よかった。さっきお礼をすると言ったが金はもうないので、その貸しとやらで相殺しよう)
「これからお返ししてもよろしいでしょうか」
「ああ、よかろう」
「おーい。皆に伝えろ」
村人たちが呼ばれて集まってきた。
みんな手に鋤や鍬などの道具を持っている。
山刀などの物騒なものを手にしているものもいる。
俺の食事のために獲物を屠殺して、目の前でさばいて、焼いて食べさせてくれるのだろうか。
「ソンベルト様、覚えておいででしょうか」
農夫の女が進み出た。
「私の娘は、税が払えないということで、あなたが公爵を接待するために作った人間狩りの村に連れて行かれました」
「俺の娘もだ」
「私の息子も狩る楽しみのためだけに連れて行かれて殺された」
「ということですよ、元男爵。ワシらはこんな日が来ることをずっと願っていたんです」
村人の殺気が伝わってきた。
「よ、よせ。謝る。この通り謝るから、頼む殺さないでくれ」
「殺す?」
「そんなことはしませんよ」
俺は安堵した。
「王都の治安部隊に突き出すと言うのか。よかろう。たしかに追放されたのに戻ってくることは罪だ」
「なに寝ぼけたこと言っていやがる。今度はてめぇの番なんだよ。このボケが」
「な、なんだ」
「今度はお前が狩られる番だ」
「今から30秒やる。その森に逃げろ。逃げて逃げまくれ。それを俺達が狩る」
「よ、よせ」
「狩られた俺達の子供たちがどんなだったのかをお前にも味あわせてやる」
俺は逃げ出した。
冗談じゃない。
こんなところで、あんな卑しい奴らに狩られるなんてまっぴらごめんだった。
俺は走った。
だが、何日もまともな食事をしていないので、足がもつれて、速く走れない。
後ろから鬼のような形相の村人が道具を手にして追いかけてくる。
心臓が張り裂けそうだった。
俺は、俺は……
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
♡♡♡♡♡♡♡♡
「ローザ、今、何かあったか?」
「さあ、なんでしょう」
誰かが馬車の前に来たように見えた。
だが風が吹き、その者は消えた。
もしかすると見間違いなのかもしれない。
パレードは最後に王宮前広場を一周して終わった。
私達は王宮に戻るとバルコニーに立った。
王宮前広場に集まった大勢の群衆に手を振った。
群衆からどよめきが聞こえた。
空を見ると見事な虹がかっていた。
しかも虹は一つではなかった。
いたるところに虹が出ていた。
国中の空に虹がかかっているようだった。
「父からの婚姻のお祝いかもしれない」
私はエドワードに言った。
エドワードは私を抱き寄せるとキスした。
民衆の歓声は一段と高まったが、私の耳にはもう外の音は聞こえていなかった。
ただエドワードだけしか見ていなかった。
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このあと次の連載を投稿する予定です。
『王女の護衛剣士、魔法剣士になりリベンジする〜悪役令嬢の王女の陰謀で無実の罪で投獄されて婚約も破棄されましたが最強の魔法剣士になり、はめた相手にお返しします〜』という作品です。
悪役令嬢の王女に無実の罪で投獄され、婚約者から婚約を破棄された女剣士が、獄中で間接魔法を取得し、脱獄して男装して魔法剣士となり自分をはめた相手に仕返しする話です。
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