第21話 暗殺 【ソンベルト視点】
(ローザめ。忌々しい)
俺は空になった杯を握りしめた。
つい力が入り拳の骨が白く浮き出る。
「もう閉店だ。出て行ってくれ」
「うるさい。俺は客だぞ」
「料理も頼まないで、一杯の酒だけで、ずっと店にいられて、独り言をブツブツ言っていて気持ち悪いんだよ」
店主らしい黒いシャツを着た男が腕まくりをして言った。
体格は倍以上ある。
腕には斬り傷がある。
酒場の亭主をしているが元傭兵か冒険者だったのかもしれない。
腕に覚えがあるから強気なのだろう。
俺は黙って酒場を出た。
フードを目のあたりまで深くかぶり、何週間も洗っていない服を着ていた。
見た目もうさんくさく、悪臭も漂うのだろう。
どこに行っても嫌がられた。
ローザのせいで国外追放されてからは、こうして放浪の生活を送っていた。
街の大通りは夜を徹して装飾を施す作業が行われていた。
「何をやっている?」
俺は気になって作業員に訊いた。
そいつは値踏みするように俺を下から上まで見た。
「知らないのか?」
ぼそりと言った。
「ああ」
「救国の大聖女ローザ様の名前は聞いたことがあるだろう」
(聞いたことがあるだと? 一生忘れない。俺を破滅させた憎い奴だ)
俺の反応に構わず、作業員は続けた。
「明日はいよいよ、エドワード王子様とのご結婚だ。御前中の挙式と昼の各国の諸侯を招待しての披露宴のあとに、午後3時からご成婚のお披露目のパレードがこの大通りで行われる予定だ。だから夜を徹して飾り付けをしているってわけだ」
作業員は誇らしげに語った。
「本当か」
「お前はどこから来た。国中で話題の慶事を知らない奴がいたとはな」
「パレードは午後3時からなんだな」
「なんだやっぱり興味があったんだな」
「コースは?」
「大教会聖堂から出発して、この大通りを抜けて王宮前広場に行き、最後に王宮に戻る」
「でも、さぞかし警備は厳重だろうな。俺なんかが沿道で見ていても、警護員の顔しか見えないんだろうな」
「警護員はつかないよ。知らないのか」
「警護員で囲まないのか?」
「そんなことをしたら国民と触れ合えないし、お披露目にならないというローザ様の意向で、屋根の無い馬車に王子とローザ様は乗られて、周りを警護の者で囲んだりはしないそうだ」
(ローザは馬鹿なのか? だがこれは絶好のチャンスだ)
「もっともローザ様には警護なんて必要ないがな……」
俺はもうその作業員の言葉を聞いてはいなかった。
大通りを歩きながら、懐の短剣の柄を握りしめていた。
この短剣は護身のために追放になった時に屋敷から持ち出したものだ。
ただの短剣ではない。
魔剣だ。
これで切られたり、刺されれば、かすり傷でも死ぬ。
死の接吻と呼ばれる対物魔法の効果が永続する貴重な短剣だ。
護衛がいないのなら簡単だ。
明日のパレードでローザを襲い、この短剣で体のどこかを傷つける。
それでローザはおしまいだ。
結婚式のあとのパレード。
幸せの絶頂で不条理な死を迎える。
それこそ、俺をこんな目にあわせた奴にふさわしい最後だ。
運命の女神は最後に俺に微笑んだ。
(待っていろ! ローザ。明日がお前の最後だ)
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