第2話 精霊の力
「いた」
「何体いる」
「ざっと見て15体くらい」
「よし、やるわよ」
エルフの弓と魔道士の魔法で一度に敵は半減した。
「せいい――」
女剣士がロングソードで斬り込み、ゴブリンの首をはねてゆく。
私は魔道士の横にいるように言われた。
「あと2体でかたがつくわね」
その時、森の木々がざわめいた。
「なに!?」
エルフが驚いて叫んだ。
「どうしたの?」
「敵が、ゴブリンが、ぞくぞくと湧いてくる」
闇の向こうから何かがうごめいて進んでくるのが見えた。
「何体なの?」
「100……、いや200……、それ以上だ!」
「戻ってきて! 撤退よ!」
魔道士が女剣士に叫んだ。
「なに?」
森の中からオークのような巨大なゴブリンが現れた。
「ゴブリンロード!」
それを見て魔道士が絶望したように呻いた。
「どうしたの? 何が起きているの?」
「敵の戦力を見誤った。ただのゴブリンの群れでなくて、ゴブリンロードに率いられた軍団だった。私達では太刀打ちできない」
女剣士が戻ってきた。
「逃げるのよ」
私達はもと来た道を駆けた。
すると前方に赤く光る目がたくさん待ち受けていた。
「くそう、こんな時にさっき追い払ったマジックウルフが仲間を連れて戻ってきやがった」
エルフがウルフに矢を射た。
ゴブリンは魔道士が魔法で攻撃した。
すぐそばまで来たゴブリンやウルフを女剣士が斬り捨てた。
三人は私を円の中心とする陣形で、密集隊形で闘った。
「矢が尽きた!」
「私のMPも、そろそろ枯渇するわ」
「私の剣の刃も刃こぼれして来た」
ゴブリンとウルフの数はいっこうに減らない。
いや、むしろさっきよりも増えている。
「もはやこれまでか」
私は息を飲んだ。
「悪かったな。ローザ、お前のことを守れなくて」
女剣士はそう言うと、短刀を私に投げ渡した。
「あいつらに捕まるくらいなら自害した方がマシだ。これを先に使え」
私は鞘から短刀を抜いた。
自害の方法など知らなかった。
これでどこを切ればいいのだろうか。
空を仰ぎ見た。
月が移動していた。
日付が変わったのだろう。
17歳の誕生日のその日に私はこの森の中で魔物の餌か玩具になり朽ち果てて逝くのだ。
短刀を逆手に持ち胸に突きたてようとしたが、できなかった。
(お願い。神様、助けて。あの魔物たちから私達を助けて)
私は心の中でそう叫んだ。
「な、なに」
魔道士が驚きの声をあげた。
地面が揺れて立っていられなくなった。
見るとゴブリンが地面に転がっていく。
ウルフも足を取られている。
いきなり、火炎が上がった。
そして、竜巻のような突風が吹き、髪の毛が舞い上がる。
「きゃああああああああああああああ」
地震と突風と火炎のすさまじさに、今まで魔物の攻撃に耐えてきたエルフが恐怖の叫び声をあげた。
地震と突風が収まると、私は恐る恐る辺りを見回した。
ゴブリンと狼の死骸が連なっていた。
生きている魔物はいない。
「見ろ」
女剣士がゴブリンの首を指して言った。
「刀で斬られたようだろう」
「どうやったらこんな風になるの」
「風だ。突風で真空を作り出し、肉を斬る魔法があると聞いたことがある」
「でも、一体誰が」
「それにどうして私達4人だけが無事で、300体以上いたゴブリンと狼の群れが全滅しているの?」
皆が私を見た。
「さっき、あなた精霊神の子だって言ったわよね」
「え、ええ」
「これだけのことは魔法でもできない。それに魔法を使った痕跡もない」
「大地が揺れ、炎が焼き尽くし、風が斬る」
「天地を司る精霊神でなければできないことよ」
「ま、まさか」
「ええ、そうよ、あなたがやったことか、それともあなたを守るために精霊がやったことかのどちらかよ」
私はパニックになった。
「私がやった? 簡単な魔法一つ使えないんですよ」
「手を出して」
「はい?」
「いいから手を出して」
魔道士に言われて手を伸ばした。
「心の中で火を念じて」
「でも……」
「いいから、やってみて」
「きゃああああ」
私の手から炎が上がった。
「風を念じて火を消して」
言われた通りにした。
掌に小さい竜巻が出来て、火が消えた。
「ゴブリンたちをやったのは、あなたよ。間違いないわ」
私は自分に起きたことがまだ理解できなかった。
女剣士が辺りを確認して戻ってきた。
「これをやったのがローザの力だとすると、ローザ一人で軍隊の旅団並の攻撃力だよ」
森を見ると木々は炎に焼かれ風でなぎ倒され、さらに地震で大地が割れていた。
さっきまでとは地形までもが変わっていた。
「とにかく、ここはいったん、町に戻ろう」
「そうね。ゴブリンも退治したしね」
戻る道すがら皆無言だった。
まだ起きたことが信じられない様子だった。
森を出かけたところで、騒ぎが起きていた。
「また魔物か」
「違う。人間同士の争いだ」
エルフが言った。
「山賊か」
「そもそもこんな時間にこんな場所を旅する奴はいない」
「近づいてみよう」
「あ、あれは」
「なんだ」
「隣国の王家の紋章が馬車に描いてある」
「じゃあ?」
「多分、来賓していた隣国の王子一行だろう」
「それが賊に襲われているのか」
「いや、あの統制のとれた動きは、山賊なんかじゃない」
「だとすると……」
「軍属だ」
「じゃあ、異国の王子を軍属が暗殺しようとしているところに出くわしたというのか」
「たぶんそうだ」
私も前に出て見た。
王子の警護の者に対して、襲っている人数は3倍以上いるように見えた。
馬車が止まった。
攻撃を受けている。
扉が開いた。
(間違いない。エドワード王子だわ)
私は駆け出した。
エドワード王子は王宮での舞踏会で私のことを見初めた。
だが、一目で恋してしまったのは私の方だ。
あの日から、私は王子のことばかりを想っていた。
王子は敵に囲まれていた。
王子の警護の剣士が斬られた。
私は王子の元へ急いだ。
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