第17話 救国の大聖女【エドワード王子視点】
(おかしい)
私は向かいに座っている白い仮面をかぶった救国の大聖女を見て思った。
さっきから何を訊いても答えない。
そればかりか、落ち着かない態度で何かに怯えている様子だ。
どう見ても神の使いで、一個師団をも凌駕する力を瞬時に発揮できるようには見えない。
「大聖女様には、これまでやられて来たのと同じことをしていただけばいいだけです。乾いた土地を耕すために地震のようなものを起こされましたね」
仮面の大聖女がうなずいた。
「それを敵兵の足元に向けてやっていただき、そのあと耕作地を増やすために森を一つ焼き払ったのと同じように、軍勢に向けて火を放って下さい。それだけで、敵の前衛の1万人は総崩れになるはずです。あとは竜巻のような突風で追撃してくだされば、敵は総崩れとなり、敗走し始めるはずです」
大聖女を観察した。
膝が揺れている。
震えているのだ。
「いつもの通りにやればいいだけです」
横に座っている司令官はそう言うと勝利を確信したような笑い声を上げた。
馬車には、救国の大聖女と特別警護兵が一人と司令官と私の4人だけだった。
司令官以外は誰も笑わなかった。
「時に、大聖女殿」
私の声に、大聖女はビクッと震えた。
「その仮面を取ってもらえないかな」
「ダメです」
初めて大聖女が口を開いた。
「何故だ」
「出来ないものは、出来ません」
「理由も無くか? 貴殿に一国の運命をかけておるのだぞ、顔くらい、見る権利はあるはずだ」
「ダメです」
「それとも顔を晒せない理由でもあるのかな」
「……」
「聖女の仮面を取れ」
警護兵に命じた。
「殿下」
「これは命令だ」
「やめて」
警護兵が仮面をとった。
「あ、お前!」
「知っているのか?」
「殿下、こいつは見世物小屋の芸人です」
「ほお」
「扇子から水を出す芸をしている奴です」
「私は、救国の大聖女が芸人出身でも構わない。その代わり大聖女としてこれから10万人の軍隊の前に一人で立ってもらうがいいか」
「殿下、お許し下さい。私はただの芸人です。大聖女の名をかたってお守りを売って儲けていただけです」
「なんだと、では奇跡は起こせないのか!」
横にいた司令官が叫んだ。
「助けて下さい。手品しかできません」
女はそう言うと泣き出した。
「殿下、いかがされますか。もうあと30分もしないうちに最前線です」
「私が撤退したら、前線で敵の侵攻を命がけで食い止めている兵はどうなる」
「でも、ここで殿下を死なせるわけにはいきません。兵には足止めのための捨て駒になってもらい。撤退しましょう」
「それは出来ぬ。わが軍はこの前衛の部隊しか集まっておらぬ。この前線が突破されたら、一気に王都まで敵は侵攻してきて国が滅びる」
「でも……」
「せめて各地から徴兵した兵が王都に着くまで、この前線を守る。私が陣頭で指揮して兵の士気を高める」
「でも、それでは」
「これは王に次ぐ最高指揮官の命令だ」
「ははっ」
その時、馬車が大きく揺れて傾いた。
馬車が止まり、扉が開いた。
「殿下、投石機の投石と火矢が馬車に当たりました。早く避難されてください」
私は馬車から飛び出した。
そして剣を抜いた。
「皆の者、よく聞け! エドワード王子だ。敵の侵攻を許すな。ここで敵を食い止めるのだ!」
「おお!!」
兵士たちが私の声にこたえた。
前方を見た。
息を飲んだ。
巨大な投石機が並んでいた。
さらに弓兵、槍兵がずらりと並んでいる。
その後ろには騎兵がいる。
(あの数が攻めてきたら1時間ともたないな)
だが、撤退するつもりはない。
逃げてもあとがない。
国を守るのが王族の務めだ。
唯一の心残りはローザだ。
ちゃんと別れを告げることなく出てきてしまった。
それに、いつか王に認めさせて正妻に迎えるつもりだった。
しかし、それも今となってはかなわぬこととなった。
(ローザ。すまない)
読んでくださりありがとうございます!
読者の皆様に、大切なお願いがあります。
もしすこしでも、
「面白そう!」
「続きがきになる!」
「期待できそう!」
そう思っていただけましたら、
ブクマと★星を入れていただけますと嬉しいです!
★ひとつでも、★★★★★いつつでも、
思った評価で結構です!
テンションが上がって最高の応援となります!
踊りあがって喜びます! なにとぞ、よろしくお願いいたします。




