第16話 偽物の大聖女
「ローザ様、大変です」
「サラ、どうしたのそんなに慌てて」
「ローザ様の偽物が出てきました」
「私の偽物?」
「とにかく一緒に街まで来て下さい」
私はサラと街に出た。
バザールの奥の広場で人だかりがあった。
「あれです」
近づくと私が変装用に使っている仮面をつけて、ローブを着た女性がいた。
「我こそは、民を救うために神が遣わした使い」
そう言うと手の先から水を出した。
子供の玩具の水鉄砲くらいの勢いと量だった。
「おおお、救国の大聖女様だ」
「見たか、今の奇跡を」
「話に聞いたとおりだ」
群衆からはそんな声がする。
偽物聖女の隣にいた修道服を着た女性が、水の入った小瓶を販売し始めた。
「救国の大聖女が清めた聖水が入ったお守りですよ。これがあれば、家内安全無病息災間違いなしです」
「それを4個」
「俺は10個だ」
見ていると、その水の入った瓶は飛ぶように売れていった。
「あれは何?」
「見ての通りです。救国の大聖女の名前をかたり、ああやって商売をしています」
私は馬鹿らしくなった。
「どうします?」
「どうって、ここで私が自分の正体をバラすわけにもいかないし……」
「そうですね」
「とりあえず王宮に戻りましょう」
王宮に帰ると大騒ぎになっていた。
「どうしたの」
私は王宮に残ってたメイドのアンナに訊いた。
「大変です。アルテイド王国が攻めてきました。戦争です」
「なんですって」
その日の深夜に疲れ切った様子でエドワード王子は私の部屋に来た。
「明日、出撃することになった。前線まで行くので、当分は会えなくなる」
つらそうな声だった。
「でも、普通王族は後方で指揮を取られるものではないですか」
エドワード王子は厳しい顔で私を見た。
「ごめんなさい。素人の私が軍事に口をはさんで」
「いや。君の言う通りだ。だが、今回は事情がある」
「王子が前線に行かれるなんて、どんな事情なんですか」
「救国の大聖女だ」
「まあ!」
私は驚きの声を思わずあげた。
「知っていると思うが、決して姿を見せなかった救国の大聖女が、数日前から王都の広場に来て、お守りを売っていた。父の家臣たちは、救国の大聖女は戦争が起きることを予知していて数日前から広場に来て、民の動揺をおさえるためにお守りを販売していたのだと言っている。そして、今回の戦争は救国の大聖女が助けてくれるはずだと言っている」
「でも、戦争ですのよ」
「救国の大聖女が行ったことを王国調査団が詳細に調べた。救国の大聖女は大地を2つに裂き、風や水を自在に操り、森も一瞬で燃やし尽くすことができる。その力を軍事に転用すれば、一国の軍隊の総力をも凌駕するとのことだ。だから、今回のアルテイド王国の侵攻も救国の大聖女一人で食い止めることができるのだという」
「……」
「今日、王の使いが救国の大聖女の元に行き、明日、一緒に前線まで行ってもらうことになった。そこで、王に救国の大聖女に同行するように命じられたんだ」
(そんな。あの広場にいたのは偽物よ。水を出したのは大道芸人の芸のたぐいで奇跡を起こす力はないわ)
「ねぇ、その救国の大聖女は本物なの?」
私はやっとの思いで、そう言ってみた。
「分からない。というより僕は違和感を持っている。ローザに初めて会った時のような胸のときめきや、特別感がまるで無いんだ」
「……」
「ごめん。変な意味じゃない。愛しているのは君だけだ。そういう意味じゃなくて、君よりも遥かに高い能力があるはずなのに、君が僕を助けてくれた時に感じたような何かが何も感じないんだ」
私は何も言えなかった。
翌朝、エドワード王子は、私の偽物の救国の大聖女と一緒の馬車で、戦地に向けて出発した。
私は直ちにメイドたちを集めた。
「ねぇ、皆、どうしたらいい」
「殿下と一緒にいる大聖女は偽物です。このままでは殿下も一緒にやられてしまいます」
「でも軍隊が殿下をお守りしているでしょ」
「敵の奇襲攻撃を受けて兵の数が足りません」
「どういうこと」
「我が国は常設の部隊の数はそう多くありません。戦争になると国中から徴兵をして兵を集めます。でも、まだ全国各地からの兵が集まりきらないでいます。王都に駐在している即応部隊のみですので、数では劣勢です」
「どのくらいの差があるの」
「国境を越えて来たアルテイド軍の軍勢は10万と言われています。これに対して、王都の常設部隊は数千です。急いで徴兵して、補充しておりますが、おそらくはまだ1万にも満たないと思います」
「そんな!」
「王と王の臣下は、あの偽物を本物だと信じているので、救国の大聖女一人で10万の軍勢に匹敵すると思っています」
「分かったわ。私が行く」
「ローザ様」
「仮面とローブの支度をして」
「はい」
私は仮面をつけると、ベランダに向かった。
メイドたちは勢揃いしていた。
中には泣いている者もいた。
「ローザ様、どうかご武運を!」
私が飛び立つ時に、サラが叫んだ。
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