第15話 ソンベルト男爵の誤算【男爵視点のざまあ】
「今月の税収は? 予算通りか?」
「それが……」
「バカモノ。それなら払えないヤツの娘を例の村に連れてゆけ。派手に見せしめとしてやれ」
「ははっ」
(どいつもこいつも馬鹿ばかりだ)
エレドランド王国のエドワード王子の暗殺を失敗してから宮廷での立場が悪くなった。
男爵はそもそも最下位の爵位だ。
それに領地は隣国と接する辺境だ。
なんとしても王と大貴族に取り入り、せめて伯爵までにはなり、領地も拡大しなければならない。
「陛下」
執事が部屋に入ってきた。
男爵ごときに「陛下」は大げさだが、屋敷では使用人にそう呼ばせていた。
「なんだ」
「ブタダール公爵がお見えになりました」
「おおお、そうか」
王に一番近い立場のブタダール公爵には秘密の趣味があった。
少女を陵辱して殺す趣味だ。
しかも相手が逃げて、抵抗すればするほど燃え上がるらしい。
その性癖を知ったソンベルトは、税金を収めることができない村人の娘を辺境の村に罰として収容した。
そして、村の裏の森に獲物として少女を解き放ち、狩りに興じるという接待を発案した。
前回、接待した時に、ブタダール公爵はただでさえ広い鼻の穴を大きく広げてハアハアして喜んでくれた。
「ソンベルト男爵、貴殿の国を思う尊い志はよく分かった。近いうちに子爵になることができるように推薦しよう」
そう帰り際に約束してくれた。
ソンベルトはさっそく公爵を人間狩りの村に案内した。
「な、何だ」
村に着くと、村は跡形もなく消滅していた。
狩りのあとに接待をするための豪華な宿泊所や食堂も消えていた。
「何があったのだ」
「大地震と山火事です。全部なくなりました」
見ると村の奥の森も焼失していた。
「何で早く報告しない」
「それが、まだ数日前のことで……」
「村人はどうした」
「行方不明です」
「コホン」
後ろを振り向いた。
ブタダール公爵が怖い顔をして自分のことを睨んでいた。
「君には失望したよ。そうそう、子爵の件はこういうことがあるようでは難しいと思い給え」
公爵の馬車のドアが閉まった。
「こ、公爵、お待ち下さい」
だが、公爵を乗せた馬車は行ってしまった。
(このままではまずい)
ソンベルトは焦った。
(金だ。金を積んで公爵に謝罪するしかない)
だが、飢饉で税収は落ち込んでいて、男爵家にはそんな大金は無かった。
「その後、ルークから報告は?」
家臣に訊いた。
「いえ、何もありません」
ルークたちを隣国に略奪に行かせた成果がそろそろ出ているころだ。
もし、まだ略奪の最中なら一緒に村や町を襲ってもいい。
「屋敷に戻るぞ。それから兵の用意をしろ。遠征だ」
武装した20騎の兵士を連れて男爵は国境に急いだ。
(兵士と村人を盗賊にしておいてよかった。なぜか隣国は干ばつの被害にもあわないでいるから、さぞかし奪いかいもあるだろう)
ルークたちが拠点としてるアジトが見えてきた。
見張りが自分たちを見つけたようだ。
門がひらき、大勢出てきた。
自分が編成した時の倍以上の数がいるように見えた。
重武装して頼もしい姿だ。
(ワシのことを迎えに出てきたのだな)
ソンベルトは威厳をもたせるために、背を伸ばして、胸を張った。
「いたぞ、ソンベルトだ!」
(なんと言う言葉使いだ。山賊の真似をしろとは言ったが、あんな言葉使いをこのワシにしろとは言っていないぞ。ルークにはきつく言っておかないとな)
その時、こめかみの横を矢が抜けた。
「な。なんだ」
前衛の騎兵が一刀のもとに斬り捨てられた。
「ここは通さない」
「娘の仇!!」
恐ろしい形相で、連中が迫ってくる。
「馬鹿な」
ソンベルトは慌てて転回した。
「待て」
「貴様ら何だ!」
ソンベルトは怒鳴った。
「姐さん騎士団だ!」
「ソンベルトの首は俺がもらう」
剣を手にした若者が走ってきた。
命の危険を感じた。
ソンベルトは馬の腹を蹴ると、逃げ出した。
(おかしい。どうしてこうなる)
思えば、ローザを追放したあの晩から、何をやっても上手くいなかなくなった。
「忌々しいローザめ」
もう死んでいる人間にあたりちらしても仕方がないが、ローザが生きている時は、不愉快なことがあれば、いつでもローザのせいにしていたぶってきたので、つい習慣で口に出してしまったのだ。
ソンベルトは振り向いた。
自分の後ろ守る兵士はもう一騎もいなかった。
暗い森の中を一人でひたすら逃げた。
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