第13話 仮面の聖女
「殿下どうされたのですか」
この頃、エドワード王子の顔色がすぐれなかった。
「実は、干ばつと飢饉が酷いんだ。雨が一ヶ月以上も降らず、土地は乾いてひび割れ、作物が育たない。このままでは民が飢えてしまう」
外の世界がそんなことになっているとは知らなかった。
私は翌日、サラを呼んだ。
「サラ、今、世の中はどうなっているの? 殿下は心労のご様子だったけど」
私は昨日の晩に殿下に聞いた話をした。
「日照りが続き、飢饉が生じているのは事実です。でも殿下の心労は他にもあると思います」
「他に? どういうこと」
「それは……」
サラは話すかどうか迷っている様子だった。
「サラ、何でも言って」
「実は民衆は飢饉が生じたのはエドワード王子のせいだと言っているようなんです」
「どうして殿下のせいなの!」
私は怒りが湧いてきた。
サラは困った顔をした。
「殿下がローザ様を愛妾にしたからです」
「えっ!?」
「ローザ様は救国の大聖女になられるはずでした。それを殿下が手をつけて、王宮の奥で妾として囲ったから神の怒りに触れたのだと」
「そんな馬鹿な」
「私たちメイドはそれは違うと知っています。でも民衆にはそのことが分からないのです」
私は考え込んだ。
そう言えば、サラや他のメイドたちも最初は同じだった。
「ところで、サラ、あなたの故郷の村はその後どう?」
「ローザ様のお陰で、この大干ばつにおいても井戸は枯れることなく、作物は育ち、村人は飢えることも渇くこともなく元気に暮らしています。本当に感謝いたしております」
私は腕組みをした。
「そうすると、他の村もサラの故郷と同じようにすればいいってことね」
「えっ!?」
「サラ、メイドたちを皆呼んで。作戦会議よ」
私はメイドたちを前に、話を始めた。
「今の干ばつの危機を救わなくてはなりません。でも皆さんも知っての通り、精霊神より授かったこの力を公にすることは、精霊神より禁じられています。私がやったことと知られずにやるにはどうしたらいいでしょう」
「はい!」
一番若いキャロルが手をあげた。
「夜、寝静まった頃に、密かにやればいいと思います」
「それはダメよ。夜は私には大事なおつとめがあるの」
「そうでしたね」
「ローザ様、仮面をつけてみてはどうでしょう」
サラが言った。
「仮面?」
「ええ、お祭りで使うどこにでもある仮面をかぶり、長いローブを着てフードをかぶれば誰だか分かりません」
「そのアイディアはいいわね」
私はさっそくそれを実行することにした。
「ローザ様、お気をつけて」
メイドたちに見送られて私は大きな鞄をもったサラをお供に、ベランダから飛び立った。
「ではあの村から始めましょう」
サラの指示で村のはずれに降りた。
サラが私にローブを着せて仮面をかぶせた。
私は日傘をサラに預けた。
そして、一人で村に入っていった。
私の奇妙ないでたちを見て、村人が怪訝そうな顔をして集まってきた。
「村長はいるか」
「私が村長です」
老人が前に出てきた。
「エドワード殿下に敬意を表して、あなたがたに祝福を与えにきた」
村人から失笑がもれた。
「エドワード王子だと、あの女たらしか」
「大切な大聖女を汚した罪で、俺達はこのざまだ」
「だまりなさい! それは誤解です。エドワード王子は神に祝福されています。その証をこれから見せましょう」
私は村の広場のはずれにある水脈の上に立った。
「水よ、いでよ」
地面が割れて、地下から水が吹き出した。
「これを井戸としなさい」
そして私は天を仰ぎ、雨も降らせた。
村人は歓喜の声をあげた。
「よいか。これからもエドワード王子のことは敬うのだ」
私が村を出る時には、村人は「エドワード王子万歳」と叫んでいた。
サラの元に戻った。
私は仮面を取った。
「見ていた?」
「はい」
「やりすぎかしら?」
「そんなことありません」
そうして毎日、私はサラと国中を周り、干ばつ対策をほどこした。
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