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第10話 辺境の村で井戸を掘る




 サラの案内で降り立ったのは、赤茶けた辺境の大地だった。


「ここなの」


「そうです」


 土は乾燥でひび割れて、草木はほとんど生えていなかった。


 人影はない。


「父さん、母さん」


 サラが大きな声で言った。


 家畜小屋のような粗末な家から男女が出てきた。


 だいぶ弱っているようで、動きが鈍い。


「サラ? サラなのかい?」


「そうよ」


「ああ、サラ、最後にお前に会えてよかった」


「何を言うのよ」


「サラ、私はもうダメ。この村も終わりだわ」


「なら、よその町に行こうよ」


「旅をする体力もお金も、水筒に入れる水すらないわ。村を出ても行き倒れよ」


「そちらの方は?」


「その……」


 サラが言葉を濁した。


「エドワード殿下の愛妾(あいしょう)ですの」


「殿下の愛妾……。まさか」


「お、お前のせいだ。お前が聖女をやめて妾になったからこんなことに」


 サラの母が弱々しい拳を振り上げて、涙すら出なくなった身で私に迫ってきた。


 サラがそれを抱きとめた。


「やめて母さん」


「それで井戸があれば解決するんですの」


「もう遅い。都から作業員や機材をここに運び込み、井戸を掘って水が出るまでは数ヶ月かかる。それまでに村人は死んでしまう」


 私は村の中を歩いて地下の水脈を水の精霊の力を使い探知した。


 サラは私の後をついてくる。


 サラの両親と村人たちも不思議そうにその後をついてきた。


「うん、ここね」


 私は村のはずれの空き地で立ち止まった。


「この下に地下水脈があるわ」


 すると後ろをついてきた村人たちが笑った。


「そこなら前に掘った。十数メートルも掘ったが何も出なかった」


「地下水脈は300メートル下よ」


 村人の嘲笑が止まった。


「300メートル? 何を言っているんだ。そんな深い穴を掘るなんて不可能だろう」


 私は日傘を大地に突きたてた。


「大地と水の精霊よ。私に力を与え給え。水よいでよ」


「うわあああ、地震だ」


 足元の大地が揺れた。


 私の日傘がシャンパンの瓶の栓のように、ポンと飛び上がった。


 私は日傘をキャッチした。


 日傘があった場所から水が吹き出した。


「おおおおおお」


 村人からどよめきが起きた。


「地下水脈から水があがってくるようにしたから。地下水脈の水は豊富にあるから枯れることはないわ」


 村人は水に群がった。


 水を手ですくい、飲みはじめた。


「冷たくて、しかも美味い」


 私はサラを見た。


「これで、どうかしら」


 サラは唖然(あぜん)としていた。


「サラ、今何時かしら」


「午後4時ころかと」


「まあ、大変。殿下がお越しになる前にお風呂に入って、体をきれいにしておかないと。サラ、戻るわよ」


「あ、あのう。あなたは?」


 老人が私の元にきた。


「この村の村長です」


 サラが私に耳打ちした。


「初めまして。殿下の愛妾です」


「愛妾?」


「はい」


 私は(あで)やかな笑顔でこたえた。


「そうそう。村長さん。私が井戸を掘ったことは内緒にしてね。絶対に誰にも言わないでね。他の村人にもくれぐれも他言しないようにと言っておいてね」


「え!? あ、はい」


「では、ごきげんよう」


 私はパラソルをさし、サラの手を握ると空に飛び立った。


 村の老女がそれを見て叫んだ。


「紛れもない。あれは救国の大聖女様だ!」


「大聖女様!!!」


 村人の歓喜の声を後にして、私は王宮に戻った。



読んでくださりありがとうございます!

読者の皆様に、大切なお願いがあります。


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「期待できそう!」


そう思っていただけましたら、


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