第1話 男爵家から追放される
私は森の中を駆けていた。
後方から獣が追ってくる。
あと、数時間で17歳の誕生日を迎えるところだった。
だが、今日、私は実家の男爵家から追放された。
お金も武器も無く、身一つで追放され、こうして深夜の森で獣に追いかけられていた。
17歳の誕生日を迎える前に、私は獣の餌になってしまうのであろうか。
樹の根につまずいた。
私は転んだ。
暗い森の中で獣の目が赤く光っていた。
「グゥルルルルル」
喉を鳴らすような獣の吠え声が迫ってきた。
私は目を閉じた。
ヒューという風切り音と共に、小麦の粉が詰まった袋を馬車の上から投げ下ろしたようなドサッという音がした。
恐る恐る目を開くと狼が首に矢を受けて倒れていた。
だが、暗闇の中に光る獣の目はまだ複数いる。
私の前に人影が躍り出た。
ロングソードで、獣を斬り捨てた。
さらに後ろから火炎弾が飛んできた。
獣たちは火炎弾が当たると、怯えて退散した。
「こんな夜中に、一人で森の中に入ったりしたらダメじゃない」
大柄な女剣士がロングソードを鞘に収めると私を叱った。
「ごめんなさい」
「いきなり怒ってもしょうがないよ。きっと何か事情があるんだよ」
弓を手にした長耳族の女性が言った。
私は助けてくれた人たちを見た。
女剣士、長耳族のアーチャー、女魔道士の三人だった。
「あなたたちは?」
「冒険者よ」
「助けて下さってありがとうございます」
私は、彼女らがキャンプしている場所に連れてゆかれた。
「こんな深夜にここで何をされているんですか」
「ゴブリン退治よ。深夜この森を抜けて村を襲いにくるというから、ここで待ち伏せをしていたの」
「そうだったんですか」
「装備なしで、深夜に一人で何をしていたの」
「それは……」
私は三人に語り始めた。
「ソンベルト男爵の娘でしたが、縁を切られて追放されて、行くところがなくて森をさまよっていました」
「ソンベルト男爵家と言えばこの土地の領主様で、有力貴族じゃない!」
「それがどうして?」
「父が辺境の魔物を征伐する隊長として遠征中に生まれた子だからです」
「その、それはあなたのお母さんが浮気をしたってこと?」
私は首を振った。
「父はそう思い込んでいますけど、母は浮気はしていないと言っていました」
「でも、男爵は遠征していなかったってことよね。どうして、あなたが生まれてくるの?」
「それは……。母は精霊神の光が体内に入ってきて、私を身ごもったと言っていました」
とたんに、笑い声が私を包んだ。
「まさか、それを信じているの?」
「母は嘘をつく人ではありません」
「そんな、おとぎ話を信じるの?」
そうなのだ。父も、家の使用人たちも、領民たちも誰一人信じてはくれなかった。母の言葉を信じたのは私一人だ。
「自分のことを不倫から生まれた子だと思いたくない気持ちは分かるけど、そんなことは、ありふれたことよ」
「現実を認めた方が楽に生きられるわよ」
「あなたの名前は?」
リーダーらしい大柄の女剣士が私に訊いた。
「ローザです」
「ローザ、そういう経験をして生まれ育ったのは、あんただけじゃない。あたしら、皆そうなんだよ」
「えっ?」
「私の母は商人の妾だった」
女剣士が言った。
「私は第二夫人の子で、しかも4女よ」
エルフが言った。
「私は父のことを知らない。母も父が誰かは分からないって。母と私の二人家族よ」
紫色の長い髪をしたマジックキャスターの女性が言った。
「似たもの同士の3人でパーティを組んで冒険者をやっている。よかったら、あんたも仲間にしてやってもいい」
「ありがとうございます」
申し出はありがたかったが、私が言ったことを信じてもらえないのは悲しかった。
私が9歳の時、病に伏した母は私を呼んだ。
「いい、ローザ、あなたが生まれたのには理由があるの。あと17年後に大変なことが訪れるの。それを回避するために、神様があなたを授けてくれたのよ。誰も私の言うことを信じてくれないけど、あなたは17歳の誕生日を迎えたその日にそれが嘘でないことが分かるはずよ」
それが最後の言葉だった。
あと1時間もしないうちに私は17歳になる。
母は自分が不倫をしたのを認めずに妄想を私に語っていたのだろうか。それとも私は本当に精霊神の子なのだろうか。私は、実家から追放され、初めて会った冒険者たちにも笑われ、少し自信が無くなってきた。
「ローザ、でもなんで17年も経った今頃になって家を追い出されたの?」
「それは、一昨日、王宮で開かれた舞踏会で、異国の王子に見初められたからです」
エルフが口笛を吹いた。
「ワーオ」
「貴族の子女は17歳で社交界にデビューします。私の元にも舞踏会の招待状が来ました。しきたりなので、父も仕方なく私を舞踏会に送り出しました。ただ、ちょうど隣国のエドワード王子が来賓として来ていて、その席で見初められ、父のもとに、是非私と結婚したいという書簡が届いたのです。それを見て、父は、その場で私と絶縁して、私を追放したのです」
「どうして?」
「よく分かりません。ただ隣国の王子と結婚することになれば、私のことはこの国と隣国の貴族と民の間で話題になります。私が不倫で生まれた子で、父の本当の子でないということが明るみに出て、あとから婚約破棄でもされたら父は笑いものになるとでも思ったのでしょう」
「チィ」
女剣士が舌打ちをした。
「全く、男どもは勝手だぜ、自分たちは外で好き勝手したり、貴族なら側室や第二夫人を公然と置くくせに、女は夫以外の男性と愛し合って子をもうけたらダメなのかよ」
「そんなこと言っても仕方ないよ」
「しー」
エルフが長い耳をひくひくさせた。
「来る」
魔道士が水魔法で焚き火を消した。
「あんたは、私たちのそばを離れるんじゃないよ」
女剣士が私に言った。
「何が始まるの?」
「ゴブリン退治さ、心配しなくてもいい。奴らはザコだから、すぐにすむ」
私は息を殺して、後について行った。
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