第7話 予想外
大幅なSAN値と引き換えのおねだりにより、護衛のためにロビンから派遣された騎士たちは昨夜にラクシアから渡された大量の睡眠薬入りのワインを飲んでしまったため、日が昇った今でも爆睡中。
そのため宿のチェックアウトの時間になって従業員か店主のどちらかがドアを叩かない限り起きてこない。
それほどまで多くの睡眠薬を入れたつもりで、ついでにチェックアウトの時間は昼過ぎ。
爆弾を仕掛ける用意自体は昨日の夜で終わらせているため、あとは現場に仕掛けるだけ。
そうしてラクシアは太陽が登りきらない薄暗い時間帯に扉の鍵を確認してから窓を開く。
夏場だというのに朝方は冷たい風が吹く。
窓にかけている手に自然と力がこもるのを感じて手を離し、来ていた寝巻きを脱ぎ捨て、包帯を胸の位置で固定してから何重にも巻き付けてから、万が一の戦闘を想定して鎖帷子を着込んでからドレスを改造した黒装束に着替える。
そして爆薬を仕掛ける一式道具を詰め込んだ袋を片手に提げ、腰に一本のロングソードを吊るすとナイフを携帯用のポーチに忍ばせてから、一瞬にして姿を消した。
■
王族の避暑地というだけあってアルタイルの別荘は人里離れた森の中に存在する。
フォレイスの街までは馬車を飛ばして30分と言ったくらいの距離で、遠くはないけれどわざわざ一般人が向かう場所ではない絶妙な場所に建てたこの場所を探し当てられる人間はおそらく存在しない。
ラクシアとしてもゲーム内で主人公を連れてくるイベントがなければどんなに手を尽くしても見つけられなかっただろうし、王族がわざわざこんな田舎町を選んでやってくること自体が考えにくい。
「バレないようにするのに必死で、バレた時のことを考えていないのはお前ら落ち度だぞ」
アルタイルがいるであろう白い屋敷を発見したラクシアは、肉眼で捉えられるギリギリの距離にある木々の上に立っていた。
多くの木々と、その生い茂る枝木や葉が日光を一滴残らず喰らい尽くしたせいで地面を湿っている。
なれば当然森の中は日陰になっており、この暗闇の身の中でならラクシアを見つけることはほぼ不可能だと思ってもいい。
それに長い歴史の中で全くバレなかったという前例からこの場所に人が来るなんて発想には至らず、音がしたくらいでは野うさぎかなんかだと解釈して気に留めない。
人はそれを驕りだというが、ラクシアとってこれはむしろ好都合。
蹴った木々が静かに揺れ、先ほどまでラクシアが立っていた枝木の葉っぱが地面に落ちる。
そしてその頃には建物の影にまで到達しており、後は爆弾を設置するだけ。
時間帯的にもあまり悠長にはしていられないと思い、袋から爆薬一式道具を取り出そうとしたラクシアだが、
背後から迫る何者かの気配を察知した彼女は即座に爆薬を地面に置き、腰に吊るしてある剣を抜刀。
煌めく刀身が瞬きの瞬間よりも早く姿を表し、背後に迫ってくる何者かを斬り飛ばした。
「………………誰だ」
斬り伏せた知らない男性が地面に横たわっている状況で、なんのモーションも無く静かに土魔法で火薬を隠していくラクシアは、闇の中へと剣を向ける。
「王子に手練れの護衛は居ないって聞いてたんだけどなぁ」
目の前の男の服装は黒装束の暗殺者と言うより、どちらかと言えばどこにでもいる一般人の着るような麻で出来ているもの。
そして店先で買える鋼のロングソードに冒険者の愛用する剣帯と、彼らの風貌は普通の人間そのもの。
なぜ一般人の彼らがここに来て、どうして王子の存在を知っている。
そんな疑問がラクシアの脳内に高速でよぎっていく中、全ての答えが切り崩された。
「俺たちは革命軍だ」
抜刀した彼の姿が前に出た。
■
正面に走りながら剣を横凪に振るう男の姿に対して、想定していない事態に対する混乱のせいか、ラクシアの身体はフリーズ。
本来の彼ならば一撃の下で葬り去ることができただろうが、飲み込めていない不可思議な現状に防御を強いられてしまった。
「踏ん張りが効いてねぇなぁ! お嬢ちゃん」
前世の肉体ならば平然と受け止めた上で力任せに切断出来たが、今の彼は12歳の弱い少女。
身体強化を行わなければ大人と撃ち合うことなどできるはずもなく、防御の衝撃に身体が耐えきれずに後方へ吹っ飛んでしまった。
(魔法は使ったらバレる……ここは剣でやるしか)
空中で身体を捻って体勢を整えて、吹っ飛んだ先にある壁に両足をつけたラクシアだが、その隙に距離を詰めていた男は最も力の乗る上段から剣を振り下ろす。
肉体に高速で魔力を循環させて身体強化を行ったラクシアだが、彼女の肉体ではなく、壁の方が限界を迎えてしまい、両者共に耐えきれずに崩壊する壁をぶち破って屋敷内へと転がり込む。
「革命軍がなんのようだ……」
「王子がここにいるってタレ込みがあってな、仲間と殺しにきた」
仲間、彼がそれを言った瞬間。
ラクシアの背後にある屋敷の半分が爆発した。
「今のもお前らのせいか」
否定も肯定もしない。
ただ黙って笑うだけ。
そしてそれを肯定だと受け取ったラクシアは燃え盛る燃焼の匂いを背負いながら、目の前の敵と対峙する。
(俺の目的は王子の殺害。その点においてこいつと目的は一致している)
目的は違えど途中までルートは同じ。
王子の殺害という一点にのみ、ラクシアと革命軍は一致している。
だが革命軍な後々のストーリーでラクシアを殺害することもあり、完全に味方とは言えない。
だからこそ、ここで潰すべきか見逃すべきか計りかねていると、
「全員殺せばいいわけだから……まずはお前からだ!」
向こうの戦闘体制に合わせて防御を強いられる。
「随分と綺麗な顔してるじゃぁねぇか! あのくそ王子の愛人かぁ!」
高速で振るわれる剣を身体強化を合わせて的確に防御。
身体能力のハンデさえなければ後手に回ることはない。
相手の攻撃を防御して、敵が再び攻撃を行うわずかな隙をついて顔面を蹴り飛ばした。
よろけて後退する相手を前に止めを刺すべきか考えていると、男の背後に小さな影が走っていた。
そしてそれを見た男はラクシアよりもその小さな女の子に向かって剣を振るうが、
「お前…………何してんだ」
確実に殺したと思った瞬間、別の方角からラクシアの声が聞こえ、そちらへと目を向けると先ほど狙った少女を片手で抱き抱える彼女の姿が。
そして片手の塞がった相手なら勝てると踏んで剣を振るおうとした時、
彼の身体から血が噴き出した。
「なん…………いつだ……いつの」
血を噴き出した倒れていく男の姿を少女には見えないよう目を塞ぎ、
「言ったところで、お前には捉えられないよ」
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