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第6話 決戦前夜



有り体に王子を爆撃しようとすれば王宮に爆弾を仕掛けて消し飛ばすしかない。

だが王宮に入れる人間は限られている上、王国内でも最も厳重な場所とあって侵入は不可能と見ていい。


そのため、いくら足の付かない爆弾を製作したところで王宮に出入りすれば記録が残り、事件の後に疑わしき人間として問答無用の魔女裁判で殺される。


かと言ってこっそり侵入するも、四六時中王子の周りには近衛兵が付き纏っているためそれも不可能。

執事でさえも戦闘能力を備えているらしく、魔法を一切使わずに徒手格闘のみで全ての護衛を倒して爆弾を仕掛け、何の証拠も残さずに立ち去ることは今のラクシアでは無理だろう。


だがラクシアには絶対的な知識というアドバンテージが存在しており、それは、


【アムール王国の第二皇子にして最初の攻略対象、アルタイル=アムールは毎年夏ごろになると避暑地に訪れる】


この設定はゲーム本編で明かされており、本来避暑地の別荘の位置は王族以外には知られていないのだが、ゲームでアルタイルが主人公を連れてきたことからストーリーを知っているラクシアにのみ、場所を特定することができた。


そしてこの避暑地に関する情報として、あまり多勢の兵士を連れ歩くと身元がバレることを恐れて避暑地にいる間の期間、王子の護衛は実質王宮の十分の一になるのだ。


「王宮には常にメイドや使用人が跋扈している。だからまず誰の目にも映らないのは不可能で、誰かに見つかった時点で助けを呼ばれてゲームオーバーな侵入は無理だ」


近衛兵はさることながら、使用人に見つかって声を出されでもしたら騎士がやって来る。


そのため誰かに見つかった時点でゲームオーバーな王宮に比べて、近衛兵以外の兵士がおらず、助けを呼んでも騎士が来ない時点で王宮よりも幾分か楽になる。


そしてメイドや使用人の数も最小限に抑えられており、避暑地の大きさが王宮よりも小さいことを踏まえても見つかる確率はかなり下がる。


「計画は順調、アリバイも作った上で俺が近くに滞在していてもおかしくない状況作りは整っている」


厳重に作られた馬車に揺られながら、客車の中で風魔法の応用によって声の振動を完全に散らしていたラクシアはカーテンの隙間から窓の外の光景を見る。


「もう着くか………………」


そして視界に移る王族の避暑地の存在する街、フォレイスを見て手に持った爆薬を握りしめた。



フォレイスの貴族御用達の宿屋に案内されたラクシアは、護衛の騎士たちを別の部屋へと送り出して。一人では広すぎる部屋の中に荷物を放り出すと、自身の袖の中に隠し持っていた爆薬を取り出した。


(実行は明日、それに夜にはこの街を出ているから万が一もないだろう)


あまり製作に時間をかけ過ぎると夏が終わって王子は避暑地から去ってしまう。

そのため魔法を使って大幅な時間短縮を行った後、魔力の痕跡が消滅するまでの放置期間を踏まえた結果、現時点で製作できたのはたった一つ。


今ラクシアが握っている爆薬がこれっきり、もしも失敗すればチャンスはまた来年ということになる。


極論を言ってしまえば来年チャンスがあるならそれでもいいが、あまり時間をかけ過ぎてしまうと貴族の責務として王子と顔を合わせる機会が増えてしまい、変に面識があれば容疑者に上げられることすらある。


現にゲームの処刑エンドの一種では面識と確執があったと言うだけで処刑され、後から無実と分かったものの、全部が終わった後なので取り返しがつくはずもなあった。


そのため容疑者になる要素である王子との面識が全く無い現在だからこそ、事件の起こる前に偶然通りかかっただけの通行人を装えるのだ。


爆薬をひとまず机の上に置いたラクシアは、荷物の中からダンジョン内で拾ってきた火属性の魔石と一般家庭にまで復旧している魔石を原動力としたヒーターを取り出す。


そして魔物の皮出てきた完全防水のシートのようなものを引っ張り出すと、王子爆殺の手順をもう一度おさらいし始めた。


「暗殺の手段として、この時代には『毒』か『直接の殺害』くらいしか方法はない。魔法でさえも発動し続ける限り魔力を維持しなければならないし、発動を着弾を1セットだから『魔法を起動してその場に待機させたまま術者が離れればそれ以上は命令ができない』はず」


魔法を正面に、もしくは対象にぶつけると言ったプロセスは『発動した魔法に指向性を持たせて放つ』までが1セット。


飛ばしている最中に操作するのは熟練の魔法使いならできるかも知れないが、離れ過ぎた魔法や一度はなって術者のコントロールから逃れた魔法はどうにもならない。


つまるところ『銃を撃った後は直線にしか動かない』のと同じ。


そして『弾丸を空中で停止させ、任意の時間にもう一度動かす』と言った芸当は魔法であっても不可能。


そのため爆発が起こるということは、爆発を起こした人物がその場にいなければならない。というのが魔法のルールで、この世界の絶対に覆らない先入観。


時限爆弾など初めから存在していないのだから。


よってラクシアが爆弾を置いて街を出た場合、その場にいない彼女は何をどうやっても爆発を起こすことはできない、というのが結論で、この場合は絶対に容疑は向かない。


「俺が出ていく姿を門番が見ているのならそれが証拠になるし、別の町に着けば完全犯罪だ」


だがこれには時間差で爆弾を起動せざるを得ない、という制限があり、いくら爆弾を使って魔法の痕跡を消したところで長過ぎる導火線を付けるわけにもいかず、悩んだ末に設計したのが、


炎の魔石とヒーターを水の中に入れ、内部の水を全て蒸発してようやくヒーターが露出することで点火が始まる。といった水を使った時限式だった。


家電製品なら水に濡れて破壊してしまうだろうが、魔力を原動力として動くものならその心配はない。

水の中で魔石と共に熱を発して水を蒸発してくれればそれでいい、


そして全ての水がなくなった時、露出した高温のヒーターが燃えやすい素材で作られた導火線に触れれば爆発。

特殊な素材で制作したので燃えるはずだが、万が一に引火しなかった場合も考えて低温発火させられる木材を別で用意している二段構えなので問題はない。


「明日……一つが終わるんだな」


王子の死去報告を受けるのはラクシアが別の街にたどり着いた時だろう。


犯人を血眼になって捜索し、魔力の痕跡を必死で探したとしても犯人は出てこない。

ラクシアが立ち寄っただけとはいえ家宅捜査されたところで火薬の知識のないこの世界では、爆裂魔法があるので爆薬なんて考えることもない。


証拠は既に処分しているため、何をどう捜索しようが足がつく危険性は存在しない。


ゲームでは主人公と恋愛して、それをラクシアが邪魔をしたりしなかったで結局殺されるのはラクシアだ。


だが今のラクシアが王子を殺すことに対して躊躇いがないわけではない。


いくらゲームで幾度となく殺し、この先殺される可能性が高いとはいえ今の彼女が被害を受けたわけではない。


可能性の一端を使って人を殺そうとしているのだ。


けれどそうしなければ自分はおろか、アンナや屋敷の人間全員が皆殺しにされる事態を一時の気の迷いで緩めるわけにはいかない。


やらなければやられる。


そんなことはとっくに覚悟してきたはずだろう。


荷物の中から引っ張り出した黒装束と複数のナイフ。

そして一本のロングソードに目をやって、来るべき運命の日を待ち構える。

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