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第3話 魔法を試してみる



「これがダンジョンですか……私初めてですけど、ラクシア様もですよね?」


太古の昔に建設された神殿のような形をした建造物を見上げながら、アンナはダンジョンと呼ばれるそれを指差してラクシアへと輝いている目を向けた。


「まぁ……そうだな」


(中身知ってるとは言えないしな)


ゲームのストーリー中に幾度となく向かう羽目になったダンジョンに前にして、ラクシアは一応動画を見てたから中身を知っているとは口が裂けても言えない。


ただ画面の向こう側でしか見ていなかった建造物がなんの因果かこうして目の前にあって、そして触れられるという自体は奇妙なものだ。


そうしてダンジョンを構成する建物の壁に触れようと前に出たラクシアだが、


「お嬢様、危険ですのでどうか騎士団の後ろに」


どうやらここでも思い通りには行かないらしい。



この世界は中世ヨーロッパの封建社会モチーフに剣と魔法の世界観を無理やりねじ込んだ世界観。


そのため王族貴族は当たり前のように存在しており、魔法もまた、それと同じく当たり前。


ゲームとして魔法を使っている描写は幾度となく見てきたが、この世界に転生したラクシアもまた魔法が使える。


そのため今後生き残るためにも魔法の修行は積んだほうがいいだろうと書庫に入り込み、寝る間も惜しんで魔法の勉強に全てを費やしたところまでは良かったが、肝心な実践を行うことができなかった。


庭園に的を置いて放つだけならなんとでもなるが、魔法を用いた実践や威力の高い魔法は庭を荒らすという理由で使用人から却下されてしまい、娘に甘い父親に駄々をこねるも貴族としての体裁に関わるため断念。


手頃な生きた的がいればと思ったらラクシアが考えたのは、ダンジョン内にいるモンスターを実験体のモルモットとして魔法を叩きつけてやろう、というものだった。


「ダンジョンってなんなんですかね? 冒険者がどうのってのは聞いたことあるんですけど、モンスターがダンジョンから出てこないなら倒す必要ないと思うんです」


ラクシアがダンジョンに行くと決めたのは良かったものの、令嬢を無断でそんな危険な場所に向かわせることができず、最大限の譲歩を行った結果が大量の騎士団を引き連れて後ろから馬車に乗って彼らの戦闘を眺めること。


こんなもの完全に道楽でダンジョンにやってきた成金貴族みたいで気乗りはしないが、それでも来れただけマシとしよう。


「ダンジョンは古代遺跡の一種だ。昔は何かを保管する建物だったりした物がなんらかの事情で捨てられ、そこにモンスターが住み着いてこうなったって感じだ」


「だからアーティファクトとか出てくるんですね」


トラップは元々保管場所を外敵から守るために設置されたものが今でも残っているだけで、根本的な話ではダンジョンはモンスター屋敷と大して変わらない。

ただ長い時間放置されていたせいか、モンスターの中で生態系が確立してしまったせいで人間が太刀打ちしずらいというだけ。


内部にあるのは既に生産方法が失われた魔道具やアーティファクトと言った古代の代物。

こう言ったレアな道具や、金の採掘が盛んだった時の金銀が放置されているため、昔の人の住処を火事場泥棒しにきて一攫千金を狙うのがダンジョンの主な用途だ。


(貴族って肩書きは便利な時もあるが、こう言った時の行動に制限がかかるのは不便だな)


本来はダンジョンでモンスター相手に魔法をブッパして威力と、攻略対象の始末に使えるかどうかを確かめたくてやってきたわけだが、現時点では護衛の騎士たちがモンスターを倒している光景を眺めているだけでラクシアに出番はない。


おそらく剣を取ると言えば確実に宥められるか、もしくはご乱心だと言われて強制帰宅。


(せっかくダンジョンに来たっていうのにこうも見ているだけなのはつまらない。騎士たちが悪いわけじゃないんだけど……)


彼らの仕事だから仕方ない。


今度は深夜にでも屋敷を抜け出して森のモンスターでも実験するかと、今日のところは諦めるつもりでいたラクシアだが、


アンナの頭がラクシアの肩に寄りかかった。


「どうした?」


間近に感じるアンナの横顔と、触れる髪の毛をあまり動かさぬように顔を覗き込む。


すると彼女は目をつぶって寝息を立てていた。


「なんだ寝ているだけか…………」


さっきから機会がなかったが、横にいるアンナが寝ているのなら今のうちにやらかしたパンツをどうにかして元に戻そうととモゾモゾと手を伸ばすが、


正面の騎士たちもまた、死んだように地面に横たわって寝息を立てていた。


「あぁ……そういうことか」


アンナをそっと横に寝かせると、馬車を飛び降りて落ちていた剣を一つ拾う。


そしてこの現象をゲームを見ていたラクシアは知っている。


ダンジョン内で眠気に襲われた主人公たちが倒れて分断されるイベントが確かあったはずだと、この睡魔の元凶がいるであろうダンジョンの奥へと剣を向けた。


「お前の『スリープ』は自分より魔力の高い相手には効き辛い、だろ? ネタは上がってんだ、さっさと姿を見せろ【魔道骸士】」


すると闇の中からボロ切れとなった魔導士のローブに身を包む人骨の姿が現れた。



魔道骸士。


それはモンスターのランクで言えば上から2番目のAランク級モンスター。


ランクを人員で換算するのなら一個騎士団では到底討伐することのできないモンスターであり、魔道骸士はかつて優秀な魔法使いがアンデットとなった際に変貌するアンデット系列では最上位に位置するモンスターでもある。


そのため主な攻撃方法が魔法で、広域殲滅魔法である上位の魔法を平然と使ってくるその様から、通常はベテランの冒険者や騎士団の団長格を多数集結させて戦うのが一般的な対処法。



生前に使っていただろう高価な魔石に対して、貧相で壊れかけの杖を向けた魔道骸士は濁った声で、


『フレイムバースト』


一度に数十人単位を消し炭にする広域殲滅魔法を放つ。


だが、


零度の霜霧(フロスト・ゼロ)


魔道骸士の発動した炎ごと全てを包み込む絶対零度の氷がラクシアの見える視界の全てを氷漬けにした。


一瞬にして魔道骸士放った魔法を、そしてローブの一部までもを凍らせたラクシアの圧倒的な魔法構築スピードと魔力量。


そのどれもが一級品。


この事態に彼はなぜか一歩引いてしまった。


だがそれは許されない。


魔法が凍らされたからなんだというのだ。


魔法の構築スピードがどれだけ速かろうとも、同時展開を行える自身にまだ勝ち目がある。


生まれてから10と少ししか生きていない少女如きに、死んでからも戦い続けてきた魔法使いとしてのプライドが、ラクシアへの敗北をかき消して骨を動かした。


凍ったローブを引きちぎり、前方に向かって杖を向ける。


そして魔力を高速で巡回させた魔道骸士は先ほどのおよそ5倍の速度で上級魔法『バーニングブラスト』を発動させた。


速度は十分。


威力は過剰。


当たれば即死の大規模爆破魔法を躊躇いもなく放った魔道骸士は、放つと同時に新たな詠唱に入る。


今の攻撃で倒せるかどうかは分からない。


ただ過剰であっても、最初の一撃を止めた彼女に対してはそこまでする価値があると、そう信じた彼の決断は、



間違っていなかった。



「そこそこやるな。流石は主人公一派が敗北しただけのことはある」


魔力で作られた魔法障壁によって防がれたバーニングブラストは、背後の騎士が一人たりとも火傷することなく、完全に魔法障壁の前にかき消されたのだ。


「次は俺から行くぞ。死期を延ばしたければ死ぬ気で防御しておけ」


解放されたラクシアの魔力量は宮廷魔術師の10倍はあろうと魔道骸士ですら、測ることができなかった。



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