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第2話 女の子らしい格好



この世界に喧嘩を売る。


それがラクシアの出したゲームのストーリーを逸脱するただ一つの方法だった。


本来ゲームのストーリーは彼らが学園に入学したところからスタート、つまりは16歳からと言うことになる。


だがこの時点でラクシアは攻略対象全員から良い感情は持たれておらず、確実にその前からなんらかのコンタクトと確執が生まれていることは間違いない。


そして今のラクシアは今までのラクシアと記憶を共有していないため、今まで彼女がしてきた所業の数々を彼は認知することすらできない。


かと言って学園に行くこと自体が貴族の義務であるため逃れることはできず、ストーリーを知っているアドバンテージを利用して学園でうまく立ち回ることができたとしても、本来の主人公と攻略対象たちがいい感じになり、よく分からないままラクシアは死亡する。


その理由としては学園に攻略対象の王子を狙う暗殺者が現れたり、反貴族派の連中による惨殺だったりとバリエーション豊富。


そして何よりラクシア自身が直接手を下さなくとも、平民である主人公と貴族の攻略対象の身分違いの恋が貴族派と反貴族派を巻き込んだ内乱へと昇華させられ、結果的に王族と関わりの深いギルガント家が見せしめの形で殺される。


つまるところラクシアがどんなルートを模索し、足掻いたところで彼女が死ぬ可能性は消えない。


ただ一つ、ゲームのストーリーを根本からひっくり返さない限り。


ゲームのストーリーを根底から破壊する主人公殺しを行わない限り、とばっちりで死ぬラクシアの運命を変えることはできないが、現時点での時系列では主人公の居場所を突き止めることはできなかった。


使用人を動かし、父親であるギルガント公爵を動かして情報を集めてもらったはいいが、主人公の情報は全くと言っていいほど集まらず、ゲーム内で疑惑として存在していたある一つのものが確信に変わる。


(おそらく主人公は異世界人だ。それも俺と同じ日本人と見ていいだろう)


主人公の出世に関しては何も明かされておらず、学園に入ったのも平民でありながら貴族や限られた人間にしか存在していない魔力を保有していたと言うもの。


(この国は戸籍を正確に測ることもしなければ、スラム街の人間や放浪者の数を正確に把握してはいない。

偶然人が降ってきたとしても、それに対して一々出どころを聞くことは『言葉が通じている』以上はない)


文字の識字率は低く、言葉が喋れればそれでおしまい。


つまるところラクシアが現在当たり前のように日本語を使って会話が成立しているのなら、おそらく日本人がこの世界にやってきたとしてもなんら不思議ではない。


しかも「偶然傷ついた貴族を拾われた治療院で覚えた治癒魔法で助けた」なんていう偶然の産物を、ただの奇跡と称するのは今のラクシアにとっては疑わしいものだ。


(黒髪黒目で文字の読み書きはできない。魔力を初めから持っていたことについては不明だが、両親の話題が出るのにその存在はストーリーで明かされていない。それに日本の貴族に堂々と詰め寄っていく行動は貴族社会からすれば異端……主人公がこの世界の人間ではないことの裏付けともいえないこともない)


主人公の存在を現時点では王国の上級貴族の情報網を持ってしても得られなかったこと自体が確証とも言える。


自室の椅子にもたれかかったまま紙の束を机に投げ出したラクシアは邪魔な髪の毛をひとつ結びにして空を仰いだ。


「……やるしかないのかな」


鏡に映る姿はこれから運命によって断罪される悪役令嬢のラクシア。


そしてその肉体へと転生を果たしてしまった彼は生き残るためには攻略対象を殺すしかない。


椅子から立ち上がると締め切ってあるカーテンを勢いよく開き、日差しを正面から浴びた彼女の髪の毛の輝きが反射する。


その碧眼もゲーム本編であった性悪なツリ目から悩める令嬢へと変化していた。


「まだ着替えてなかったんですか? 一体おしゃれ好きだったラクシア様は一体どこに行ってしまってんでしょうか」


窓の外を眺めているラクシアに扉を開けて部屋へと入ってきたアンナは寝巻きのまま着替えようとしないラクシアにため息をつく。


意識を失う前までは起きてすぐにメイドを呼びつけては目立つドレスに着替えさせていた彼女が、ここ最近では人が変わったように着替えを嫌がるようになった。


メイドたちからは大不評の濃いピンクのドレスも見た瞬間に焼却炉に入れるほどの豹変っぶりに、実のところようやく正気に戻ったのか? とすら思えるが、それでも今までの元気はない。


人より長く生きていないアンナだが、今のラクシアは人生に疲れた中年サラリーマンのような落ち着きを兼ね揃えているような気がしてしまう。


「ラクシア様の言うように派手じゃないやつ持ってきましたけど、本当にいいんですか? スカートひらひらしてなくていんですか?」


「……どうせならそのスカートとやらもやめて欲しいくらいだけど」


「そんなことしたらせっかくの可愛いお顔が勿体無いでしょう!」


アンナは用意してきた服を広げて着せようとするが、


「それ……なんだ。そのデカいリボンは…………」


「せめてもの抵抗ですよ。これだけで最近不足気味の可愛い成分を補充できます」


阿鼻叫喚してやろうかと思ったラクシアだが、断ろうとした時のアンナの捨てられた子犬のような顔に抵抗ができず、背中に呪いの装備として外せないリボンをつけられたのだった。



見た目は12歳の幼き少女とは言え、中身は18歳。

そんな成人男性真っ青の健全な青年が、年甲斐にもなく駄々をこねてフリルや派手な装飾を暴れながら引きちぎったまではよかったものの、一つ捨てればゴキブリのように新たな敵が湧いて出る。


適当な詭弁でなんとか最小限には抑えることはできたが、腰あたりに付けられた邪魔くさいリボンを外そうにもスカートと直結しているため外せばずり落ちて人間として大事なものを失うためできない。


かと言ってこれを付けたまま生活するのはいささか心に来るものがあり、いっそのことリボンのみを取り外してやろうかと引っ掴んで引っ張ると、


引きちぎったかと思えば手応えが違う。


そう思って背中へと視線を向けると、そこにはもう一つのリボンが装着されていた。


「なん……だと…………」


ラクシアは自身が手にしているはずのリボンだった布を握りしめ、この奇怪な状況を整理しようと、18年間生きてきた自負のある彼が体験したことのない女の子の魔法に動揺を隠せない。


すると手にしているリボンだった布の内側に縫い付けられた紙が挟まっており、


『次は無いと思ってください』byアンナ


ラクシアの脳内に旋律が走った。


そう、彼女は既に先手を打っていたのだ。


初めからラクシアが目を盗んで引きちぎるであろうことを、


何故か急に女の子らしいものの一切を拒絶し始めた不可解な主人の行動を、


今まで過ごした勘によって完全に上回ったのだ。


だがそれで終わるのならラクシアは初めからリボンなんて取ってはいない。


背に腹はかえられぬと、もう一度手を伸ばすが、


『次は無いと思ってください』


その言葉が突如として脳内に過り手を止める。


(次は無いとはなんだ……何が起きる?)


リボンを取ったからと言って何かが起こるとは考えにくい。

今履いているスカートが落ちることは既に予測済みで、取ったリボンを紐としてもう一度活用して後に残った部分は垂れ下げておけばいい。


それで事足りる。


覚悟がなければ行動はできない。


そして今から自身のやろうとしている命をかけるものに比べれば、メイドの悪戯如き、鼻で笑って済ませらなければ恥といえよう。


そうして腹を括ったラクシアは勢いよくリボンを引っ張り上げると、


パンツが食い込んだ。



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