第五話
会議室に15人ほどの魔人がバリカの前に立っており、
バリカに様々なことを報告している。
その中に憔悴した顔をしたリグの姿もあった。
「さて外壁の修繕の方はどうだ?」
「はい、先ほど終わりやした」
バリカの問いに対して、
リグが力のない声で答えた。
「ご苦労、よく終わらせてくれた。
リグほかに私に報告することはあるか?」
リグは、疲れきっていて機能していない頭を、
無理やり回転させて答えた。
「はい、修繕は終わりやしたのですが、少し奴隷を酷使してしまいまして、
人間の奴隷が壊れて動けなくなりやした。」
「そうか、獣人の奴隷は無事なのだな?」
「はい、今頃奴隷部屋で休んでいると思いやす。
動かなくなった人間の奴隷なんですが、外に放置してしやいまして、、」
「まぁいい、お前も疲れていたのだろう、
人間の奴隷は兵士たちのおもちゃになっていないといいがな、
どちらにせよトト様には奴隷の補充を申請しといてやる。」
「ありがとうございやす。」
「ほかに報告がないのなら下がってよい。」
その言葉通り、リグは会議室を後にし、
食堂で朝食を取った後、部屋に戻り爆睡をした。
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獣人たちが列をなし、走ってザリルツ砦に向かっている最中、
その列の中心にいた、白いマントを羽織ったシキルは一つの報告をうけていた。
「何?外壁の修繕が終わっているだと??
それは本当なのか?」
「はい、この目ではっきりと確認しました。」
白虎族の哨戒担当と思われる者が、
確信を持った目でシキルを見た。
(どうするか、、、、、、)
シキルは走りながら少し考える様子を見せると、
「トクリ族長を呼んできてくれないか?」
「了解しました!」
報告をしてきた白虎族に向けていった。
赤いマントをひらひらとさせ、自分のもとへ、
駆け寄ってきたトクリを見て、シキルは、
「トクリ族長、呼び出してすまない、」
「お安い御用ニャ!」
「本題に入ろう、報告によると現在、砦の修繕が終わっているみたいだ。」
「本当かニャ?!」
トクリはとてもビックリしたような表情をした。
「そこでだ、申し訳ないのだが、
もう一度赤猫族で、外壁の破壊工作を行ってはくれないだろうか?」
トクリは少し考え、すぐさま答えた。
「大丈夫ニャ!! 修繕まであと一週間かかる予定だったニャ?
たぶん修繕したといっても、見た目だけの応急処置ニャ!
前回よりは難しくないニャ!」
小さな体で胸を張り、「任せるニャ」を言わんばかりの、返事をした。
「頼もしいな、よろしく頼む。」
シキルはそのトクリの様子をみて、改めて頼りになる仲間だと感じた。
「では赤猫族一同、本隊から先行して先に砦に向かうニャ!」
その後、赤猫族は先に砦に到着し、砦付近の林から、
砦自体を目視で確認していた。
赤猫族のトクリが、なぜこの戦いに参加したかというと、
本音は、同胞を助けるためではない。
自由を好む放浪人、それがサキア連合国での猫族の立ち位置だ。
サキア連合国自体、一つの権力が支配、統治しているのではなく、
各種族が集まり、各種族が協力・協調しあって国家の形を成している。
しかし各種族それぞれ性格、特徴が違いすぎる、
虎族などは、力を崇拝している種族なので、力のあるものについていくので、
力のあるものがいれば、国家の統治として、特には問題ない。
だが猫族は、自由すぎて統率が取れないという実情がある。
なぜ、赤猫族のトクリがこの戦いに参加したのは、
《「おやっさん」に言われて参加してみたものの、
ほんとは、てきと~に戦って、イグニスに帰る予定だったニャ、
でもなんだかニャ、シキル族長にはついていってもいいかと思うニャ》
いつになく真剣に敵の本山、ザリルツ砦の様子を伺い
《でも「おやっさん」にはかなわないけどニャ》
トクリは、何かを思いついたように顔つきを改め、
攻め込むために部下たちに作戦を伝えた。
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ザリルツ砦 SIDE
「いや~、今日も疲れたな~、腹減った~、眠たいぃ~」
「おい!おまえもう少しシャキッとしろって!!」
地平線から太陽が昇って数刻、
日出直後は、暗闇から出た日光により目が覚めたが、
連日の外壁警備で、溜まっていた体の疲れは欺けなかった。
「いいじゃん、どうせまだ獣人たちも攻めてこないんだし、
こっちはもう疲れたよ、」
「だとしてもこんなダラダラしている所見られてみろ、
バリカ様に何言われるかわかんないぞ!」
「まあ確かになぁ~、、ふわぁぁ~~
でも眠たいのは変わらん」
外壁の上の物見櫓で、二人いる魔人の内、
一人があくびをしながら言った。
「でもそのバリカ様も、サキアの獣で一番強そうなやつに、
深手負わせたんだろ?」
「そう、だけど一番強かったかはわからないぞ、
聞いた話によると、バリカ様が倒したやつは青い氣を使っていたらしい。」
「青い氣?」
「そうだ、、なんだその顔は? お前獣人が使う氣も知らないのか?」
【氣】という聞きなれていない単語を聞いたのか、
不思議そうに顔を傾げた同僚に対して、ため息をついて説明を始めた。
「おまえ、よくそんな知識でこの対獣人最前線のザリルツ砦にこれたよな」
「いや、それほどで「ほめてないわ!!」」
「まぁお前は志願兵じゃないもんな、知らなくて当然か、
じゃあ【獣態武器】も知らないのか?」
同僚は首を縦に振った。
じゃあ簡単に説明するぞ、と前置きをし
「いいか、我々魔人族が【魔力】という力を持つように、
獣人たちにも全員、【氣】という力を持っている。
その【氣】を元に造りだす武器が【獣態武器】というものだ」
「まぁ我々の使う【魔法】とは違って、種族全員【獣態武器】が使えないのが、
汚らわしい獣って所っぽいがな」
「え、じゃあ生まれた時点で【獣態武器】を使えるか、使えないか決まるってこと?」
「いや、これも講義で聞いた話なんだが、
獣人は、根性がどうとか、気合がどうとか、絆がどうとか、
そんな良く分からん訓練をしているうちに【獣態武器】が使えるようになるらしい」
「ひえぇぇぇ~~、暑苦し~~、
あれたちみたいに生まれたときから使えたらいいのにね、」
同僚が指の先に炎を灯し、炎の大きさを様々な形に変えながら答えた。
「おまえ、そういう細かい【魔法】の操作、俺よりうまいよな、」
指先の炎を見ながら、次に同僚の顔を見て、
少しあきれながら、されど少しうらやましそうに言った。
「いやいや、期待を一身に受ける学園卒のエリート様にそう言ってもらえるなんて、
嬉しい限りですなぁ、」
「おまえなぁ、バリカ様からおまえだって期待され…
まぁいいか、話を戻そう」
「でだ、【氣】の色についてだが「や、もういいや」、、は??」
「もう頭使うのは、元気な時にしてくれ、
そん時にちゃんと聞くから」
んふぁ~~と大きなあくびをしながら、その同僚は話を遮るように言った。
「まぁそうだな、もう交代の時間だし今度話すことにするよ」
しかしこの2人はもうこの話をすることはなくなった。
すみません、まだ主人公は出てこないです。
もう少しであらすじの場所まで行けると思います。