第四話
ここはとある森の中、森は木々が生い茂っており、風が木々の葉、枝を揺らしている。
その木々から少し開けているこの場所に、いくつもの野営用のテントが張ってある。
その関係で、周りに木々があっても、近くに動物の気配はなく、
周りの自然とは裏腹に、何か慌ただしい空気が漂っている。
「おいお前、シキル族長はどこにいらっしゃるニャ?」
頭の上にはピンとした耳があり、お尻には尻尾もついている。
顔は、瞳孔が縦長に開いていて、とてもキリっとした顔立ちの、
赤いマントを羽織った小さき者が、大きな者を見上げながら、問いかけた。
「あ?、、、おっ、おはようございます!!、トクリ族長!!
シキル族長ならあそこのテントにいると思います!!」
この大きなものは、顔立ちこそは小さきものに似ているが、
身体の大きさ、より獰猛な顔立ち、さらに口元には牙がついている。
そんな見た目である大きな者だが、
その赤いマントを羽織った小さき者を見ると、
慌てたように、手をあるテントに向けて、問いに答えた。
するとトクリと呼ばれた小さき者は、
「ご苦労ニャ」と言って、そのテントに歩いて行った。
そのテントへ向かう後ろ姿を見ながら、
(あぶね~、この野営場所で赤のマント羽織ってるってことは、
赤猫族のトクリ族長じゃねぇか、あの方のおかげで、
前回の襲撃ではあんなに上手く砦の中に入り込むことができたんだよな~)
尊敬と、最初不機嫌な態度を取ってしまったことに対しての、
少しの冷や汗を流した。
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周りのテントと比べると、少し大きなテントであるこの中に、
白、青、赤それぞれのマントを羽織った3つの影が、
円卓を囲んで、それぞれ向かい合っている。
その3つの影でも、一際小さき者、赤いマントを羽織ったトクリが、
白いマントを羽織った者に対して、顔を向けながら言った。
「シキル族長、報告いたしますニャ。
赤猫族、前回の戦いで負傷した戦士たちの回復が終了しましたニャ。
これでいつでも奴隷として攫われてしまった、同胞たちの助けに迎えますニャ。」
「トクリ族長、ご苦労だったな、
さて、他にもキア族長よ、青虎族はもう行けるのか?」
白いマントを羽織ったシキルと呼ばれた男は、
赤のマントを羽織ったトクリに労いの言葉を授けると、
青のマントを羽織ったキアに、訪ねた。
「はい、われら青虎族、いつでも戦いに迎えます」
「承知した」
シキルは、キアの言葉にうなずくと、
次の話題に移った。
「さて我々が一週間前襲撃を行った、ザリルツ砦だが、
先ほど我が白虎族の哨戒隊が、現在のザリルツ砦の状況を調べ上げてきた。」
シキルは、視線を落とし何かを確認するように、話をつづけた。
「その報告によると、先日、赤猫族が身を削って砦内に侵入し、
破壊工作を行ってくれた南側の外壁部分だが、
修繕まであと1週間ほど、かかる見込みだそうだ。」
シキルは、顔を上げて
「よって、外壁が完全な状態でない今、
再び攻める好機は今だと思うのだが、
諸君らはどう思う?」
「いいと思うニャ!」
「いざ戦いに!」
シキルの問いに対して、覚悟を決めたように、
二者二様の答えを出した。
「うむ、その前に目的だけ再度確認しよう」
シキルは2人の覚悟を受け取りながらうなずき、
高揚するこの場を落ち着かせるように、言った。
「最優先事項は、我らが同胞の解放、次に砦の陥落・無力化だ。」
「最優先事項だが、我らサキア連合国の民で、強制労働されている、
前回の襲撃で、彼らを発見はしたものの、感情が奪われていたため、我らの言葉が届いておらず、奪還を断念した。」
「シキル族長、質問よろしいかニャ?」
「どうした、トクリ族長」
「感情を奪われているのニャら、
もう背負って無理やり奪還するしかないように思えるニャ、
いくら何でも戦いながらその間に同胞を背負って奪還するのは、
無理な気がするのニャ」
シキルは、トクリのその言葉に対して、感心するようにうなずき、
「そうだとも、トクリ族長、
なので、まず最初に同胞の感情を戻すことから始める。」
「どうゆうことニャ??」
「この一週間、我は情報収集をずっと行っていた。
その結果、同胞たちに刻ませていた紋章、感情抑制紋は、
感情抑制装置というもので制御されているらしい。」
「その感情抑制装置とやらは、どこにあるのニャ?」
「バリカの部屋にあると調べがついた。」
シキルは調査報告を確認するように発言すると、
青虎族のキアが、顔をしかめながら、
「ちっっ、あのバリカか、、、
次の戦いではボコボコにしてやる」
キアは、包帯で巻かれた自分の右腕を、
左手で握りながら答えた。
「キア族長、バリカとやらはそんなに強かったのかニャ?
ていうかニャ、その右腕で戦えるのかニャ?」
赤猫族のトクリ族長が、キア族長の腕を見ながら、
言った。
「右腕に関しては、、大丈夫だ、
ポーションを使ったから、今日中にはちゃんと動くようになるだろう」
キアは、自分の右腕を顔の前まで上げ、
右手を開いたり、閉じたりしながら答えた。
「バリカに関しては、氷を使う魔人だ。ほとんど俺と互角だったが最後に、
奴隷となった同胞が目に入り、頭に血が上ってこの腕をやられちまった」
そのことを思いだすかのように、
血が滾るように右手を握りしめ、自分の右腕に力を入れた。
「キア族長と一対一で互角かニャ、
戦うのは遠慮したいニャ。」
「トクリ族長、大丈夫だ、俺が戦う。
奴にはやり返さないと気がすまん。」
興奮しながらキアが、トクリに言った。
「落ち着き給え、キア族長。
バリカは私が相手をする。
キア族長は、感情抑制装置の破壊を最優先して動いてもらいたい。」
「そんな!!シキル族長!!
白虎族であらせられるあなた様に、手をわずらわせるなど、、!!
バリカは私が相手をします、、!!」
「バリカ君、、!
私はもう同胞がいなくなるのは嫌なのだよ。
それにその腕では我らが切り札でもある【獣態武器】も展開できないだろう。」
シキルはキアに向かい、少し声を荒立てながら続けた
「我らが今、テントでぬくぬくと話している間でも、
我らが同胞は酷い扱いを受けているのだ。
同胞のみに限らず、本国にいる彼らの家族のためにも、
次は確実に彼らを救わなければならない。」
シキルは静かに、されど決意の籠った鋭い目で、
キア、トクリに言った。
「キア族長、君が個人的な感情を優先し、
戦いに行くというならば、今ここで私と戦いその感情を完膚なきまで叩きのめしてやろう。」
白虎族のシキル、青虎族のキアは一族の名前の最初に【色】を冠する「白」、「青」がそれぞれ入っている。しかしそれは戦いの最中に展開する【獣態武器】の特徴を表すのであって、普段の背丈、顔立ちなどの外見にほとんどの違いはない。
そんな白虎族のシキルと対面している青虎族のキアであるが、自分と同じ姿体をもつシキルが、改めて見ると自分よりとても大きく見えた。
果たしてそれは背負っている責任の数なのか、
最強種の一角である白虎族である自身の強さから裏付けされる一種の雰囲気なのか、
「いえ、私が間違っていました。申し訳ございません!
自分の私利私欲を戦いの場に持っていこうとしてました。
危うく道義から外れるところでした!」
キアは、シキルの様子を感じ取り、
潔く頭を下げた。
「わかってくれたらならよいのだ。
戦いに余計な感情を持ち込むと、余計な被害を生む」
シキルは滾っている自分を落ち着かせながら言った。
「さて次の襲撃は、明日朝行う、
それまで各種族、それぞれ準備を怠るな、!」
「「了解した(ニャ)!!!!」」
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翌朝、野営場所に前日とは少し違う雰囲気が流れていた。
一族ごとに列をなして並んでいる前に、
それぞれの族長、白虎族のシキル、青虎族のキア、赤猫族のトクリの三名が、
白、青、赤、それぞれのマントを羽織り対面して立っている。
また、ここは木々が開けている関係で、光が差し込んでいる。
何かが始まりそうな予感だ。
「前回の襲撃で見たものもいるだろう!!
我ら同胞のひどい姿を!!!!!」
シキルがこの静寂な空間に、いきなり大声で訴えかけた。
「彼らは、魔人に攫われ奴隷にされ、
ひどい環境で強制労働をさせられ、
さらに感情までも奪われている、、!!!!!」
「彼らにも愛する家族、恋人、子供がいるだろう!」
「我らは、何よりも絆を大事にするサキアの戦士たちよ!!」
「奮い立て!!!そして我が同胞を奪還するぞ、、!!!!!」
「「「「「「「うぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」」」
いきなりの歓声によって、静寂であるはずのこの空間が、
割れたような爆音が、この空間を支配した。
そんな爆音に対して、
シキルは白いオーラのようなものを体に纏うと、
皆に聞こえる、されど静かな声で一言
「襲撃開始!」