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ロマン・トゥルダ  作者: トグサマリ
【序章】
1/7




 偉大なる神の創り賜うた楽園、ロマン・トゥルダ。

 神によって選ばれた人々は、そこで快楽にふけっていた。―――神の望むままに。


   *




 空の色は、ただひたすらに深い紺の色。時は、静かに星を瞬かせることで流れていることをひとに思い出させる。

 ―――それは、前触れもなく始まった。

 夜が一番深くなる静かな時間。スターブ子爵邸を取り囲む木々は風に梢を揺らすこともなく、静寂の中、じっと月明かりを身に受けていた。

 その、青白い月の光が窓越しに差し込む寝室。重厚な寝台に、(うごめ)くものがあった。

 夜に染み入るように静かに寝息を立てていたそれは、突如こわばりだした。掛布から腕が伸び出でたと同時、力がみなぎり、滑らかな指が爪を立ててシーツを鷲摑む。

「……ッ!」

 寝台の上で、レーナは歯を食いしばっていた。突然の苦しみに声も出ない。

 痛い。

 頭が―――なにが、なにが起きたのか判らない。

 この、頭を貫く激しい痛みはなんだ。

 身体中から脂汗が吹き出で流れ落ちてゆく。

 痛みだしたきっかけは、―――よく判らない。夢の間をぼんやりたゆたっていた、と、思う。

 最初は、つきりとした細い痛みが頭の奥にあった。それが波のように何度も押し寄せてきて、押し寄せるごとに強くなり、ついにはうめくことすらままならないほど酷くなっていった。

 容赦のない激しい頭痛は、夢うつつの世界から無理やり彼女を現実へと引きずり出した。

 どれだけの時間痛みに苦しめられているのか。

 はてしなく長い時間にも思えたけれど、薄く開けたまぶたの向こうの部屋は青白い月明かりのまま。ほんの僅かな時間しか経ってないのかもしれない。レーナには永遠にも感じられる時間だというのに。

「うぅ……」

 頭を抱える左手指先に感覚はない。抱えている、という自覚すらなかった。

 頭痛は、(こら)えても堪えても落ち着く気配がない。

(痛い……!)

 割れる―――。ひと言で言い表すならば、割れる、だった。

 意識が容赦なく破られる痛み。

 いったいなにがあったのか、何故なのかと考えることもできない。

 とにかく、ただ割れそうに頭が痛む。

 頭の中でなにかが膨張して、内部から強く圧迫されているような。

 また、波が来た。

「―――!」

 悲鳴は声にならない。けれど叫ばずにはいられない。叫んで痛みが和らぐわけではないが、喉に力を込めることで、強く噛み締めた歯の間から痛みによって削られた意識が、ねっとりとした喘ぎとなって漏れ出る。たったそれだけで、痛みが和らぐ気がした。

(誰か、助けて―――!)

 思考が、ちぎれそうだ。

 最初に目が覚めたとき、ナイトテーブルの呼び鈴を鳴らすべきだった。どうしてそうしなかったのか。

 真夜中だろうこの時間、誰も異変に気付かない。誰ひとりとして起きるわけがない。

 もう、寝返りもうてない。レーナはは枕に顔を(うず)め、身体をちぢこめることで、引き裂かれる痛みと戦うしかなかった。

(お願い……!)

 食いしばる歯が、砕けてしまう。

 せめて気を失えたら。

 浅い呼吸を懸命に繰り返すレーナ。

(痛い……お願い痛い……)

 ()えられない。

 早く意識を手放したかった。自分にできることは、それくらいだったから。

(神さま……!)



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