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常闇の世界から(仮題)  作者: 黒真黒
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第1話

― 町外れの山頂 ―


 濡れ羽色の髪をした青年は少し開いたリュックを大切に抱える


 四つの眼が天空の星々を捉える


 あたりはすでに暗く、星明りだけが青年を照らす


 青年は気温の低さ故か、体を震わせている


 「夏とはいえ半袖は不味かったかもしれない」


 そう呟きながら絶望した表情で星を見続ける


 「やっぱり、何も感じないな」


 そう呟きながらも、空から視線を外さない


― とある海域 ―


 ワタシは眺めていた―今までの彼を―


 故に、ワタシは考えた


 今の彼なら…今まで無理だと思ってきたが、心が弱っている今この瞬間の彼であれば


      私の願いを叶えられるのではないか


 そしてすぐに、遠く、深く、昏い海の水底から語り掛けることにした


― 町外れの山頂 ―


 唐突に眠気に襲われたように、青年の頭が揺れ始める


 さざ波の音が山頂に響く


 ・

 ・

 ・


 青年はそのまま深い眠りに落ちた


― 白い?空間 ―


 ここは夢の中だろうか?しかし、夢にしては意識がはっきりしている。であれば、この空間は夢では無いのだろうか。今俺が目を開けているのかどうかも分からない。周りの景色も認識できない。方向感覚だってぐちゃぐちゃだ。なのに周りは白いと感じている。

 ここは一体どこだ?気持ちの悪い場所だ。早くこんな場所から…いや、どうでもいいか。場所が変わったって何の意味もない。何も戻りはしないのだから。


 気分が沈みそうになり…


 遠くから声が聞こえてきた


 …何と言っているかは分からない。けど、意味は何となく伝わった。

 どうやら何かしらの神が復活のために生贄を求めているようだ。

 手伝うのなら、好きな願いを叶えてくれるらしい。

 下らない、俺は神様という存在が最も嫌いなのだ…それに従う人間も。


 そいつに反抗する姿勢を見せると、体が急に浮くような感覚―エレベーターに乗った時より強い浮遊感と言えばよいだろうか―に陥いり、次の瞬間下に引っ張られる感覚を覚えた。


 声はどんどん遠くなり、完全に聞こえなくなった。


 声が無くなっても落下は止まらない。


 加速度的に落ちる速さが上がるにつれ、体の中心―心とでも呼ぶべき部分―の表面が剥がれていくような感覚があった。このことに特に不快感は無く、むしろ気持ちよく感じた。今までに感じたことのないような解放感さえ。


 だが、全てが剥がれ落ちたわけでは無かった。


 今までに感じたことのない違和感と幼馴染への思いだけが心にこびりついていた。


― とある惑星の外側 ―


 濃い墨色の夜空―赤き大陸の上空で一筋の流星が輝いた。

 流星は消えることなく大陸に一直線に進行した。

 明確な意思を持っているかのように真っ直ぐと…


― 昏き森 ―


 その日、昏き森に隕石が衝突した。

 いや、正確には衝突する直前に一旦停止し、ゆっくりと地面に転がった。

 ピシッという音と共に隕石にヒビが入り、真っ二つに割れて、中から紺色の髪の青年がぬるりと出てきた。青年に意識はないのか、ピクリとも動かず地面に横たわった。


― ヴィルド村の冒険者ギルド ―


 「ギルド長!森に、デケェ隕石が!」

 ギルドの2階、ギルドの主の住まう部屋の扉を銀髪に緑のメッシュの入った青年がすごい勢いで開け放つ。


 「落ち着けフルール」

 ギルド長と呼ばれた、茶髪をオールバックにした男は平然と書類を片付けながら答える。

 

 「いや、落ち着いてらんないッスよ!あの森にはアイツが眠ってるんスよ。もし、隕石の衝撃でアイツが目を覚ましたら…」

 最悪の予想がフルールの顔色を青くする。


 「安心しろ、もしもの時は俺が対処する。最悪の場合、王都にも応援を要請する。それにアイツは、あの悪魔が見張ってる」

 ギルドの長は安全を確信した様子で淡々と仕事を片付けていった。


― 昏き森 ―

 

 紺色の髪の青年が仰向けに倒れていた。

 そよ風が全身をなで、暖かな大地が冷えた体にじんわりと熱を与えてくれる。


 「いや、おかしいだろ」

 青年は強烈な違和感と共に目を覚ました。


 「どうして全身で風を感じられる?どうして大地を全身で味わっている?」

 今までに感じたことのない解放感に、嫌な予感が脳内を駆け巡り、冷たい汗が全身から噴き出す。

 一度深呼吸し、最悪の覚悟を持って目を開ける。


 まず目に入ってくるのは、背の高い黒い幹の木々

 次に、橙色に発光する大地とデカい岩が2つ

 最後に、全裸の自分…なんか、全身カピカピである


 左腕は視界に入らないように周りを見渡す。すぐそばに自分の物であろうリュックを見つけ、中身を確認する。中には血の付いた鋸と懐中電灯、ヴぉーいお茶が入っていた。空は木々に覆われて見ることができない。


 「ここはどこだ?なんでオレは全裸なんだ?追いはぎか?オレの服は奪ったのにリュックは奪わなかったのか?そもそも、オレは山で星を見ていたはずだ。服も着ていた。夢のような空間で聞こえた変な声が原因か?だとしても、服はそのままで良くないか?」

 突然起きた出来事に頭がついていかない。

 焦った心を落ち着けるため、これまでの自分の記憶と現在の状況を整理する。


 バイト帰りに幼馴染の病室によったら、ちょうど幼馴染の死に直面し、現実逃避に山で星を見た。その後、夢の中でなんやかんやあって、現在、知らない場所で全裸で途方に暮れている。そして、一番の懸念点として左腕の違和感だ。


 感覚的に、左手の感触がいつもと違うとは思っていた。

 起きた時から気づいていた、しかし理解したくはなかった。

 だが、今の状況で最も確認すべきは身の安全であり、自身の健康状態でもある。


 そっと、左手に視線を向けると


 なんか、すごい、うねうねしていた


 黒い表面はぬらぬらと光沢を持ち、吸盤がついていた。

 長さは元の左腕ほどで肘から下は全部触手となっていた。


 「いや、触手というか蛸の足だな…つか、キメェ」

 何というか、いろいろ起きすぎて疲れた。ストレスは限界を超え、リュックを枕にその場で眠りについた。

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