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053  作者: Nora_
6/9

06

「でさ、加藤と藤堂さんが仲良くしたいんだって」


 こんなことを言うのは意地悪かもしれないけど言わさせてもらった。


「へえ、それはいいことだね」


 と、彼女は至って普通な感じで答えてくれる。

 ただ、逆にそうなると心配になるのが私という人間で、本当にいいのかと聞いてしまう。


「プレイヤーとして憧れてるんだよ」

「そっか」


 それならこれでこの話は終了。

 あまり言いすぎて逆にそちらにそういう意味で興味が出たら困るから。

 さて、学校の時間までどうするべきだろうか。


「そうだ、肩を揉んであげるよ」

「えっ? わ、私の?」

「うん、いつも頑張っているから」


 接触の機会を増やしたいのだ。

 決して先輩からの一方通行ではなく、こちらも悪くは思っていないんだよと伝わればいい。

 私はなんでも口実を作って一緒にいたい、他の子と仲良くしているところを見たくない。


「あっ……んっ……」

「気持ちいい? 引きこもっていた時はお母さんによくしていたからね」

「……な、なんか恥ずかしい」

「いいじゃん、気持ち良くなっておけば」


 もしかしたらそれ目当てで近づいて来てくれるかもしれないし?

 バイトに学校に部活、その全てを頑張ろうとしたら疲れるに決まっているのだ。

 だったら少しでも癒やしてあげたい、たった肩を揉むという行為でもそれができる気がした。


「えい」

「んぅ!?」

「あはは、ここやるとお母さんも似たような反応してたよ」


 あまりやりすぎてもあれだからそこでやめて床に寝転がる。

 バイトを始めてからというもの、早寝早起きが習慣になったから助かった。

 おかげでまだ午前8時なのにあらかた家事を終わらせることができたから。


「はぁ、はぁ……」

「ん? どしたの?」

「束峰ちゃんのせいだからね……」


 おおい、なぜそのまま覆いかぶさってくるんだ。


「だって……やられてからなんか体が熱いもん……」

「血流が良くなったからじゃない?」


 普段鍛えている彼女とは違ってこちらは元不登校女、逃げることなんてできない。


「あ、そうかな? そうかも!」

「うん」


 あっさりどいて「楽になったー」と口にして笑みを浮かべているアホ可愛い先輩。

 肩揉みマッサージで欲情する人間とか見たことないよ、それとも知らないだけでそういう感情を刺激するツボがあるとか? 単純に落ち着いたことによる効果なのだろうか。


「金髪から黒髪には戻さないの?」

「あ、戻そうかな、許可してくれてるけど西村さんにも申し訳ないし」

「私、黒髪の方がいいと思う」

「だね」


 訳ありな人ぐらいしか来ないだろうからと染めてみたのに意味なかった。

 別になんてことはない、過去になにかがあっても他人に当たる人間はいない子たち。

 元不登校としてそれぐらいのスタートダッシュが必要と考えていた、が、いい意味で無意味に終わったということになる。

 すぐにネットで調べてみた結果、完全に戻すのにはどうやら時間がかかるようだった。

 それならばと早速今日から実行していくことに、先輩が黒髪がいいって言ってくれたしね。

 平日ということもあって初めて美容院なんてのを予約して利用してみた。

 どうやら市販のを買ってセルフでやるよりかは良くなるらしいから。

 そうして慣れない美容院利用を始めて数時間後、


「どう?」

「おぉ、黒髪だあ」


 家に帰って先輩に見せる。

 お金はかかったけど、もう染めても意味はないからこれで良かったと思う。


「もしかして金髪の時は怖かった?」

「怖いほどではないけど、正直に言ってもったいないって思ってたよ」

「もったいない?」

「うん、だって束峰ちゃんは凄く優しい子だもん。偏見だけどさ、日本人で金髪にしている人ってあんまりいいイメージがない気がして……」

「あー……まあ、元が黒髪だしね」


 私の中にも未だ金髪=不良とかそういう人というのが残っているため、先輩の言いたいことはわかる。

 と、直前まで金髪だった不良で元不登校女が考えていますが。


「そういえば嘘つきじゃん」

「え? なにが?」

「やる気がないって言ってたの、本当は違かったんじゃん」

「いや」


 自分の理想を押し付けすぎて、数の勢いに負けて、それで学校にすら行かなくなった人間だ。

 要はそれはわかってもらうことを諦めてしまったわけで、やる気がなかったことには変わらない。

 そのせいで両親にはかなりの負担をかけた、本当は行けと言いたいはずなのに我慢をさせた。

 いつも謝ったら大丈夫だからと答えてくれたけど、その内側はどうだったのかはわからない。

 だから少しずつでも返していくのだ、他じゃわからないからお金を返すという方法で。

 そりゃ喜んでくれるだろう、外にすら出なかった娘が学校に行ったうえに働いているのだから。

 私がもしそんな娘の親なら涙を流すと思う、まだ希望はあったのだと感謝すると思う。

 

「まあこの際だから言っておくとさ、私は逆に真面目にやりすぎたんだよ。やるからには真面目に、そして勝ちたい人間でさ、少しでも手抜きをしている人間を見たらその度に指摘した――その結果、私のことが嫌いだった人間が群れで襲ってきてさ、部活に行けなくなって学校にも行けなくなったってだけ」


 襲ってきたと言っても悪口をぶつけてきただけだ。

 勇気があるのかないのかわからない、直接聞こえるところで、必ず2人以上で。

 それでもとそうなってからも自分は自分を信じて真面目にやっていたんだけど、なぜだか真面目にやる方が悪みたいな雰囲気に負けてしまったわけだ。


「それで不登校を選んだのはやる気がない証拠でしょ」

「違うよっ」

「櫻井さんはどうだったの? ちゃんと学校には行ってた?」

「うん……でも、部活には行けなかった……」

「え、櫻井さんが?」


 あれだけバスケをしている時に楽しそうなのに?


「うん、バスケをする時って凄く楽しくて笑顔でやっていたんだけどさ……それが気持ち悪いって言われて、段々気になってバスケにも集中できなくなっちゃって……顧問の先生に言って休ませてもらってたんだ。でも、お母さんが所属している社会人チームの方に参加させてもらえてたから潰れずに済んだんだ」


 小学生とか中学生って1番残酷な気がする。

 自分がそうじゃないからってなんでも否定してしまうなんておかしいじゃないか。


「社会人チームの方では言われなかった?」

「うんっ、すっごくいい人たちばっかりだったんだ! 寧ろ私より嬉々としてやっているぐらいでさっ」


 大人になってからも続けているのだ、そりゃ並大抵の気持ちではないだろう。

 ある意味部活を選べば所属できる小中高大よりも難易度が高いと思う。

 活動できる場所を借りたり、大人になってもバスケが好きな人を集めなければならないから。

 バスケが大好きな人たちが集まるそんな場所だ、同じようにバスケが好きな人が来たら嬉しいはず。


「良かったね、大好きなバスケができて」

「うん!」


 定時制のルールでどこかの部活に所属することは強制だ。

 が、強制でも任意みたいなものなので、参加率は限りなく低いと言える。

 しかしバスケ部員に限っては違って、学校が終わってから22時までの1時間をそれに割いている。

 バイトなどをして疲れていてもなお、バスケをしたいと思える人たちの集まりだ、そういう人たちと一緒にプレイができて嬉しいだろう。


「定時制って聞いて最初は怖かったんだ、なんかあんまりいいイメージなかったから。でも、いまならちゃんと心から選んで良かったって言えるよ!」


 この人がここに来てくれていて良かった。


「あれ?」

「うん?」

「なんで普通の高校に行かなかったの?」


 あくまで問題だったのは部活動だったのなら中学が終われば問題も終わるわけだけど。


「それは……バスケばっかりしてて勉強を全くしていなかったのです、いえい……」

「oh……」


 いい意味でも悪い意味でもバスケ大好き少女なのだった。

 

 


「束峰、少しここは頼むぞ」

「わかりました」


 あれから時間も経過して西村さんも名前で呼んでくれるようになった。

 別にみんなのことを名前で呼んでいるから特別感はないけど嫌われているわけではなくて安心する。


「佐渡、ちょっと」

「え、小笠原さん?」


 どうやらお客さんはいないらしい。

 珍しくフロアの方に呼ばれて向かうと先輩が机に突っ伏していた。


「起こして、邪魔だから」

「わ、わかりました」


 変なことをしてもあれだから普通に話しかけることに。


「櫻井さん」

「聞いておくれよぉ」

「うん、どうしたの?」


 どうやら出会ってからずっと一緒にいる子が名前を呼んでくれなくて困っているらしい。

 それって加藤のことだろうか? それとも清香? 藤堂さんは名前で呼んでいるしそれぐらいか。


「言ってみたらどう? 名前で呼んでって」

「うーん、でも断られたら嫌だなって」

「断らないでしょ、櫻井さんが頼んだらさ」


 お客さんが来たため私は向こうへ戻る。

 名前呼びをしてくれないのが引っかかっているということはその人のことが気になっているのかな。

 いやでもいいのだ、先輩が幸せならそれでいい。

 頼まれたものを作って小笠原さんに渡して考えていたら西村さんが戻ってきた。


「悪かったな」

「いえ、あのお客さんしか来なかったですから」

「ちょっと電話をしていてな」

「もしかして私、クビですか?」

「はは、なわけないだろ。というか、髪染めたんだな」

「はい、よくよく考えたら意味もないことでしたので。来てくれる人も黒髪の方がいいかなと」


 飲食店ならなおさらのことだ、あまり派手すぎると来づらくなってしまうから。

 もっとも向こうに出ているわけじゃないけど、それでもイメージというのを大切にしたい。


「いい子だな」

「ちょ……なんですか?」

「いや、全然想像と違かったからな。お前は真面目だしちゃんとできるし助かってるよ」

「ありがとうございます、西村さんといるのも好きなので」

「なるほどな、そう言ってくれるとありがたいよ。なこは絶対に言わないからなー」


 なこさんとは小笠原さんのことだ、なおこさんだけど。

 本人には嫌がられているようだけどひとりだけ呼ばないというのも不公平だからと継続中らしい。

 そして意外と抑止力になるからなのか自分も気に入られているようにも見える。


「束峰」

「なんですか?」

「3日は逆に少ないんじゃないのか?」

「そういえばそうですね、なら6――」

「極端すぎる、4日にしろ」


 そういえば4日にすると決めたのに週に3日になっていた。

 指摘してくれて助かった、西村さんが直接言ってくれるなら理由になる。

 しかも働けば働くほど両親にお金を返せるわけで、うん、最高だ。


「わかりました! 働けば働くほど西村さんからお金が貰えますもんね」

「変な言い方をするな、まあ事実だが」

「でも、急にどうしてですか?」

「休みの日も巴絵が来るんだよ、お前がいてくれると助かる」

「えぇ……そういう意味でしか求めてくれないんですか?」


 これでも頑張っている方だと思うけど。

 いやまあ、働いているのだから頑張るのは当然だけどさ。

 

「私はお前の能力の高さを評価しているぞ」

「そうですかっ、なら良かったです!」


 寧ろこの人の方が怖そうなのに優しくて驚いたぐらいだ。

 あと調理している時が最高に格好いい、こんなことは言わないけど。


「ふぅ、今日は来る人が少なくて楽だな」

「そうですね、金土は結構来ますけど」

「そういえば日曜日に入ったことなかったか、今度入ってみろ」

「わかりました」


 ただ少しだけ嫌な点はもう梅雨だということ。

 傘をさしながらの歩きだと結構大変だし、濡れなくても風邪を引きかねない。

 その場合は回数ではなく1日の時間を増やしてもらおうと思う。


「西村さんの家ってどこら辺なんですか?」

「私のか? そうだな、向こうの方だ」

「私とは真逆ですね。そうだ、櫻井さんの家って知っていますか? ここからも結構距離があるんですけど、よく通ってくるなって」

「まああいつは体を動かすのが好きだからな、最大でも3日しか入らないからそんなに負担ではないんじゃないか?」


 3日にしている理由ってなんだろう?

 それこそいま言ったように距離が関係しているのだろうか?

 そう考えると毎日1時間から1時間半を使って登校ってすごいな。

 あの人は部活をした後に帰路に就かなければならないわけで、もう私の家に住めばいいのにと思う。


「お前は危ういやつだからしっかり見ておかないとな」

「そこまで貧弱じゃありませんよ?」

「いや、お前はこうと決めたらのめり込むタイプだろ? 休憩とかを疎かにするもんな」

「し、したことありま――した……」

「だろ? だから大人としてちゃんと見ておいてやるよ」


 うーむ、格好いいな。

 女の人だけど男の人ぐらい頼りがいがある。


「ありがとうございます、受け入れてくれて」

「ふっ、いちいち礼なんか言うな」

「でも、櫻井さんと西村さんがいなかったらここで働けていませんから」


 本人がいいって言っても感謝をしているのだから伝えさせてほしい。

 

「いい」

「あ……よく撫でてくれますよね」

「私には娘がいるからな」

「なん……だと!?」


 ならなんで指輪をしていないんだろうか。

 衛生的な理由だろうか、もしそうなら真面目だなって感想しか出てこないけど。


「意外だったか? これでも結婚してるんだ」

「いえ、そこは意外ではありません。ただ、せっかく西村さんの特別を狙っていたのになって」

「嘘言うな、お前が好きなのは巴絵だろ」

「ち、違いますよ……少なくともあの人にとってはよくわかりません」

「一緒にいてみればわかるだろ」

「そう……ですかね、そうだといいですね」


 とりあえず名前で呼んでくれない人って誰だろう?

 もしかしてそれって私だったり……可能性は0ではない、はず。

 もしそうならいいなと考えつつ残りの時間を働いたのだった。

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