05
「へえ、ここが佐渡の家なのか」
どうしてこうなった。
1対1なら大丈夫とか考えていた私が馬鹿だったのか?
しかも来た相手が藤堂先輩だというのが1番最悪で。
「どうぞ」
「サンキュ」
それでもね、こっちにも常識ぐらいはあるから飲み物を提供したよ。
もう22時半ぐらいなのに集まったってなにができるわけじゃないけれども。
「そうだ、西村さんが怒ってたよ?」
「え? やっぱり使えないから?」
「違うよ、心配してくれてるんだよ」
といっても、家にいたって寝るぐらいしかやることない。
櫻井さんが遊び行く仲かって聞かれたら答えに困るし、だったら働くのが1番だと思う。
「やる気なし少女が一転、今度はやる気有りまくり少女か」
「もちろん頑張れるのはいいことだけどさ、がむしゃらにやればいいわけじゃないんだよ?」
「そうだな、たまにはあたしみたいに休むのも必要だ」
ああもう藤堂さんがうるさい。
私は元々こういう人間なんだ、そこに文句をつけられても困ってしまう。
誰かに迷惑をかけているということならやめるけどそうでないなら続けていきたかった。
「続けるようなら一切シフトに入れないって」
「なんで……」
使えないならストレートにそういう旨をぶつけてくれた方がマシだ。
「まあ、せめて6連勤はやめろ」
「そうだよ、時間は絞らないで4日ぐらいにしておけばいいでしょ?」
いや、働けばお金が手に入るという状態でのうのうと休むわけにもいかない。
どれぐらいになるのかは初給料がきていないからわからないけど、動けば時間をお金にかえられる。
「巴絵だって週に3日しか働いてないんだぞ?」
「そうだよ――って……その言い方だと怠けているみたいじゃん」
「いや、いまはまだそれぐらいでいいだろってことだ、どうせ社会人になれば嫌でも働かなければならないんだからよ」
でもそうか、働かせてもらえなくなるよりはいいか。
しょうがないから適度というやつを考えることにする。
最低2日からと考えていたのだからその2倍の4日がいいのかな?
そうすると時間がダダ余りになっちゃうけど、本とかを読んでおけばいい……はず。
「さて、そろそろ帰るか」
「そうだね」
「気をつけて」
このふたりが仲良くできているならそれでいいか。
どうしたって目に入ってしまうのだから気にしていたらきりがない。
私はただ、笑顔で接してくれる彼女が好きだっただけ。
憧れの藤堂さんといることでもっとそれが見えるならそれでいいのではないだろうか。
ふたりが出ていき一気に寂しくなったこの空間。
ずっと部屋にこもっていたんだ、これぐらいなんてことはないと割り切ってお風呂へ入ったのだった。
「束峰さん」
「ん……? ああ、加藤か」
「ちょっといいですか?」
月曜日。
大して眠たくもないのに机に突っ伏して寝ていたら加藤が話しかけてきた。
見ただけでなにか言いにくいことを言おうとしているというのがわかった。
「藤堂先輩のことなんですけど」
「うん、藤堂さんがどうしたの?」
「……もっと仲良くなりたいんですっ、どうすればいいですかね!?」
ああして自由に言ってくれた人と仲良くなりたいってすごいな。
私なんか弱くて休んで、そうしたら学校にだって行けなくなったのに。
「だったら藤堂さんといるしかないんじゃない? 同じ部活だから簡単だと思うけど」
「でも……藤堂先輩と比べたら下手だから……」
「なんで? 普通に上手じゃん。シュートだって綺麗に入るし」
「……下手だからこそ教えてもらうというのも有りですかね?」
こっちの話聞いてねー……この子藤堂さんしか見えてねー。
だけどあの人はどうなんだろう、櫻井さんのことを気に入っているように見えるけど。
しかも櫻井さんの方もあの人のことを気に入っているから泥沼だぞ。
「うん、自分のしたいようにやるのが1番だよ」
「そうですよね、ちょっと頑張ってみますっ」
そう加藤から聞いて数分後、
「束峰、もっと彩香と仲良くなりたいんだけれど」
なにも5分しかない休み時間に、トイレ行こうとしているところじゃなくてもいいじゃん?
「だったら積極的に近づくしかないんじゃない?」
「あの子が苛められていた時になにもできなかったのが気になってて……」
「それならなおさら動かないと」
「……そうよね、ありがとう」
もちろん慌ててトイレに行った。
それであと残り1時間で学校が終わるとなった時のこと。
「佐渡、ちょっといいか?」
「うん」
「加藤――彩香ともっと仲良くなりたいんだが……その、まずは謝罪をしたいと――」
なんで私に言うの? なにができるわけじゃないのに。
この調子で藤堂さんと仲良くなりたいとか櫻井さんが言ってきたら発狂するよ?
「藤堂さん」
「な、なんだ?」
「そう思っているなら積極的にいるしかないよ」
「……だよな、サンキュ」
あれ、でもこれなら櫻井さんはフリーということになるのでは?
いやまあ、本人の気持ちがどうかはわからないからあれなのはわかっているけど。
そして部活の時間。
今週は水木金にしたので今日は少し寄り道をしていくことにした。
まあ……バスケをやっているのを見るだけだけど。
「彩香ちゃん!」
「櫻井先輩!」
パスが通るかと思いきや、
「ふっ、甘えよ! ほらっ」
「はい!」
藤堂さんがそれを止め、チームメイトさんがシュートを決める。
もう本当になんであの人私を殴ったん? 最初から真面目にやっておけよもう……。
「ナイシュー!」
「ありがとうございます!」
「むぅ……」
「はははっ、そんな顔してないでもっと頑張れ彩香」
「あ……はい!」
なに見せられてるの私たち、ただの素直になれないツンデレさんだったということか。
櫻井さんの様子がおかしくなっているということもないけど……どうなんだろうな。
「束峰ちゃんカモーン!」
「はいはい……」
どうせ暇ならバスケをすればいい。
それに見ているとウズウズしてくるからちょうどいいだろう。
仲間は櫻井さん、清香、私と他の子って感じ。
櫻井さんが中心で頑張るチームというところかな?
「ゆっくりねー」
ボールを渡されて、私は考える。
清香は自らシュートに行くタイプではない。
パス、スクリーンアウトやリバウンドを主に頑張るタイプ。
渡したら渡したでディフェンスを躱せるかもれないが、ここはちょっと攻めてみてもいいかも。
「清香っ」
「わかったわ」
中に突破、他の子は外にいて櫻井さんも中に入ってきていると。
いや、でしゃばるな、確か外にいるあの子は3Pを綺麗に決めていた気がする。
「佐渡さん!」
「うん、はい!」
なるべく取りやすくシュートに持っていきやすいパスを。
彼女は受け取ってからものすごい早さで放ち、見事それを決めた。
速いのに綺麗なシュートだなと見惚れていたら急に抱きしめられて困惑。
「佐渡さんのパスは優しくて好きだよ!」
「え、そ、そう? あ、ありがと」
「こっちこそありがとっ、気持ちのいいシュートが打てて嬉しいよ!」
驚いた、バスケ馬――バスケ大好き少女はここにもいたんだと。
そりゃ毎日飽きもせずにやっているのだからそうだろう、興味がないのにしていたら寧ろ才能だけど。
「束峰ちゃんっ、次は私にもちょうだい!」
「うん、わかった」
さて、なんで私が中央になっているのか。
そしてこちらを見つめる部員の目がキラキラしていて怖い。
期待に応えられなくなったらどうなるのかなんてわかっている。
失望するだけならともかくとして、人間ってのは悪口を言うんだよなと。
でも、もうあいつらはいないんだからビクビクする必要もない。
私は櫻井さんに認められたい、だから少しでもと頑張ることにした。
で、こういう時に活躍してくれるのが清香だ。
また同じような形で中に踏み込んだ、今度は櫻井さんは外にいる。
ただ、ここで渡したら藤堂さんにバレバレだろうから敢えてリングにシュートした。
意図的に跳ね返させたそれをなるべく早く取ってそのまま櫻井さんへパス。
リバウンドも頑張っちゃおうとしたのにさすが部長と言うべきか決めてしまって無意味に終わる。
「ありがとう清香」
「ふふ、別にお礼なんていいわ」
いいよな、わざわざ言わなくても察してくれるから。
こんなに優秀な姉がいてくれたら不登校にならなくて済んだのにな。
「束峰っ、あたしともやれよ!」
「いいよ」
珍しくバイト以外で頑張ったせいで体が痛くなった。
だけどみんなと仲良く楽しくできたからそう悪くない時間だったと思う。
「いたた……もう年だな……」
もうね、週1ぐらいしかあんなことやらないよ。
学校とバイトをしているだけで十分だ、それにでしゃばったらいけないから。
「束峰ちゃん」
「あ、櫻井――」
こちらの唇に指を当てて首を振る先輩。
「向こうに藤堂さんがいるから静かにね」
こくりと頷いたら先輩は「いい子」と口にして離してくれた。
静かにする理由がよくわからないけど、あ、藤堂さんに仲良くしているところを見られたくない?
本当はあの人のことを気に入っているから……いや、まあそれでもいいって決めたんだっけか。
「今日はふたりで帰ろ」
「え、うん」
「それでさ、今日泊まりに来ない? 明日は束峰ちゃんもお休みでしょ?」
「うん、え、いいの?」
「うんっ、ほら行こっ」
ああ、そんな手を握ってきたりしたら……落ち着かなくなるじゃないか。
「ちょっと待って……下着とか取りに行かないと」
「あ、じゃあ束峰ちゃんのお家に泊まってもいい?」
「へ? え、下着とかどうするの?」
「実は着替えはいつも持ってきているのです、いえいっ」
「……なら私の家に泊まりなよ」
「うん!」
地味に先輩の家は遠いから助かった。
それに家族とご対面することになったら気まずい、金髪だから誤解されそうだし。
その点、家でなら完全にふたりきりだし――って、ふたりきりじゃん……どうすんの?
「えへへ」
「うん?」
「ううん、ほら行こ!」
普通なら痛く感じるはずなのに可愛いから困る。
どうなってんのこれ、どんな魔法を使っているの?
先程まで運動をして汗をかいていたのにいい匂いだし、魔法使いなのかも。
「どうぞ」
「お邪魔しますっ」
ま、それを表に出さないようにする天才が私だ。
いたってなにも気にしていませんよーという体で接していく。
「お風呂先に入ってきなよ、ごはんを作っておくから」
「うん、行ってきます」
「あ、タオルどうぞ」
「ありがとー!」
とはいえ、あんまり重いものだと胃がもたれたりするからベーコンと目玉焼き丼で。
ただ先輩は滅茶苦茶頑張っていたので卵2個半をあげたいと思う、私は半分。
「出たよ」
「早いね。でもまあいいや、食べてて」
「あ、私もやるよ目玉焼き丼! しかもこれベーコンなんて豪華じゃんっ」
「あはは……ゆっくり食べてて、お風呂に入ってくるから」
ふぅ、冷静になったらただの同性同士が一緒の家の中で寝るというだけだ。
変に構えたりする必要はない、こういうことをするのが実は憧れだったからしっかりしないと。
とりあえずは汗をしっかり流すことだ、臭いままだと嫌われかねないし。
「戻ったら時間的におやすみだよなあ」
あれだけ動いていたのだから先輩がもう寝ている可能性もあるのか。
それならタオルケットをかけて風邪を引いてしまわないようにしないと。
「あ、おかえり」
「ただいま。私も食べようかな」
もし同棲をしていたなら毎日こんな感じなのかなと予想する。
こんな大雑把なご飯を食べていてもなんだか幸せな気がしてくるのだから不思議だ。
「ごちそうさまでした」
洗い物はもちろんその日の内にだ、そうしないとカピカピになって大変になるから。
「寝ようか」
「そうだね、さすがにちょっと疲れたし……んー! はぁ……」
電気を消して寝転がろうとしたが、ここがリビングだったことを思い出して彼女を寝室へ運ぶ。
「適当に転んでよ、布団はひとつしかないからあれだけど」
「一緒に寝ましょ」
「まあ櫻井さんがいいなら」
それでも恥ずかしいから背を向けて寝ていたら背中に衝撃と暖かさが。
「今日抱きしめられてたね」
「パスがいいんだって、櫻井さんはどう思う?」
「んー、私の時は愛情が感じられなかったなあ」
「そうかな? なるべく頑張っちゃったんだけど」
だって認められたかったし。
他の人には馬鹿にされてもいいからこの人にだけはって動いてた。
ま、あっさり決めちゃって意味なかったんだけど。
「藤堂さんにも気に入られてていいなあ」
「櫻井さんはいいじゃん、みんなに慕われてるんだから」
「そういうのじゃないよ……」
「いや、勝手に悪く捉えるのやめてくれる? 私は……」
いや、なんかこの状態で好きだと言ったら告白みたいになっちゃうからやめた。
「いいから寝よ、明後日はバイトだから休めておかないと」
「……このままでもいい?」
「……櫻井さんがしたいなら」
「うん、ありがと」
少なくともいまこの時だけは私を求めてくれている。
自分にとってはそれだけで十分だと決めて、幸せに包まれながら寝たのだった。