02
慣れないことをしたせいで1週間ぐらい悶えることになった。
バスケ部メンバーに顔を見られると軽く死ねるから部活にも顔を出さずに片付けることに集中した。
「佐渡ちゃん」
「お……」
行かなくなったせいで櫻井先輩が教室に来るから意味ないんだけど。
「お?」
「おはよ……」
「おはよ!」
おはよっておかしいな、もう21時だけど。
でも、これが普通なんだよな、定時制では全然おかしくない。
ああ、なんでこの人の笑顔はこんなに眩しくてチクチク刺さるんだ、痛い……。
「やっと来てくれたねっ」
「……それはあんたが来るからでしょ」
「だって佐渡ちゃんが来なくなっちゃったんだもんっ」
だって恥ずかしくて行けなくなっちゃったんだもん!
「……私が頼りないせいかと思ってたから」
そんなこと考えていたのか、やはりこの人にも原因があるな。
「そんなことないよ」
「わっ」
頭に手で触れて落ち着かせる。
まあこの人の方が身長高いんだけどね、バスケ向きって感じでいいかも。
「さ、佐渡」
「あ、来てくれたんだ!」
この前私をぶん殴ってくれた人、藤堂先輩。
が、みんなが萎縮してしまったので向こうのコートでやることにした。
「どうぞ」
「お前も頑張るんじゃないのかよ!」
「やるよ――あ、藤堂先輩がちゃんとやれるか見てあげるよ」
「はあ!? お前見てろよっ? あたしはこれでもできるんだからな!」
それでやってみてもらうと確かに上手だった。
ボールを運ぶのが上手い、ポイントガードに見えたのは間違いではなかったみたい。
「ほら、お前もやってみろよ」
「うん」
端っこからボールを運びはじめ、いまの私は正に司令塔の気分でやっていた。
「はい、ターンオーバー」
「ちょっ、ずるいでしょそれは!」
「おいおい、試合の時はディフェンスがいるだろうが!」
「そうだけど……先輩の時はフリーだったでしょうが!」
駄目だこりゃ、私と先輩の相性って多分良くない。
なにかと衝突する羽目になったし、そりゃバスケ部員だって怯えるわ。
「だーかーらー! レイアップの時はもうちょい前にパス出してくれないと!」
「お前が合わせるんだよっ、いつだって完璧なパスがくると思うな!」
「はぁ……下手くそなのを棚に上げて……」
「お前なんかちっとも決められねえじゃねえか!」
「だからそれは先輩が……はぁ、わかった、頑張ってこの優秀な私が合わせるよ」
だけどなんか楽しいな。
中学の時と違って指摘してもやる気をなくして帰ったりしない。
悪口を言ったりしない、あ、先輩は思い切り言っているけど。
「と、藤堂先輩」
「あ? ああ……」
「その、頑張りますので一緒にやってくれませんか!?」
加藤はすごいな、あれだけ言ってきた相手に頭を下げられるなんて。
なかなかできることじゃない、怖がりの彼女であるのならなおさらのこと。
いまだって怖いのかプルプル震えているし……偉い、恥ずかしくて痛い私とは違う。
「……いいのかよ?」
「はい! よろしくお願いします!」
「あー……というわけだから」
「うん、行ってらっしゃい。たまには先輩らしいところ見せてよ?」
「うっせっ、大体あたしの情報なにも知らねえだろうが! このやる気なしの幽霊部員が!」
それを言われると大変痛い。
櫻井先輩にも指摘されたところだから両耳を押さえて聞こえなかったフリをしておいた。
「さ、佐渡ちゃん」
「やらなくてもいいの? せっかく先輩がやる気になってるのに」
「これって全部佐渡ちゃんのおかげだよね?」
なんでそんな風に考えるんだ、こっちなんて痛いだけなのに。
「だからお礼がした――」
「そんなことないから、それにほら、私も一応バスケ部員だし?」
「だ、だから動いてくれたんだよね?」
「違うってっ、私はそこまで人のことを考えて動いてないよ。ほら、やってきなよ、バスケをやれる時はハイテンションになっちゃうんでしょ?」
よっぽど加藤の方がしっかりしている。
いや違うか、色々考えすぎてたまに自分を見失ってしまっているだけなんだ。
だったらその自分を出せるようにしてあげなければならない、義務感みたいなものだった。
「……うん、頑張ってくる」
「違うよ、楽しんできて! そんな顔は似合わない、笑って楽しそうにしていてよ」
「あ……す、好きだから?」
「そう、あんたが楽しそうにしているとこっちも楽しくなるからさ!」
やる気のない私がなんだかんだ来ているのは雰囲気が好きだからだ。
真剣で、だからと言ってギスギスしていない、メリハリがあるだけ。
こういう雰囲気なら不思議と混ざりたくなるものだ、あの頃のことなんてどうでも良くなるぐらい。
「って、待て……ちょっと引いて見ておかないと」
あまりズブズブにのめり込みすぎるとまた極端な自分が出てきてしまう。
ちょっとでもやる気がないと感じると指摘してしまう難儀な性格、昔の私はそうだったから。
また悪口を言われる毎日に戻るのは嫌だ、正しいことを言えばいいわけではない。
「佐渡ちゃーん!」
「ここにいるよ」
ああ、この人は楽しそうでいいな。
こちらはそれを見ることで癒やされることに専念しようと決めた。
最近、嫌なことがある。
テストも無事でまだ梅雨前で物理的にはマシなんだけど……。
「佐渡ちゃん!」
「佐渡ちゃーん!」
「佐渡ちゃんや!」
こんな感じで櫻井先輩がしつこいのだ。
ちゃん付けで呼ばれた瞬間にわかるのも大変だった。
「櫻井ちゃんっ」
「……なに?」
「明日のお昼お出かけしよ!」
「夕方から学校があるけど……」
「だからそれまでだよ! いいでしょっ?」
どうせバイトもしていないから遊べるけど、ふたりだけだと絶対に大変だ。
「加藤、あんたも来ない?」
「いいですよ? 櫻井先輩がいいならですけど」
「いいよ! 寧ろカモーン!」
「ありがとうございます、そういうことなので」
「わかった、どこで集合にする?」
先輩の家が遠いから駅とかにすると少し可哀想か。
よし、私が途中まで迎えに行ってあげよう、加藤には駅で待っていてもらえばいい。
「それはもちろん佐渡ちゃんのお家!」
「え、私は知らないんですけど……というか櫻井先輩は知っているんですか?」
「うん、出会ったその日にチェックをね。あそこはうんと怪しい場所であった、完。……なんてね!」
まあ今日帰りに案内をしておけば困ることもないだろう。
私は私で早くに出て途中で待っておけばいい、この人無茶する人だからしっかり見ておかないと。
翌朝、珍しく結構早くに起きて家を出た。
加藤にはもう家の中で待ってもらっている、残るは先輩を回収するだけ。
「はぁ……よくこんな距離で通ってんな……」
すげえよ、それで授業を受けて部活やるんだから。
なんか張り切りすぎて先輩の家に着いちゃったし……馬鹿みたい。
「うん、行ってきます!」
ちょうどそのタイミングで先輩が出てきてくれた。
が、こちらとしてはあくまで偶然感を出しておきたい。
「自転車自転車ー!」
ぷふっ、なんか歌を歌っているし、題材はなんでもいいみたいだ。
あと服がださい、なんだよ丸い豚って。
「早く行かないと――え?」
自転車で走り去られても嫌だから目の前に立つことに。
「奇遇だね」
「う、うん……奇遇……」
途中で待つつもりがこっちまで来ちゃってるし期待しているみたいで恥ずかしい。
だからそれを誤魔化すべく固まっている先輩の頭をたくさん撫でておいた。
バスケをしている時は後ろで結っているけどいまは下ろしていて可愛いなんて思った自分も飛ばすために。
「行こっか、加藤が待っているから」
「う、うん……うん?」
いまは引っかかってくれるな、こっちは穴があったら入りたい気分なんだから。
全然動いてくれないから代わりに自転車を引いていくことにする。
先輩に合わせていたせいで2時間半ぐらいかかってしまったが無事帰宅することができた。
「あ、遅いですよ……」
「ごめん、私がワガママ言っちゃってさ。ほら、飲み物とお菓子も買ってきたから」
「わぁっ、ありがとうございます!」
あれ、家で集合してどこかに行く約束ではなかったか?
なんか加藤も先輩も部屋の中でくつろいじゃっているから言えなくなってしまった。
「私はこの中にチョコが入っているお菓子が好きです」
「私は棒にコーティングしてあるお菓子が好きかなあ」
実はひとり暮らしを初めてからお菓子を初めて買った、大袈裟ではなくマジで。
そのため、かなり口に含むのに勇気が必要だったものの、口に含んだら懐かしさが込み上げてきた。
「はぁ……疲れた」
床に寝転がるとすぐに眠たくなってくる。
一応寝室もあるのにこの狭いリビングで寝ることが常だったからだろう。
まだ出会ったばかりだというのにこのふたりを気に入っているからもあるだろうけど。
「ごめんね、私だけが遠いから気を使ってくれたんでしょ?」
「またそれ……もう私に対して謝るの禁止、加藤も駄目だからね」
「「えぇ……」」
「謝られたっていい気はしないし、別にいいけどどちらかを言われるならありがとうの方がいいし」
先輩なんだからもっと堂々としていてもらいたいものだ。
藤堂先輩の擁護をするわけではないが、いまのままだと部長としては相応しくない。
簡単に謝ったらいけないんだ、私はまあそうやって躱してきたからしょうがない。
「それよりさ、ここがメインじゃなかったでしょ」
「あ、そうだった! あくまで集合場所として選んだだけだ!」
頼むから忘れないでおくれ、せめて自分が言ったことぐらいは覚えていて?
「でも私ははしゃぎすぎて疲れたのでここでお別れです」
自分にしては早く起きた、意味もないのに午前7時に。
こんなこと普通ではないのだ、そこで計3時間以上歩ければそりゃ眠くもなる。
「そっか……そうだよね」
「ああもう……そこでそんなしょげた顔しないで。わかったよ、行くよ」
「いいの!? ありがとー!」
表情を使い分けるのが美味いな、これからは甘くするのはやめようと決めた。
普通に歩いてゆっくり帰ってきたおかげでちょうどお店が開店している頃だから移動を始める。
ただこのふたり、こちらのことなんかガン無視で盛り上がっているんですがそれは……。
「今日はどこに行くの?」
「束峰ちゃん用のバスケットシューズを買いに行こうと思って」
「え、お金ないけど」
「やだなー、そこは私が出すから安心してよ」
いや、そんな高額な物を奢られる方がプレッシャーになるんですが。
それに毎日見るだけではなくやらなければならなくなる。
そうするとうるさい自分が出てきちゃうんだって、だから絶対に駄目、そんなの無理。
「うーん、やっぱりこういうところに来るとテンションが上がるねえ!」
「ですねっ、まだ使えるのに新しいシューズとか欲しくなっちゃいます!」
確かにそれはわかる、これは文房具店に行った時なんかも味わえる気持ちだ。
シューズとかウエアなどの独特な匂いもかなりいい。
ガソリンの匂いが好きな自分、意外と匂いフェチなのかも。
「足のサイズは?」
「23」
「え、小さくない!?」
「あーはいはい、どうせ金髪女には似合わないですよね!」
「ち、違くて……え、えっとそれじゃあ……これはどうかな?」
見せてくれたのは至ってシンプルなシューズ。
派手な物を選ばれると思ったが、実用性を考えてくれているらしい。
「でもそれ、19800円ですよ?」
「え? うん、それぐらい普通でしょ?」
「え、でも自分用ってわけじゃないですよね?」
「うん、束峰ちゃん用だけど」
というかさっきから名前呼びになっている。
そして、たとえ安価であったとしても買ってもらうわけにはいかない。
そこまでバスケ熱が戻ってきたわけではないのだ。
藤堂先輩にああ言った手前、一応参加したりはしているけど……うん、そう。
「それ本当に買ってあげるんですか?」
「いや、束峰ちゃんが気に入った物をあげる予定だけど」
「でも本人はそんな顔をしていますけど」
「ん? え、なんでそんな顔?」
出会ったばかりの人間に約2万のプレゼントとか怖い。
私が超絶スーパープレイヤーとかだったらわかるけど、ほぼ初心者みたいなものなんだから。
「やめておきなって、絶対に後で後悔するから」
「しないよ? 私があげたいから買ってあげようとしているんだもん」
「そんなこと言ったってバスケが上手いわけじゃないしさ」
「試合に出てほしいからとかじゃないよ。私が大好きなバスケットボールを束峰ちゃんもやってくれたら嬉しいってだけ。経験者ならそういう気持ち、わかるでしょ?」
いや……過去にバスケ部潰れろとか思ったことがあります。
その周りも同じような対応だったから消えろとも……すみませんでした。




