悪役令嬢はため息をつく番外編 アルノイド殿下の独白②
アルノイド殿下視点その2です!
婚約破棄騒動から数日後、僕は改めてヒロインへの対策を考えることにした。
ヒロインとの接触を完全に絶った以上、何かが起きるとは考えにくいが、注意するに越したことはない。
それに、何より肝心のシルビアにはまだ不安が残っているようだった。
「どうしたの?シルビア。難しい顔をして。」
僕は膝の上に座っているシルビアの顔を後ろから覗きこんだ。
「あっ、いえ…なんでもありま…」
「シルビア?」
逃がさないとばかりにやや声を強めると、やや震えたシルビアの声が執務室に小さく響いた。
「その、まだ少し怖くて…」
「それは、例のヒロインとやらのことかな?」
シルビアが軽く頷く。
「殿下のことは信じております。けれど…ヒロインは主人公ですから…」
シルビアは僕がヒロインに心変わりする事を常に恐れていた。
よく眠れていないのか、シルビアの目元には軽い くまが浮かんでいる。
(気にくわない)
今、シルビアが感じている不安気な表情、その憂いも全て。僕以外のことでシルビアの頭が占められるのは本当に面白くない。
(いっそのこと殺してしまえば、全て解決するかもしれないけれど…)
僕の中の黒い何かが、わずかに蠢く。
(それは最終手段かな)
僕はシルビアの綺麗な髪を優しく避け、軽くうなじに唇を這わせた。
「んっ…殿下…」
シルビアの声が甘くなる。
「可愛いシルビア。僕がこんなにも君を愛してるのに、君から離れると思う?」
「あっ!やっ…」
うなじから首筋、耳へと、なおも丁寧に唇を這わせると、シルビアの体にわずかな火照りを感じた。
「でんかぁ…」
空色の瞳を潤ませ、こちらを見つめるシルビアに僕は優しく微笑んだ。
「君はそうやって僕だけを感じていればいいんだ。難しいことは僕が全て解決してあげる。」
そう言ってシルビアの瞳から流れる雫を舐めとると、シルビアは安心したように僕に体を預け眠り始めた。
その次の日、僕は早速対策に乗り出した。
とりあえず、王家の息がかかった数人を学校に紛れ込ませ、ヒロインの行動を逐一報告させることにした。
(丁度いい機会だ。彼等の力量を見るためにも加わってもらおう。)
彼等とは、国王が推薦した僕の側近候補二人の、王宮騎士団長の次男カルド・テキマイド、そして、筆頭王宮魔術師を目指しているサトス・イルバルドである。
僕と彼等は顔見知り程度で、執務などで間接的にしか関わった事がない。国王が推薦した人物だから、能力に問題は無いとは思う。ただ、それだけでは足りない。
いずれ僕の下につき、手足のように働いてもらうことになるのだから、僕との相性も重要な事項だ。
(さて、僕の期待通りに働いてくれるか…)
一応、彼等を含むヒロイン監視部隊には、精神魔法に対する防御魔法もかけておく。
王子の僕を含む攻略対象の数人を手玉にとるヒロインには、恐らく魅力系の特殊魔法が備わっていると推察した。
ちなみに、シルビアから話を聞くに、どうやら彼等も攻略対象というものらしい。
王城で偶然見かけた時に軽く紹介はしたけれど…正直紹介なんてしなければ良かった。
目の前にはカルド・テキマイドをジッと見つめるシルビア。そして、心なしか彼も頬を染めているようにみえる。
僕はワザと見せつけるように抱き寄せ、シルビアの頭にキスを落とし、満遍の笑みで牽制をしておいた。
…やや、彼の顔が青くなったのが気になるけど、分かってくれたならいいんだ。
そして、何を考えていたのか…
目を輝かせてサトス・イルバルドに触れようとしていたシルビア。
僕はすかさず彼女の手を引き、お仕置きと称して執務室に小一時間閉じ込め、彼女が謝るまで耳元で質問責めにした。
…真っ赤になりながら謝るシルビアは、とても可愛くて、思わずその場で手を出しそうになった。
そうして、あっという間にシルビアの恐れていたヒロインの入学の日となった。
…結論から言って、シルビアが恐れていた問題は起こりそうになかった。
それどころか、ヒロインの突拍子もない行動に生徒や教師陣が関わり合いになる事を拒み、ヒロインは学校で存在しないものとして扱われているらしい。
(可哀想にヒロインとやらは、しっかり教育がされていなかったようだね。)
当然、教養や礼儀作法がなっていない人間はまず、僕に会う事が出来ないし、会うつもりもない。
特殊魔法の件も、誰1人と寄り付かないのに魅力を発揮しても無意味だ。
(まぁ、この調子でヒロインが勝手にやらかしてくれるなら僕としては好都合だけれど)
因みに、この後何度かヒロインとやらは王城まで来て「王子にあわせろ!」や「王子の恋人だ!」などと喚いていたらしいが、約束など取りようもなく、全て門前払いをされている。
…というか、何故、約束もなしに王子の僕に会えると思ってるのだろう。
さて、これで邪魔なものは消えた。
…これでシルビアの全ては僕だけのものだ。
「殿下?何かおっしゃいまして?」
僕の横に距離をつめて座るシルビアが不思議そうな顔をした。
(いけない、心の声がもれていたか)
とある日、私室でのシルビアとの大切な時間。
「ふふ…何でもないよ?ただ、やっと何も気にせず、君と過ごせると思ったら嬉しくて。」
「!!」
「どうして顔を背けるの?シルビア?」
真っ赤に顔を染めるシルビアに僕はワザと問いかける。
「…わかってるくせに。殿下はイジワルですわ」
「悲しいな。僕はこんなにも君に優しくしているのに」
そう言ってシルビアの長い髪をクルクルと弄んでいると、ふと、シルビアの顔が近づいてきた。
…そして、一気に口を塞がれる。
「んっ!」
それは一瞬の触れるような優しい口付け。
しかも、シルビアから初めての…
(今、何が起きた?)
「シルビア?」
なんとか声に出して、シルビアに問う。
「…私もですわ」
「?」
「私だって、その…殿下と安心して過ごせるようになって嬉しいのです!」
半ば怒り気味に言葉を紡ぐ一方で、シルビアの顔は赤く熟れ、濡れた空色の瞳には情欲が感じとられた。
瞬間、僕はシルビアを抱き寄せ、性急に唇を塞いだ。
「んっ!あっ…でん…か…」
何度も、何度も深く、深く
「シルビアっ…」
「ふぁっ…んっ」
もう、何分そうしていただろう。
気付くと、シルビアの手が僕の頬に触れていた。
「殿下、愛しております。」
紅が乱れたシルビアの瞳には紛れもなく僕だけを映していた。
ーー幸せだ
「僕も、どうしようもないぐらい、君を愛しているよ」
何かが溢れそうで、声が震える。
シルビアをソファーに優しく倒し、待ちきれないとばかりに僕達は更に深く口付けを求めあった。
実は2人はまだ、最後まで致してません!笑
ギリギリセーフ