1 セン異世界に行くようで行かない
小説家になろうに投稿初めて一ヶ月。
恐れ知らずの連載二本目です。
数打ち戦法って書いたし、ね。
ギュー、ッキキー。大型トラックの急ブレーキの音が響く。
飛び出した男の子を中央分離帯まで押して、本ノ郷旋はトラックにぶつかった。
「ここは?」
旋は気が付くとこたつに入っていた。
『ワシの部屋じゃよ』
正面に座った老人が答える。
目が3つあって牛のような角が生えている。
『ミカン食べる?』
ミカンを差し出してくれるシワだらけの手には、鋭いかぎづめが生えている。
人は見かけで判断しない。
ギルティ確定まで武術行使もしない。
自分に言い聞かせた旋は、トラックにぶつかった事を思い出した。
「もしかすると私、死にました?」
旋はぺたぺたと体をさわりなら聞いてみる。
『もうその話しする?せっかちじゃのう』
ミカンを食べながら老人が説明を始める。
『まず、お前さんは死んでおらん。トラックにぶつかった瞬間に、ワシがここに引っ張った』
「助けて頂いて、ありがとうございます」
旋がお礼を言うと老人が首を振る。
『残念じゃが助かっておらんのよ』
「どういうことですか?」
『トラックにぶつかった怪我はそこの薬で治した。でも元の世界に戻すとトラックの前にでるんじゃ。後はわかるじゃろ』
老人がミカンの房を潰して食べる。
「そんな!他のところには戻せないんですか?」
『世界の移動には決まりがあるんじゃ。元の世界に戻すと同じ時間と場所に戻る』
「結局、死ぬんですね」
旋は泣きそうになる。家族、友人。もう二度と会えない。
『いや、助かる方法はあるのじゃ』
「どんな方法ですか」
何でもしようと旋は心を決める。
『まず、ワシらの作った世界には地球にない、スキルと魔法がダンジョンにあるのじゃ』
老人がせんべいを取り出す。
『世界を作った時、闘いの神が手を滑らせおって、アホみたいに魔物が沸いてのう。あわててサポートにいれたんじゃ』
老人がせんべいをお茶に浸けて食べる。
『話がそれたがスキルに物理ダメージ耐性があるのじゃ。レベルが上がればトラックにぶつかっても生き残れるじゃろ』
「地球でもスキルは使えるんですか?」
『戻って三分ぐらいは残るんじゃ。トラックに跳ねられるぐらいはもつじゃろ』
「え~と。貴方がスキルをくれるんですか?」
『そうしたいのはやまやまじゃけど、ワシもうそんな力ないのよ。すまんね』
「力がない?」
『そう。ワシ本当は夜と闇の神で、人のやすらぎを司っていたのじゃ。でも夜に悪い事をするヤツや、夜に行動する魔物のせいで、信じてくれる人がいなくなったり、変な教団に祈られて、今じゃ暗黒大魔神とか呼ばれているのじゃ。信仰がずれとるせいで力が出ないんじゃよ』
「よく私を引っ張れましたね?」
『異世界を眺めたり、物や人を引っ張ったりするのは創造神の力で別なんじゃ。ワシ一応この世界を作った六柱に入っておるし』
闇と夜の神が胸を張る。
「では、私は貴方の作った世界で物理ダメージ耐性のスキルを取ればいいのですね?」
『そうじゃ。後、お前さんに使ったそこの薬代も稼がんといかんのじゃ』
老人が、空のビンを指差す。
「いくらですか?」
『わからん、常備薬なのよ。使ったら後から請求くるヤツじゃよ。薬の神が作ったヤツだから結構するじゃろ。現物戻しでも構わんよ』
「払わなかったらどうなりますか?」
『ワシが薬の神に払うよ。でもお前さんの物になっとらんかったら、地球に戻った時に効果が消えるかもしれん。地球かワシらの世界で使えば効果確定なんじゃが、ここ結構不安定なのじゃ』
闇と夜の神が三畳ぐらいの部屋の畳を叩くと畳が絨毯にかわった。
「効果が消えたら?」
『潰れたミカンじゃ』
旋は炬燵に突っ伏した。
『ホレ、いつまでも若いもんが、いじけているもんじゃない』
炬燵に寝転んでミカンを食べている旋に、老人が発破をかける。
『これからの説明をするぞい。まずお前さんのいくのはいくつかの国がある大陸じゃ』
「日本食ある?」
『ない。最近まで人が全滅しないようにするのがやっとだったのじゃ。国まで育てるのも大変じゃった』
「ふーん」
『お前さん飽きてきとらんか?次はこいつじゃ』
ゴトリと重い音をたてて丸みをおびた四角い固まりが置かれる。
『ワシにまだ力があった頃に作った神器じゃ。変身できる』
「変身?凄い!私も好きなの!」
旋は騎乗変身英雄が大好きだ。好きすぎて道路に飛び出した子供を助けてこんな事になっている。
『そうじゃろ。ワシも好きじゃよ。だからここに引っ張ったんじゃ。お前さん夢があるじゃろ?』
「はい。女性初の騎乗変身英雄の主役になることです」
暫く特撮の話で盛り上がる。
『やっぱり特撮は昔の方がええ。最近はCGに頼りすぎで爆破が足りん』
「最近のもいいよイケメンだし」
『男くさい主人公がいいんじゃ』
熱弁をふるう老人の手が当たって固まりが炬燵から落ちる。
『そじゃった、説明の途中じゃった。こいつとこれを貸そう。後はお前さんの覚えとる日本語や英語なんかを、現地の言葉と入れ換えじゃ』
「何このカード?」
旋は、薄っぺらいカードをつまむ。
『テレポンカードじゃ回数無限でワシと話せるのじゃ』
「ふーん」
『ありがたみがわかっておらんな?凄いカードじゃぞ。神器とカードはお前さんの存在に融合しとく、使い方は自然にわかるじゃろ』
「わかった。いろいろありがとう。私いくね」
いつまでも優しい神様と話していたいが、そうもいかない。旋は立ち上がった。
『こっちの世界で死んだら自動的に地球に戻る。戻った後はこっちの記憶は夢じゃ。後、こっちで年をとっても地球に帰る時はトラックにぶつかった時のままじゃ。安心して、こっちでの生活を楽しむのじゃ』
「いってきます」
老人に感謝して、旋は異世界へ一歩を踏み出した。
この作品を読んで下さる皆さんが、少しでも楽しんでくれたら嬉しいです。