第2話 突然の崩壊
「それで、今回は何すればいいですか?」
受講している講義がすべて終わった二人が、指定された場所に向かうと、ドアに寄りかかって理佐が待っていた。
「掃除。」
どこか眠たそうな表情で理佐は答える。
「・・・・詳細な説明をお願いします。」
「清田教授が、夏休みに俺が使ってたら散々散らかったから、学務にばれる前に整理整頓しといて~。と。」
「あんのクソ教授!自分で片付けろよっ!」
衝撃的な手伝い内容と、理由にお怒りの翔矢。変わらず眠たそうな理佐に、まぁ清田教授だから、と苦笑いの香織。
「ぐだぐだ言ってても仕方ないし、ちゃっちゃと終わらせよう?」
やる気を感じられない二人を、香織が動かそうとする。
「まぁ、だらだらしてても何も変わらないし、俺たちが放課後、実験室を教授の名前と口利きで使わせてもらってる都合上、やらないわけにもいかないし、やりますか・・・・。」
「早く終わらせよう。」
渋々の気持ちが伝わる声と、眠たげな声で同意が上がる。
そして三人とも、掃除のために実験室の中に入る。
「・・・・おい、あいつ本当に化学者か?おおよそ実験できそうな様相すら保ててないんだけど。」
「これは、危険に細心の注意を払う実験室にあるまじき状況。」
「大学はさっさとあいつを解雇すべきだろ。」
「これは擁護のしようがない・・・・。」
室内のひどい有様に、翔矢や理佐は勿論のこと、香織までもが清田教授へのマイナスな言葉を漏らす。
「もう、あいつの名前と口利きを頼って実験室借りるのやめよう。」
翔矢は、こんなずぼらな教授の力を借りるのは金輪際なしにしよう、と言うが、
「そうするように勧めたいけど・・・・。」
「実験室は、教授の名前と口利きがないと使用許可下りないし、他の教授は普通、学部生のためにそんなことしない。」
どうしようもない現実である。
「取り敢えずこれをどうにかしよう。」
理佐は、悲惨な状況の実験室を指さして言う。
「はぁ・・・・。まずは試薬を整理しよう。試薬を放置したまま作業は危険すぎる。」
思考を目の前に戻す理佐の一言に、翔矢は当たり前の提案をする。理佐、香織共に翔矢の提案に賛成し、翔矢と共に一番近い机に向かう。
そこには、山ができていてドア側からでは見えない場所に、他の場所にはない整理された領域が存在し、ラベルが貼られていない試薬が置かれていた。ただ一カ所だけ整理されている場所にぽつりと置かれた名称不明な試料に、いやに翔矢が好奇心を示す。
「なんか面白いことが起こる匂いがする!」
「あぁ、やばい、火がついちゃった。」
興味を示す翔矢に、香織は呆れ顔を示して言った。
「その試料の特定する?」
理佐も興味を示し、不明な試料の特定を提案する。
「いや、駄目ですよ!開けるだけでも危険な試薬だったらどうするんですか!?」
「大丈夫、ここにそんな危険な試薬は存在しない。」
「よし、やりましょう!」
今までが嘘のようなテンションで翔矢が言った。香織はしばらく、駄目だと言い続けたが、最後には根負けして、
「・・・・ここに存在しうる一番危険な試薬だと仮定して、ですよ。」
と言って、折れた。
「試薬を実験室の外に持ち出すの禁止なので、他の実験室の試薬が混ざっていることはないし、この入れ物、金属イオンですかね?ここの実験室ですし。」
「そうだね、この入れ物には金属イオンしか入ってないはず。取り敢えず塩酸と混合しよう。」
そう言って理佐は、ビーカーを用意する。名称が不明な試薬をビーカーに入れ、塩酸を数滴加える。するとすぐに突然、気体が発生しているのが見えてくる。辺りに濃密な刺激臭が漂う。
「っ!?不味い、塩素だ。香織、ドアを・・・・。」
「んっ・・・・。」
比較的ドアの近くにいた香織に翔矢が指示を出す。二人は激しい頭痛とこみ上げてくる嘔吐感に苛まれ、呼吸困難になっている。ビーカーから少し離れていた香織は、倒れ込むようにしてドアを開く。刺激臭と、倒れ込んでいる香織で、近くを通りかかった人が異変に気づき助けようと廊下を駆ける。
「速報です。今日、○○大学の実験室で、誤って濃密な塩素を発生させ、一年生一名と二年生一名が死亡、一年生一名が意識不明の重体です。大学側は試薬の管理に問題があったとして・・・・・・」
拝読いただきありがとうございます。
この作品で出てくる知識は、作者の知識を元にしたものであり、誤解や覚え違い等、また、あえて改変したりしている場合もあります。(できうる限り現実に似せようと考えてはいます。)全ての知識に対して、エビデンスはないものとして扱ってください。
ちなみに、今回の未知試料は次亜塩素酸ナトリウムと考えています。すでに間違えていたらすみません。