手紙の夢
こんにちは、藤ヶ谷 秋子です。今回は、初めて短編小説を投稿しました!パラレルワールド系のお話は初めて書いたので、「え?これおかしくない?」っていうところもあると思います。ご了承ください。
ピピッ、ピピッと電子音が繰り返し響く。3回目位から、段々と音量が上がっていく。始めは「うるさいなぁ」程度に思っていたが、その感情は『苛立ち』に変わっていく。バン!と思い切りボタンを叩いて、布団を蹴り飛ばして身体を起こした。時刻は7時。さて、学校に行く準備をしなくては。そう思い、重い腰を上げて、リビングへのろのろと歩く。いつも通り、少しひび割れた黒いリモコンをテレビに向け、赤いスイッチを押した。テレビから小さな音がして、少し遅れて映像が映し出された。
「...?」
私は小首を傾げた。いつものニュース番組ではない、ヒーローもののアニメが放送されていたからだ。寝ぼけ眼でカレンダーを確認すると、今日の日付は赤色だった。
「あ、そっか。今日は...」
今日は日曜日だ。そして、カレンダーに小さく書き込まれた絵心のないケーキのイラスト。そう、誰からも祝われることのない、私の誕生日だ。リビングの机の上にメモが二枚。
『お誕生日おめでとう。今日のおやつはケーキです。 ママ』
『誕生日おめでとう。プレゼントを買って帰る。 父』
幼い頃の私なら、これを見て跳びはねただろう。しかし、今の私には、ケーキもプレゼントも、正直どうでもいいのだ。ボーッとした意識のまま、服を着替え、パンを焼き、コーヒーを淹れて朝食を摂る。床に落ちた朝刊が、バサッと音を立てた。
全ての朝の準備を済ませた私は、暇を持て余していた。宿題など、とっくのとうに終わっている。もう一度寝るか...そう考え、寝室に戻ろうとした時だ。私は訳も分からぬまま自室に入り、勉強机の引き出しを開け、便箋と封筒を取り出していた。いやいや、これで何をするんだ?まさか、ラブレターを書く訳でもあるまいし。しかし、手は勝手に動いていた。筆箱からシャープペンシルを取り出す。さらさらと書いた手紙のタイトル、それは。
『拝啓、成人した私へ。』
は...?『成人した私』??これはきっと夢の続きだ。私はシャープペンシルを放り投げ、ベッドに飛びこんだ。
「あの、あの!すみません!!」
突然、誰かに揺り起こされた。うーん、と唸って声のする方に顔を向ける。そこには、女が立っていた。
「えっと、貴女は_____さんですよね?」
驚いた。何故この女が私の名前を知っている?というか、ここは?私がキョロキョロしていると、女は少し驚いたような顔をして、それから、申し訳なさそうな顔をした。
「あっ、驚かせてしまってすみません。私は成人した貴女です。」
「はぁ...」
ただ、そうとしか言えなかった。確かに、背丈や顔は変わったが、その瞳は、私のものに変わりなかった。
やはり夢だとは思ったが、自分の意志で動ける夢は初めてだ。少し楽しんでみてもいいかもしれない。私は会話を続けてみることにした。
「それで、未来の私が何の用です?」
「ふふ、それでこそ昔の私です。付いてきてください。」
自宅から連れ出され、やってきたのは近所の運河だった。
「きれいですよね、ここ。今でも、偶に懐かしくなります。それじゃぁ、話をしてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ。」
何だか辛気臭い雰囲気だなぁ。私だけは笑っておくか、と考え、私は精一杯不慣れな笑顔を作った。
「貴女に、お願いがあるんです。その...自殺は、しないでください。」
「はい?」
成人した私は川底を恨めしそうに見詰めた。
「私は、もう生きてません。貴女が、自殺した所為で。」
「なん、で、私が」
「解りますよ、貴女の私への気持ち。それは、『謝罪』でしょう?」
それを言われた時、肩がピクリと動いた。さっき私が『拝啓、成人した私へ。』と書いた時、本当は続きを書くつもりだった。『こんな醜い身体を、心を、過去を、押し付けてしまってごめんなさい。』と。だけど、書けなかった。涙が、溢れそうになったから。きっと未来の私は怒ってるだろうな、私、呪われるかもしれない。そんなことが頭をグルグルと回って、意識が朦朧とした。ベッドに飛びこんだのも、もしかしたら夢かもしれない。
「ごめん、なさい。私、の、所為で...」
何かを言おうにも、謝罪の言葉しか出てこない。しかも、一度言ったら止まらない。謝罪が、懺悔が、言葉になって、二人の空間に充満した。
「ごめんなさ...!?」
何度目かの謝罪をしようとした時、私の口が何かに塞がれた。彼女の手だ。
「もういいんですよ、問題はこの後です。今までは、この後貴女は川に飛び込み、自殺しました。今回は、どうするんですか?」
「え...今回は?」
「そうです、私がこの話をするのは、丁度100回目です。この世界の貴女は、どうしますか?」
「でも、あなたは、」
「だから、もういいんですって。別に、貴女の所為じゃないんですから。私は、怒ってません。この後貴女がどんな選択をしたとしても、私は責めませんよ。また、違う世界にいくだけです。『私が生き延びた世界』を作り出せるまで...。」
そうか。ここで私が死ねば、彼女はまた、死んでしまう。だったら...!
「...だいじょうぶ。私は死にません。待ってて、未来の私!!」
そう叫んだ時には、彼女はいなかった。ただ、川が流れているだけ。水の音が、鳥の声が、聞こえるだけ。
私は、空に向かって呟いた。
「家に帰ったら、続きを書きます。『私を助けてくれてありがとう、幸せになって』って。」
いかがでしたか?主人公の過去などについては、ご想像にお任せします。私の中では、ある程度考えてはいるのですがね。
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