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妖怪の長  作者: 齋藤 照樹
さいたま高校女子高生霊力暴発事件
9/12

四月十一日日曜日

 今日、俺は輝希の家に行くことになっている。ヤツが始めた仕事に興味があって、それを見に行くためだ。

「いってきまーす」

 祖父母たちに声を掛けてから家を出た。輝希は秋葉原に事務所があると言ってたから、電車で向かおう。

 駅に向かって歩き始めると、前に停まっていた車がクラクションを鳴らした。

「おーい、向かいに来たぞ」

 そこには、輝希が乗っていた。


「向かいに来てくれるなら言ってくれよ」

「いやな、近くまで用事があったからさ。ついでだよ、ついで」

「ついでって……」

 なんか、その言い方ヘコむな。

 俺を乗せた車はそのまま、秋葉原にある事務所の入ったビルに向かった。


 事務所に入ると、生徒会の先輩とクラスメイトが居た。

「輝希、お前……」

「ん? 違うよ。彼女、幼少時に適した訓練が出来なくて、霊能力を正しく扱えないからうちで見てるんだ」

 クラスメイトがいる理由は分かった。

「じゃあ、なんで真軸先輩が?」

「こちらの真軸麻央さんは、真軸未央さんのお姉さんだ」

「吉田君、なんで修平君がココに?」

 こっちの話が済むと、真軸先輩が輝希に話し掛けた。

「彼は私の古い友人です。霊力保持者でもあるので、多少なりとも未央さんのお力になると思います。

 未央さん。昨日、結と話したと思いますが霊力のことで相談があれば、彼でも大丈夫です」

 まじ……未央さんは俺に軽く会釈をした。そりゃ、急に紹介されてもね。

「じゃあ、今日は三人で練習してて下さい。私はこれから来客があるので」

 そう言うと、エレベーターのボタンを押した。そのカゴに真軸先輩たちが入っていく。

「ほら、修平」

 え? 俺も?

「言ったろ、三人でって」

 なんか二人も早くって目をしてるし、俺が行くのは規定事項らしい。

 諦めた俺はエレベーターに乗った。直後、カゴは降下を始めた。


 地下に到着すると真軸先輩は小部屋に入り、未央……さんは腕にチェッカーを巻いて早速練習を始めた。

Take(出て) out(来い)

 未央さんが詠語を唱えると、すぐ脇からりんごが出てきた。なるほど、魔法使いなのか。

『修平君、はやく部屋に入った方が良いわよ』

 え? なん……

Firing(発射)

 突如、りんごが俺の頬をかすめて背後の壁に当たった。りんごは、ペシャンコになっていた。

「み、未央さん、ちょっと待って」

 俺は慌てて真軸先輩が入った小部屋に駆け込んだ。


「ごめんね、家の妹が。一昨日初めて魔法を使ってから、なんか夢中になっちゃって……

 今まで扱ってこなかった分、ずっとやってるみたい。子どもみたいでしょ?」

 俺が部屋に入ると、真軸先輩はポツリと話してくれた。

「でもすごいと思いますよ。初めてとは思えないほど霊気が活性化してます。これなら、並の魔法使いより使えるかもしれません」

「……そう」

 やっちまったか? そう思ったが、真軸先輩は微笑んでいるように見えた。


・・・・・・


 未央は早いペースで魔法を習得していた。もともと空想力に富んでいた彼女は、魔法を使うことに苦はなかった。先日の暴発も、空想力が大きいことに由来する。そして、英語が得意な未央は英語を覚えることに時間は掛からなかった。

 ふと、腕に巻いたチェッカーを見た。状態を示す色は黄色。軽い疲労を表す色だ。


 その後、初級魔法の大半を実践した。彼女はこの短時間で、“引き寄せ”、“取り出し”や“浮遊”、“消失”まで習得していた。

『昼になりましたし、そろそろ上がってきて下さい。昼食を用意してあります』

 スピーカーから流れた輝希の声で練習を中断した。三人は再びエレベーターで地上へ上がっていった。


 卓上には、たくさんの料理が並んでいた。

「どうぞ、召し上がって下さい」

 先に卓についていた輝希が三人に声を掛けた。

「いただきます」

 全員が声を合わせ、食事を始めた。


・・・・・・


 食事が済み、真軸先輩たちはまた地下へ行った。俺は輝希に話があって、上に残った。

「で、話って昨日のとこだろう?」

 相変わらず、こいつの読心術には閉口する。

「そうだ。啓介先輩がどうしたんだ?」

「あいつは訳あって、うちに勤めてる局員だ。

 啓介は依存癖がある。霊力保持者に強く依存するんだ。幸い、霊視力はあまりないが、ふとした時に見えるかもしれん。隠しておく方が身のためだぞ」

 その目は何時になく、真剣な目だった。俺は輝希がこの目をするのを数えるほどしか見ていない。最初は、親父の葬式に来た時。その時、輝希は犯人の逮捕を約束してくれた。その時も真剣な目だった。

 二度目は結が事件に巻き込まれたときだ。犯人は一般人──霊能力を持っていないという意味──だったが、もし仮に霊力保持者だったら殺しそうな勢いだった。

 輝希が真剣な目をするのは珍しい。何故、たかが一人の依存癖を言うのに疑問に思ったが、俺の身を案じていると感じ、素直にアドバイスに従おうと思った。


 夕方になり再び上がってくると、輝希が夕食の支度をしていた。

「もう、終わりですか?」

 俺たちが上がってきたことに気付いた輝希が料理の手を止めて聞いてきた。

「チェッカーがオレンジになってたから止めたの」

「そうですか、それは正しい判断です。霊気の補充に良い料理を作っています。少し待ってて下さい。

 麻央さんと修平はどうしますか? 食べて帰りますか?」

 チラッと真軸先輩を見ると、先輩もこっちを見ていた。その目は期待しているように見えた。

「じゃあ、いただくよ。ついでに送ってくれよ」

 そう返事をすると輝希は頷いた。

「分かりました。では、もう少し待ってて下さい。居間にあるゲーム機は使っても構いませんから」

 ──料理が出来るまで三人でSwitchを遊び、真軸先輩と未央さんにボコボコにされた……


 輝希の作った夕食を食べ、俺と真軸先輩はそれぞれの家まで送ってもらった。未央さんはまだ練習をするらしい。

「麻央さん、来週以降はどうしますか?」

 埼玉県に入ったあたりで輝希は真軸先輩に話し掛けた。

「どうって?」

 窓の外を見ていた真軸先輩は輝希に目を向けた。

「今週と同じように、お迎いに上がりましょうか? それとも、ご自分でいらっしゃいますか?」

「あぁ、そのこと。やっぱり、良いわ。なんかあの子楽しそうだし」

「なぁ、何の話をしてるんだ?」

 思わず口を開いてしまい、しまった、と思った。しかし、二人ともなぜか気にしていないようだった。

「未央さんを預かるにあたり、真軸さんから提示された条件が一つ。それは毎週末麻央さんが家に来ること。だから、今日も麻央さんが来たわけだが、来週以降の話をしていたんだ。

 しかし、麻央さん。よろしいのですか?」

「ええ。毎週迎いに来てもらうのも面倒だし」

 後ろを見ると、真軸先輩は寂しそうな顔をしていた。

「分かりました。様子を見たくなったらご連絡下さい。直ぐにお迎いに上がります」

 直ぐに、の部分で俺は苦笑してしまった。こいつなら十分以内にその人物の場所までついてしまう。

「ありがと」

 見れば、真軸先輩も笑っていた。しかし、その笑みは俺のものとはぜんぜん違うものだった。

 そして、再び車内は静寂に包まれた。


・・・・・・


 夕食を終え、未央は再び練習していた。輝希から効率よく霊気を使う方法を教わったので、その実践をしていた。

 霊気は目には見えない。しかし、確かにそこに存在する物質である。物質を動かすにはエネルギーを用いる。そのエネルギーは当然動かすもののエネルギーが利用される。

 未央は日中の練習で確実に疲労していた。まだ効率的に霊能力を行使するコツを掴んでいなかったので尚更である。

 しかし、輝希に作ってもらった夕食でだいぶ回復していた。それもそのはずで、輝希はコッソリ霊気を回復するクスリを入れていた。

 輝希たちが出ていき、未央は改めて練習を始めようと地下へ降りていった。

 エレベーターを降りると、そこに黒い(もや)があるのを見た。

(なんだろう、これ……)

 未央が恐る恐る近づくと、声が聞こえてきた。

『め……を…………がね………ろ……ねをかけ…めがねをかけろ』

 声を聞いた未央は何故か訝しむことなく、輝希にもらった眼鏡を掛けた。すると、そこには黒いマントを纏った女が立っていた。

 女は細く、すぐにでも折れてしまいそうだった。その体が纏っているマントはフードがついており、女は深く被っている。

『おまえ、まじくだな。おまえ、まほうつかいだな』

 未央は無意識に頷いていた。本人は何も考えることが出来ていなかった。

『またくる』

 その声とともに、女の体は消えた。その場から跡形もなく。

 未央が我に返ると、小部屋ドアのところが点滅していた。どうやら、輝希が帰ってきたらしい。

 そんなことを考えているときには、すでに女のことを忘れていた……


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