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妖怪の長  作者: 齋藤 照樹
さいたま高校女子高生霊力暴発事件
2/12

四月八日木曜日――入学式――弐

 二人と別れた輝希は分身を出して姿を変えさせ、近くの別のベンチに座らせた。自分自身はそのまますぐ、駅の方へ向かった。

 しばらく二人を遠目に見ていると生徒会長と副会長が歩いてきたので、しばらく口の動きを読んでいた。

(なぜ、私達が、ここにいるって、わかったんですか?……か……)

 輝希(の分身)は立ち上がって、四人に近づいていった。

「もしかして、二人の知り合いなの?」

「ただの知り合いでは御座いません」

 輝希はそういいながら、変装を解いた。修平以外の三人は驚いていた。しかし、結もそこまで驚いていなかったことには、少しだけ意外感を感じた。修平は、少し笑いながら輝希に聞いた。

「いつから聞いてた?」

「最初から」

 すこし、笑みを浮かべながら答えた。その笑みは、普段修平達に見せるような友情的なものではなく、老執事が見せるようなものでありながら、黒く染まった笑みだった。

 すると、今度は真斗が口を開いた。

「君、吉田とか言ったな。説明してもらえないか?」

 先ほどとは違う、少し高圧的な口調だった。しかし、輝希はあまり気にしていないようだった。いや、実際に気にしていなかった。

「構いませんよ」

 そう答えると立っていた四人にベンチに座るように促した。

「説明の前にひとつだけ、生徒会長さんは、自分について校長から何か言われませんでしたか?」

「言われていない。あと、肩書で呼ぶな。お前みたいなやつに肩書で呼ばれたくない」

「分かりました、大沢先輩。実は自分、妖怪なんです。サトリ、という妖怪をベースに様々な妖怪の血を引いています」

 それを聞かされた真斗の顔は赤くなっていた。

「ふざけるな!俺を馬鹿にしてるのか!?それを証明してみろ!」

 それは、怒りからだった。

「ま、真斗くん」

 香澄は、それを制止した。流石に言いすぎだと思ったらしい。

 しかし輝希は、

「分かりました」

 と、あまり気にしていない様子だった。

「貴方の考えているものを当てましょう。十個、お好きなものを想像してください」

 すると、輝希は背負っていたリュックから、ノートとペンを取り出した。

「これにその十個を書いてください。自分は後ろを向いています。書き終わったら、渋沢先輩にノートを閉じて渡してください」

「いいだろう」

 真斗は言われたとおり、十個書いてノートを香澄に渡した。

「いいぞ」

 輝希は振り返った。その顔は笑顔(ただし、修平達にみせるような笑みではなく、作り笑い)だった。掛けていた眼鏡を外し、真斗の額の方を見ながら言った。その目は白く、光っているように真斗は見えた。

「では、当てます。文字で書きましたね。バス、生徒会、歌、妖怪、数学、歴史、社会科、パソコン、新聞紙、部活」

「え?」

 真斗は驚いた。

(なぜ、この男はわかったのか。ノートに細工しているのか?)

「ノートに細工はありません。普通の市販のノートです」

 また、驚く真斗。

(自分の考えていることを当ててくる。不気味なものを感じる――)

「そんな不気味と言われても……まぁ、仕方ありません。分かりました」

 輝希は、右手を挙げた。

「シャーペン」

 そう言うと輝希の手にシャーペンが現れた。

「何か好きなものを言ってください。なんでも出しましょう」

 真斗は大型バスを考えた。流石に出せないだろうと考えたからだ。

「バスを出すこともできますが、移動しないといけませんよ?」

「じ、じゃあ、ミニカーで出せ」

 またしても考えていることを読まれ、真斗は動揺しまくっていた。

 そんな真斗を気にもせず、輝希は手のひらを上にして右手を挙げた。

「バス」

 すると、やはり輝希の手にミニカーのバスが現れた。それには香澄も驚いていた。香澄は今まで単純にマジックだと思っていたのだ。

「す、すごーい……」

「あ、名刺見せましょうか?」

 そう言うと財布を取り出し、その中から取り出した名刺を真斗と香澄に渡した。

「よ、霊力管理統制局?……」

「私が所属している機関です。三権分立の一つの司法権。その機関である裁判所より一部で優位の権利を持つ機関です。あとコレもあります」

 すると胸ポケットから警察手帳らしきものを取り出して見せた。

「妖怪に関する事件の捜査権は我々霊力管理統制局が持っています。なので局員は全員警官でもあるんです」

「お、おもちゃじゃないのか?」

 流石に疑い深い性格の真斗もここまで見せられてしまうと信じかけていた。

「じゃあ、二人に聞いてみてください。彼らは霊感のある者ですよ」

「そ、そうなの? あなた達」

 香澄が二人に訊ねた。すると、修平が答えた。

「ええ、まぁ」

 それでも真斗が疑っていると輝希は言った。

「まぁ、今すぐ信じてください。とは、言いません。今は頭に入れといていただければ結構です。さいたま高校に妖怪がいる、と。では、私はこれで失礼します」

 そう言うと、輝希の分身は、スゥと消えていった。真斗と香澄は、唖然とした。

「い、一体、なんだったんだ」

 修平と結はその後ろで、混乱している二人を面白そうに見ていた。


 ・・・・・・


 輝希の本体は警視庁に程近い建物の中にいた。ここが霊力管理統制局である。

 輝希が自分のデスクで探しものをしていると、年配の局員が近づいてきた。

「局長。お疲れ様です」

 彼は前川賢治。輝希が“前世”の時から働いている古参だ。輝希は死んでもすぐに近くで生まれ、記憶も継承することから、統制局の局長を三百年以上努めている。

「今日は高校の入学式でしたね。どうした? 久しぶりの高校」

「どうもこうも、何回目だと思っているんだ? かったるい」

「それもそうですな。ハッハッハッハッ」

 賢治は今年五十八になるので、輝希とは四十年の関係(賢治は高卒で統制局に入った)になる。これほど長くやっていると気のおけない関係にまでなっていた。

「そういえば、啓介はどうだ?元気か?」

 輝希に聞かれ、賢治は少し申し訳なさそうな顔をした。

「すみません。相変わらずでして……」

「まぁ、無理もないか」

 啓介とは、ある事情から賢治が預かっている男子だ。彼は心に傷を負っており、ごく限られた人間としか会話ができなくなっていた。

 そうして二人で少しの雑談をしながら探しものをし、お目当てのものを見つけた輝希はそのまま帰ろうとした。

「おや、もうお帰りですか?」

「ああ、今日は探しものだけだったからな。それに、今世からは別の仕事がある」

「相談所、ですか。あまり無理しないでくださいね」

「分かってるよ。じゃあ、おつかれ」

 そう言って、輝希は統制局をあとにした。


 ・・・・・・


 輝希は秋葉原に借りた事務所に着いた。「吉田相談事務所」が名前だ。一階は喫茶店で二階に事務所、三階から上は輝希の自宅になっている。

 階段を登っていき事務所に入ろうとすると、中から物音がした。輝希は背負っていたリュックからリボルバーを取り出した。そして、勢い良く扉を開けた。

「誰だ!!」

 中にはニット帽を被った男がいた。

「何をしている?」

「す、すみませんでしたぁ!!」

 男はその場から逃げようとしたが、輝希が発砲したため(勿論、空砲だ)(ひる)んだ。その隙きに輝希は男に近づき、警察手帳を出した。

「ここで何をしていた? 答えろ」

 男は観念して、手を上げながら答えた。

「か、鍵が空いてたからなにかあるかなって……ほんと、すみませんでした」

「何か盗ったか?」

「い、いえ」

「身体、調べるぞ」

 そう言い、輝希はリボルバーを置いた。その隙きを突き、男はリボルバーを手に取って輝希に向けて構えた。しかし、輝希は別の銃を持っていた。

「甘いな」

 そう言い輝希は持っていた銃、麻酔銃を撃った。麻酔弾は男に命中し、男は眠りについた。輝希は男を事務所の中のソファーに寝かせた。電気を点けて、男が起きるのを待つことにした。


 しばらくして、男は目を覚ました。輝希は男に言った。

「もう、逃さんぞ。正直に話せば、逃してやろう。ここに何をしに来た?」

 男は答えた。

「む、無人みたいだったから、な、何か盗めるものないかなって。は、入ってみたら金庫が見えて、そ、それでそこまで行こうとしたら、あ、あなたが入ってきました」

「そうか。まぁあいい、今回は見逃してやろう。鍵を閉め忘れた俺にも非があるからな。だが、俺は警官だ。お前の顔は覚えたからな? 次はないぞ」

「は、はい」

 男は、逃げるように帰っていった。しばらくして輝希は分身を作り、透明化させ男を尾行させた。


 輝希は部屋を軽く片付け、スーツに着替えた。これから人が来るのだ。そろそろ時間か――そのとき、

「あのぅ、こんばんは」

 高校生ぐらいの女性が入ってきた。しかし、格好はお嬢様だった。

 女性は輝希の顔を見て、大声を上げた。

「あっ。あなたはっ」

 輝希は香澄が来るのをわかっていた。サトリの能力で悟っていたのだ。

「こんばんは、さいたま高校生徒会副会長。そして渋沢商事の社長令嬢、渋沢香澄さん」

「何故、あなたがここに?」

 香澄は若干怯えているようだった。

「ここは、自分の相談事務所ですよ。

 あなたは、自分についての相談をしようと思ってここに来ましたね」

「な、なぜそれを……」

「まぁ、立ち話も何ですから、どうぞお座りください」

 そう言い、座るように促した。香澄も渋々それに従う。

 輝希はさり気なくテーブルの上の時計に付いているボタンを押した。

「さて、昼間の件については謝罪しましょう。驚かしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」

 輝希が深々と頭を下げた。いきなり頭を下げられ、香澄は困惑した。

「昼にあなた達と会話したのは自分の分身です。そのときに披露したのはサトリ、狸、言霊使いの能力です。分身が狸、大沢先輩の心を呼んだのがサトリ、シャーペンやミニカーを出したのが言霊使いです」

「あ、あの」

 輝希の説明を聞いていた香澄が口を開いた。

「あなたは本当に妖怪ですか。ですね」

「え?」

 何故当てるの? 恐ろしい――そう考えていると、輝希がメガネケースを差し出した。

「百聞は一見に如かず。まずはこの眼鏡を掛けてみてください。ただ、ちょっと刺激が強いかもしれません」

 そう言われ、香澄はおそるおそる眼鏡を掛けた。すると、輝希の体から白い何かが出ているのが見えた。香澄は怖くなり、すぐに眼鏡を外した。

「自分の体から出ているのが霊気です。この霊気は幽霊と妖怪、霊能者と霊感がある者が出しています。霊気だけの存在が幽霊、肉体があり、それにそって霊気が出ているのが妖怪です。霊能者達は頭の周りから霊気が出ています」

「ひ、一つ、いいかしら?」

 香澄は輝希に近づいて聞いた。先程より随分落ち着いたようだ。それどころか、少し嬉しそうな顔をしている。

「ええ、構いませんが、その前に離れてください。昔から女性が苦手で……」

「あ、ごめんなさい」

 輝希からパッと離れ、一呼吸おいてから香澄は言った。

「私、実は妖怪についてはなんとなく知っているの。河童とかが気になって調べていた時期があるから。その文献の中にサトリもあったわ。

 ……もしかして、未来を視ることもできるの?」

 香澄は輝希の顔を見て、反応を見ていた。すると、

「ええ、見えますよ」

 と、普通に答えた。

「え? 本当?」

 香澄は誤魔化されると思っていたので、拍子抜けした。

「ええ、視ることができます。ただ、自由に未来が見えるわけではありません。ふとした瞬間に映像のように見えます。でも、特定の人の未来なら視ることは可能です」

「じゃ、じゃあ、おねが――」

「ですが、未来は常に変わり続けます。その通りになるとは限りません。現段階では、貴女は将来、大沢さんと結ばれますよ」

「そう……なんでも、お見通しなのね。ありがとうございました。そろそろ帰ります」

 香澄は、輝希と一緒にいると落ち着かなかった。自分の全てを視られているような感覚。身体ではなく内面を。

 何気なく腕時計を見ると、時間が止まっていた。香澄は壊れたのかと思った。しかし、輝希は香澄の反応を見て口を開いた。

「貴女の腕時計は壊れていませんよ。時間が止まっているのです」

「え?」

 香澄は立ち尽くした。時間が止まっている。どういうこと?――

「貴女が席に座ったとき、自分がその時計についているボタンを押したの、覚えていますか?」

 テーブルの上の時計を指差しながら言った。

「え、ええ。なにか意味があるのかなと思ったけど」

「あの時計には、特定の範囲外の時間を止める効果があります。その時計の範囲は、この事務所の中です。何か、本当に用がないようでしたら、時間を動かしますが、どうしますか」

 香澄は少し考えて、言った。

「今日はいいわ。また今度、真斗くんを連れてくるわ」

「分かりました。では、車で送りますよ」

「え? 車? だって、高校生一年生は免許取れないんじゃ……」

「説明しますのでお座りください」

 香澄はそれに素直に従い、また席に座った。

「昼に名刺と警察手帳を見せましたよね? そのときに、霊力管理統制局は司法権の一部のみ優位と言うのは説明したと思います。それで、霊力絡みの事件の捜査権は統制局にあるとも話しましたよね

「ええ、ちゃんと覚えているわ」

「当然、パトカーの運転等もします。なので、免許を持っているんですよ。まぁ、他にも理由があるんですが」

「教えて」

 今の香澄は興味津々だった。もともと、好奇心旺盛な性格である。このときの香澄は、輝希に対する恐怖心より、好奇心のほうが勝っていた。

「自分は妖怪なので、精神的には死ぬことはありません。しかし、肉体には限界があります。肉体が死んだとき、自分の精神は新しい肉体を作り出して近くに生まれる、と言うより、生成されます。まぁ、精神が移るので、記憶等も受け継ぐのです。なので昔のことも知っていますし、資格や免許もたくさん持っています。自動車免許に関しては、フルビットです」

「ふ、ふるびっと?」

「フルビットとは、一種の免許ステータスで簡単に言うと、すべての車を運転できる状態です。さて、そろそろ行きますか。あまり人間をこの異空間に置いておけませんし」

「え、ええ」

 輝希は時計についているボタンを再度押し、リュックを背負って事務所のエレベーターに乗った。香澄もそれに続く。

 エレベーターを降りた先には、セダンが停まっていた。輝希は鍵を開けて後部座席のドアを開けた。

「どうぞ」

「ありがとう」

 二人は車に乗り、香澄の家へ向かった。


 ・・・・・・


 無人になった事務所、先程の空き巣がまた戻ってきた。今度は足元に気をつけて金庫まで向かった。

 周りをみて金庫のノブに手を掛けた瞬間、部屋の電気が点いた。

「次はない、って言ったよな」

 輝希が現れ、驚いた空き巣は奇声を発し、隠し持っていたナイフを取り出して輝希の元へ駆け寄った。しかし、輝希はどこからともなく伸縮式の特殊警棒を取り出し、空き巣の手を殴った。空き巣の手からナイフが落ちたが、なおも抵抗しようとする空き巣に対し、今度は頭を殴りつけた。

 空き巣はその場に倒れた。

 輝希はポケットからiPhoneを取り出し、ある場所へ電話を掛けた。

 一言二言電話口で話した輝希は空き巣を抱え、外に出ていった。


 ・・・・・・


 香澄は輝希の運転する車に乗り、自宅へ向かっていた。

 しかし、ルーフの真ん中のあたりがふくらんでいるのが気になっていた。

「あ、あの……」

「はい? 何かありましたか」

 輝希はバックミラーでこちらを見ながら聞いた。

「こ、このふくらみは何ですか?」

 香澄がふくらみを指差しながら訊ねた。

「ああ。それはパトランプですよ。この車、覆面なんです」

 あっさりと言われ、香澄は絶句してしまった。

「因みに、ここに無線機があります」

 そう言いながら輝希はナビの下の蓋を開けた。

「あ、あなた覆面を自家用に使ってるの?」

 香澄は呆れと驚きが半々で混じった声で聞いた。

「離れた駐車場に普通のパトカー、タクシー、バスとか色々ありますよ」

 言外に、普通ですよ? と言った。香澄は開いた口が塞がらなくなった。


 三〇分もせずに香澄の家(屋敷)に到着した。

 輝希は運転席から降り、後部席のドアを開いた。香澄が、ありがとう、と、言いながら降りた。すると、輝希が申し訳なさそうに言った。

「自分のことはあまり広げないでもらえますか?」

「他言無用でしょ」

 香澄がわかってるわよ、という顔で言った。

 輝希は眼鏡を外して、香澄の額の方を見たが、すぐに掛けた。

「お願いします。では、自分はこれで」

 そう言って、輝希は香澄の家をあとにした。


2018/12/25 文法の修正

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