四月十二日月曜日──事件発生──壱
俺は祖父母と同居している。元々父親は輝希と昔仕事をしていたんだが、職務遂行中に霊気を喰われて廃人化、母親は東京で結婚したんだ。俺はこの話は重くもなんとも無いと思っているが、皆気まずそうにする。
てな訳で、俺は毎朝祖父母たちの朝食を作ってから学校へ行く。小学生から続けて、もう慣れてしまった。時々、友人たちに振る舞うが、味は好評だ。
早起きな祖父母たちと朝食を摂り、俺は先に家を出る。ちなみに二人とも現役だ。まだ六十行ってないからな。
俺は学校までは電車を使っている。途中、川越市を越えるだけだが、川越市もさいたま市も広いから自転車じゃ間に合わない。
さいたま高校を選んだ理由は簡単だ。霊能力者に対して用意がある。あの高校は昔輝希が作った学校だ。ここだけの話、理事長は偽名を使った輝希だと言う話は、関係者の中では有名な話だ。
閑話休題――
途中、川越で車両を乗り換えて、大宮まで行く。大宮からはバスが出ているから便利だ。さすが私立といつも思う。
正門横に作られた停留所で下りて校舎に向かう。すると、だいたいここで輝希と出会う。先週は輝希に用があったから早めに来たが、この時間でも十分間に合う。
「おはよう」
「おはよう、修平。今日は用がないのか」
輝希はニヤニヤしながら言ってくる。こいつの力はホントに恐ろしい。人の心を読み、魔法を操る。俺は、こいつだけは敵に回したくないといつも思う。
・・・・・・
今日は早速授業だった。この学校は一日六コマの週三十コマで授業が入っている。今は午前の授業が終わり、昼休みだ。
「修平、飯食おうぜ」
後ろから輝希が話しかけてきた。周りも固まってきている。やはり、中学からの繋がりがあるのだろう。
「おう、いいぜ。どこで食べる?」
「ここの高校は屋上が開いてるから、屋上にしようぜ」
そう言って、輝希は屋上に向かう階段へ向かって行った。その後に俺も続く。ふと、教室を見回してみると結は未央さんと食べるようだった。
「いやあ、風に当たりながらの食事はいいね。これに酒があればなおよし」
「輝希……お前ここがどこだか分かってるのか?」
「もちろん冗談だよ。こんなところで飲むわけ無いだろう?」
こいつはよく冗談を言うんだが、俺には区別が出来る気がしない。本人曰く、八割方は冗談というが、それすら本当かどうか分からん。
でも、確かに今日の風は心地が良かった。これで花粉症さえなければ良かったんだがね。
「あいにく、妖怪に花粉症の概念が無いもんでね。妖怪で花粉症になるとしたら、限りなく人間に近い魔法使いとかだろ」
「心の声を詠むのやめてくれないかな」
まあ、こんなことを言ったところで無駄なのは分かっているけど。
・・・・・・
「未央ちゃんはどれぐらいの魔法を使えるの?」
修平と輝希が屋上で弁当を食べている頃、教室では結と未央が昼食を摂っていた。ちなみに二人とも弁当である(未央の弁当は起きたら机の上に置かれていた)。
「まだそんなには……基礎魔法もあまり扱えて無くて」
基礎魔法とは、霊気を扱う上で霊能者に対する負荷が少ないものである。妖怪であれば、ある程度の基礎魔法を扱うことができる。
「詠語を使って?」
「はい」
詠語とは、魔法を行使する上で呪文となる言葉のことである。大半が英語で構成されているので、英語さえできればあとはいかに霊気を扱うことができるかの問題になってくる。
「詠語を使って出来るってことは基礎魔法をほぼ全て扱えるね。となると、あとは応用系かな。それは適性もあるし、輝希に相談しながらだね」
魔法には基礎魔法と応用魔法がある。
基礎魔法がほぼ全ての妖怪が行使出来るのに比べて、応用魔法はごく一部の妖怪にしか行使することが出来ない。例えば獏(中国に古くから伝わる妖怪)はごく少数の、魔法を行使できない妖怪。サトリは基礎魔法のみ扱うことが出来て、言霊使いは応用魔法の一つで「出現」を行使できる。そして、すべての応用魔法を行使できるのが魔法使いである。
魔法使いがすべての応用魔法を行使できると言われているが、それは理論上であり、適性によって行使できない魔法もある。実際、本当にすべての魔法を行使することが出来た魔法使いは今まで存在していない。
二人が食事を終え、おしゃべりしていると不意に結の携帯がなった。
「ごめんね。
はい、もしもし。……いえ、それは大丈夫です。……はい。……はい、分かりました」
結は電話を切ると未央に頭を下げた。
「ごめんね、生徒会で呼ばれちゃった。行ってくるね」
「い、行ってらっしゃい」
結は弁当を片付けて、生徒会室へ向かって行った。
・・・・・・
「悪い、会長から呼び出し来ちまった」
「おう、行って来い」
やっぱり、察しが良いのはありがたいな。……心を読まれるのは勘弁だが。
俺は飯を食べ終わって輝希と駄弁っていると、真斗先輩から電話がかかってきた。なんでも、急ぎの仕事を職員室から投げられて、放課後だけでは間に合いそうもないらしい。
俺が生徒会室に着いたときには、まだ真斗先輩と渋沢先輩しかいなかった。
「いや、悪いね。急に仕事振られてしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ」
そのまま仕事に取り掛かったが、やはり昼休みだけでは終わらせることが出来なかった。