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第二十六話「とある勇者一家の団らん、そして核心へ迫る」②

「……いや、それなりの理由があるんだよな? なんとなくとか、ついカッとなってとか、そう言うんじゃなくて……」


「理由ですか? まぁ、やってることが気に食わなかった……そんな所ですかね。箱庭感覚でひとつの世界の命運を弄んだ挙げ句、自らの存在の格を上げるための生贄にするとか……。わたしは命じられた仕事をこなしただけの話なんですけど、間違ったことはしていないと確信してます」


「……生贄って、箱庭って……そうなると、まさか俺や魔王も……?」


「察しが早くて、実にいいですね。そうですね……マナの大量収奪で、一番手っ取り早いのは、定期的に戦争でも起こすのが早いですからね。その為の都合のいいコマだったのではないかと……思い当たる節もあると思います」


「人が死ぬ時、世界に膨大なマナが還元される……確かにそんな話を聞いたことはありますね。瞬間的なものなので、まず観測できないそうですけど」


「禁呪……自己犠牲魔術の類は、人の死の瞬間に生み出される膨大なマナを使って、放つそうです……まさか、要石とは……?」


「うん、真理ちゃん……たぶん、君は正解にたどり着いているよ。要石ってのはたぶん、大気に撒き散らされたマナを回収する装置だと思う。それにマナってのは濃いところにより一層、集まる性質があるからね。それがいっぱいになったからまとめて回収。かき集めた莫大なマナを使って、更なる高次元に昇華して、より高度な存在になる……。その直前に、わたしがぶっ潰したって訳」


 ……まるで。

 世界が崩れていくようだった。

 

 俺と魔王の戦い……あの幾多の冒険……戦争。

 その過程で死んでいった人達。

 

 その何もかもが……茶番だったと?

 

 そんな意味の解らない目的の為に?

 否定したい……いや、否定したかった。

 

 けれども、長年疑問に感じていたこと。

 

 田中さんの話。

 

 魔王だったころの奴の行動。

 

 あまりに格差のありすぎた魔族達の領域、魔王国の窮状。

 奴が行おうとしていた要石の破壊。

 

 あれは、ヤツなりに考えた末の世界の救済だったのではないか?

 

 そう考えると、何もかもが辻褄が合ってしまうのだ……。

 

 いくつもの違和感、いくつもの疑問。

 それに何より、俺には、加奈子嬢の言葉を否定できなかった。

 

 けれど、そうなると俺は……俺があの世界の終わりの始まりを作ってしまったようなもの。

 

 魔王を駆逐するという、その役割が終わったから、用済みとばかりに、加護を奪われ打ち捨てられた……。

 

 皆が、懸命に俺を生かそうと努めて、かなり無理をして元の世界に戻してくれたから、生き延びれただけ……俺は本来、あそこで死ぬ定めだったのだ。 

 魔王だった田中さんも、あそこできっちり死んでいたはずだった……そう言っていた。

 

 彼が命拾いしたのは、俺や残された魔族達が暴発した時の保険……? そう考えれば、辻褄が合う。

 

 ……そんな結論に到達してしまう。

 

「……馬鹿な……俺は、なんてことだ……」


 これでは、世界を救った英雄どころか、滅びに加担した愚か者ではないか。

 

 ……足元がガラガラと崩れていくような感覚。

 娘達の顔なんてとても見れない……何より、今の俺は……皆にどうしてやる事も出来ない。

 

 そんな俺がどの面下げて、のうのうと生き延びているのだ……?

 

「はい、ストップ。何考えてるか解りますよ。自分が悪いって、自責の念に駆られてるんですよね? えっと、お嬢様方、あなた方のお父様は、全部自分が悪いって背負い込もうとしてるみたいですけど、どう思いますか?」


 果てしない自責の念に因われかけていた俺は、そんな言葉で我に返る。

 俺は……今、何を考えていた?


「はにゃっ! パパ様、全然悪くないっ! パパ様は皆を助けるために頑張った! 誰も責めないにゃっ!」


「そうだよ……。これは私達の問題! 確かに、向こうの世界が滅びに瀕してるのであれば、それは一大事ですけど……お父様に一切責任はないっ! お父様は、お役目を果たしレディスレデュアを救ってくれました! それ以上を望むのは間違ってますっ!」


「……私もそう思う。もし、向こうの世界が滅びるとしても、それをお父様の責任と糾弾する者がいるなら、この私が始末いたします」


 三人三様の答え。

 けれども、誰一人として俺を責めるような事は無かった。


「……だが、俺が魔王を倒さなければ、全て丸く収まっていたかもしれないんだぞ?」


「それはそれで、レディスレデュアは……人族は終わってたと思いますよ……。私もお父様達の戦いの軌跡はちゃんと勉強して学びましたから。あれは、やらなければやられる……そんな状況でした。お父様は絶対に間違ってません!」


「そもそも、パパ様が居なきゃ、リネリア達は生まれても居なかったにゃ!」


「そうですね……お父様がいて、お母様達がいて……今の私達がいる。私達は何があっても、お父様のお味方です!」


 娘達の様子を加奈子嬢も優しい眼差しで見つめる。


「ふふっ……良い娘さん達だね。猛部さん、愛されてますねぇ……羨ましいくらい! どうぞ一献……お酒は、悲しみや後悔を洗い流してくれるそうですよ。過ぎたことなんて、気にしても始まりませんよ」


 そう言って、加奈子嬢がお猪口に並々と日本酒を注ぐ。

 

 俺も黙って、一息にそれを飲み干す。

 

 味なんか解らなかったけど……。

 胸がカァッと熱くなり、あれほどまでに高まっていた自責の念が洗い流されるように消えていく。

 

 そうだ……俺は出来るだけの事をやったんだ。

 俺は神様なんかじゃない……俺が見えている範囲で、やれる精一杯をやったんだ。

 

 何よりも、田中さんだって……言っていた。

 多分、やり方を間違えていたと。

 

 俺は彼を止めるべく、女神に召喚されたのだけど……。

 

 俺は……俺の意志でもって、皆を守って、未来を作るために、戦い抜いたんだ。

 それを誇りこそすれ、後悔するなんて皆に申し訳が立たない!

 

「どうですか? 少しは気分は晴れましたか?」


「ああ……ありがとう。お前達も……見苦しいところを見せたな」


 そう言って、娘達三人の顔を見渡す。

 誰もが俺を肯定こそすれ、否定なんてしない。

 

 これが……家族なんだと。

 そう思うと、思わず目頭が熱くなりそうになるのをぐっと堪える。


「なぁ、君は俺に人族の取りまとめ役と説得をとか言ってたが、今の俺に何が出来るんだ? 向こうの世界に行く以上、確実に命がけになる……もちろん、命を賭けるに足る理由だと思うが。俺だって犬死はゴメンだ……女神も居なくなったのでは、加護を授けてくれる存在もいないってことだろ?」


「ああ、その事ですか。それについては、簡単ですよ! 要するにマナ適合の問題なんですから、わたしから、マナ供給を受ければ問題ないですよね? つまり、このわたし、クロの加護ってとこです!」


「……出来るのか? そんな事が……」


「お父様……龍眼で見ても、彼女はこの世界との繋がりは一切ありません。にも関わらず、この莫大な魔力……。恐らく私達と違って、マナを自己生成出来るのではないかと。……それも莫大な量を……完全に世界から独立した存在とも言えます」


 志織の持つ龍眼。

 その目で見れば、そのものが持つマナや、マナの繋がりすらも見えると言う話だった。

 

 志織がそう言うのであれば、それは確かなことだった。

 

「志織ちゃん、正解っ! まぁ、そんなところです。わたしにとっては、世界の壁なんて無いも同然なんですよ。お望みなら、今すぐにでも異世界転移くらいやってのけますよ?」


「転移門すら使わずに、世界間の転移が可能なのか?」


「……そうですよ! わたし達は寄る辺なき者達。特定世界に所属していない代わりに、自由自在に異なる世界を渡り歩く能力を基本機能として与えられているんですよ」


 神出鬼没なのも納得がいった。

 宇良部や志織の眼でもその痕跡が追えない存在……。

 

 世界間を自在に行き来できるなら、それも無理もなかった。

 

「なぁ、君はどこまで力を貸してくれるんだ? それに向こうの世界を救う方法は本当に何もないのか?」


「……わたしは、皆さんに全面的に協力するつもりですよ。27番目の世界……あ、これはわたし達が便宜上そう呼んでるだけなんですが。その世界を救う方法は残念ながら、もうありません……ただ、住民を救う方法ならあります」

 

「住民だけ? どうやって?」


「今いるところに、住めなくなったなら、引っ越せば済む話ですよね? 要するに、別の世界にまとめて移住する訳です」


 ……それから俺は、加奈子嬢から彼女の主人たる魔王の中の魔王『最悪の厄災』の計画を知らされる事になった。

 

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