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第四話「とあるおっさんと暴力系JKヒロイン」③

「何がって……何のことです?」


 ケンゾーさんなら、恐らく異世界のこととかも解っているような気がする。

 俺としても、誰か相談できるような相手は、欲しいところなので、事情を話しても良いのだけど……そうなると、必然的に長々と捕まってしまうだろう。


 アルマリアをいつまでもほっとく訳にもいかないので、今日の所は曖昧にして逃げてしまおう……すまない、ケンゾーさん。


「実を言うとお前さん、相当危なかったのじゃぞ……呪いと言う奴をお前さん信じるか?」


「呪い……ですか。さすがにちょっと……」


 まぁ、普通は呪いとか言われて、信じるとか言う奴の方が普通じゃないだろう。

 

 ケンゾー爺さんには、確かに色々お世話になってるけど、あまり突っ込んだ話をされると、それこそ異世界での出来事まで事細かに話さないといけなくなる。

 

 ……それはそれで、面倒な話だし、そもそも人に話せるような事じゃないと思っていた。

 あまりに、非現実的だもんな……異世界とか。


「まぁ、信じる信じないはともかくとして、正直ワシらの手に負えるようなものではなくてな……。悪いとは思ったんじゃが、見て見ぬふりをしとったんじゃ。だが……不思議なことに、今はそれが綺麗さっぱり消えておる。一体、何があったんじゃ? あれを祓うなど、もはや神頼みあるのみ……それ位には、タチが悪い呪詛じゃったんじゃが……」


 言われてさすがに無言になる。

 おいおいおいっ! 神頼みあるのみって……どんだけだっただよ。

 

 呪符を23枚も消費して、アルマリアもあれだけ消耗したくらいだから、かなり高レベルの呪詛だとは思っていたが。

 ケンゾー爺さんですら、手に負えないとなると、相当なものだ。

 

 この爺さん……ナマグサながら能力だけは本物で、実は本物の霊能力者と言う奴なのだ。

 県外から憑物落としにやってくる者がいるくらいには、その筋では有名らしい。


 つまり……この世界における高位魔術師と言える存在なのだ。

 それが手に負えないと言うくらいとなると、こちらの世界ではどうにもならない代物だと思っていいだろう。

 

 まったく、今日の今日までよく命があったものだ……ケンゾーさんも、解ってはいても手出しが出来なかったのだろう。

 要するに……アルマリアが来てくれなかったら、俺は遠くないうちに死んでたって事だ……。

 

 ただ、それも解らないでもない。

 異世界の魔術や呪術は、はっきり言って強力無比なのだ。

 

 大地を穿ち、海を割る……こちらの世界なら、神の所業とかそんなレベルの真似をやってのける術者が向こうにはゴロゴロしてる。


 アルマリアだって、実力は相当なものだろう。

 本気で暴れられたら、自衛隊の出番なんじゃないかって気がする。

 

 しかし、そうなると……。

 必然的に、向こうの世界の有力な術者がこちらの世界に来ていると言うことだった。

 

 何故? それに、どうやって……?

 

 アルマリアは例外のようだけれど、向こうの世界の住人達は、魔物だろうが、野生動物だろうが、こちらに出て来たら、2-3日程度で衰弱死する。

 

 こちら側が陸の上だとすれば、向こうは水の中のようなものなのだから。


 人間は水の中だと、あっさり溺死するし、魚は丘の上では干物になるしか無い。

 それと同じ事なのだ。

 

 だが、そうなると……その術者はかなり前からこちらの世界で、俺の周辺に付きまとっている事になる。

 体調不良や妙な事故が起き始めたのは一ヶ月以上前からだ……どう考えても、そんな長期間の滞在は出来るはずがない。


 何か……対策でも見つかったのだろうか? 或いは、アルマリアのようなこちらの世界と繋がりのある者か?

 

 もし、そうだとすれば……今現在も俺の周囲に、異界の術者がうろついていると言う事になる。

 今更ながらに、今の俺の状況が極めて危険だと理解する。

 

「お待たせーっ! 猛部さん、汗拭かないと風邪引いちゃうよっ! それとこれ持ってって!」


 祥子が戻ってくると、タオルと紙袋を渡してくれる。

 やけに遅いと思ったら、ちゃっかり制服から私服に着替えていたらしかった。

 

 髪の毛も解いて、すっかりリラックスモード、服装ももこもこしたトレーナー。

 ……人を待たせて何やってたんだか。

 

「祥子……お前、遅いと思ったら、ちゃっかり着替えてんじゃないよ……っと、なんだこれ?」


「なんか、ちびっ子預かってるって言ってたじゃない。あたしが小学生の頃着てたジャージだけど、寝間着くらいにはなるかなーと、サイズとか良く解かんないけど、それ使えそう?」


 中身を見てみると、何となく見覚えのある赤いジャージが入っていた。

 確か、小学校高学年の頃に着てたんだったかな……そう言う事なら、ちょうど良さそうだった。

 

「助かるよ……気が利くな!」


「言っとくけど、匂い嗅いだりとかしないでよねっ! それに変なことに使ったら承知しないからっ!」


「変なことってなんだよ……でも、ありがたい」


 そう言って、祥子の頭にポンと手を乗せる。


「あ、うん……猛部さん! 送ってくれて……その……ありがとうっ! おやすみっ!」


「ああ、おやすみ! またなっ!」

 

 それだけ言うと、再び自転車に乗って、松竹寺を後にする。

 

 ケンゾー爺さんとも目が合うのだけど、無言で頷かれた。

 ……今度、詳しく話を聞かせろとでも言いたいらしかった。

 

 まぁ、ケンゾーさんも、越界の門の守護者の一人なのだから、全くの無関係とは言い難い……。

 何か知っていそうだし、少しくらい事情は知っててもらって良いかもしれない。

 

 そんな風に考えながら険道に出ると、漆黒の闇の中を自転車のライトの明かりだけを頼りに、坂道を一気に下っていく。

 

 ママチャリと言えど、下り坂なら30kmくらいは軽く出る。

 ブレーキが壊れたり、コケたりしたら、ちょっと危ういんだが……なかなか、爽快だ。

 

 爽快なんだが……寒い! 手の感覚が痺れたようになっていく……こりゃ、やべぇな。

 

 さすがに、氷点下近い寒さの前に、へこたれそうになり、少しスピードを緩めると、一瞬……何かが視界の端を過ぎり、バサバサと言う羽音が聞こえた。

 

 それに何かの視線も……何かがこちらを見ていた。

 

 自転車を急停止させると、耳を澄ませる。

 ……鳥か? いや、こんな時間に飛ぶ鳥なんて普通居ない。


 鳥は夜目が効かないから、夜になると、ねぐらで大人しくしてるはずなのだ。

 こんな山の中だと、尚更だ。

 

 自転車のライトが消えると、辺りは真っ暗闇になる。

 

 空は満天の星空……眼下の町並みの明かり。

 地上の星とはよく言ったものだ。


 月がまだ出てないから、星明かりだけが頼りなのだが……辺りの木々のシルエットくらいは解る。


 ……俺の息遣いと、風が木の枝を揺らすざわめきだけが聞こえる。

 

(どこだ……こっちを見てるな)


 自然と感覚が研ぎ澄まされる。

 ぐるりと見渡すと、闇に紛れて電柱の上に何かがいたように見えた。

 

 改めて、見返してみるが、そこには闇が広がるだけで、何も居ないように見えた。

 

 だが……何かいるっ!

 

 ある種の確信とともに、足元の石を拾い上げると、その電柱の上めがけて、思い切り投げつける。

 

 ボグッと言う鈍い音共に、何かが慌てたように飛び立っていった。

 羽根を広げると2mくらいになるような大きな黒い鳥だった。

 

「なんだありゃ……擬態だと?」


 今のやつ……鳥じゃなかった。

 日本の野鳥が、周りの風景に溶けこむような擬態能力なんて持っているわけが無い。

 

 黒い冠みたいな羽毛……特徴あるその姿に俺は覚えがあった。

 

 異世界の魔王軍……魔族たちが使っていた、連絡や偵察用の魔獣。

黒い貴婦人(ブラックウィドウ)」と呼ばれるそれは、本来この世界に居てはならない生き物。


 今の奴は、それとそっくりのように見えた……そして、俺に仕掛けられた異世界由来の強力な呪詛。


 ここまでの材料が揃うと結論はただ一つだった……。

 敵は、もう目の前まで来ている……とにかく、一刻も早くアルマリアの元へ戻らなければならなかった。

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