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第二十四話「とある少女のひとりごと」②

 けれども……原因を消し去っても、それが作り出した結果は消えやしない。

 

 マナの過剰収奪が行われた27番目の世界は、もう手遅れの状態。

 これから、何年か何十年かの歳月をかけて、世界が滅んでいく事が確定している……。

 

 それを考えると今回は割と義憤に近いし、きっちりスジは通してるし、救いの手だって考えてるのだから、まだマシな方と言える。

 

 魔王様は、神の敵呼ばわりされて、ついカッとなって一つの文明を滅ぼした……なんて、前科もある。

 最近は、だいぶ丸くなったのだけど……その手の非道や悲劇は、枚挙に暇がない。

 

 その程度には酷いことしてきたし、わたしも使徒として、その行いに加担している以上、人のことはとやかく言えない。

 あのお方は、神様ではなく魔王様なのだから、仕方がないのだ。

 

 そして、わたしは……と言うと、本来はすでにその命を終わらせた存在。

 言わば、死者ようなもの……理の外側の存在。


 わたしの居場所なんて、魔王様のもと以外の何処にもない。

 

 今、ここにいるわたしは、黒木加奈子と呼ばれた少女の記憶を受け継ぐ何かにすぎない。

 わたしは……長い間戦い続けることで、少し疲れてしまった。

 

 だから、黒木加奈子としての記憶を自らの手で封印したのだ……。

 

 今回、わたし達魔王の使徒に科せられた役目は、その争奪戦のガイド、審判役。

 戦いにルールを与え、際限なき戦いに発展させないように、戦争を管理する役割だ。

 

 なんせ、好き勝手、際限なく戦争なんてさせたら、せっかくの手付かずの世界が台無しになりかねない。


 戦争にもルールが必要。

 そして、絶対なる力を持つ審判も。

 

 そんな役回りなので、直接的な手出しは一切するなと言われてはいる。

 

 一応、27番目の世界の出身だと言う新参の使徒がいるらしいのだけど、彼女たちの役割は、争奪戦を盛り上げるための当て馬役。

 そんな役割、断る手もあっただろうに……なんか妙に生真面目な使命感いっぱいな人で、そんな憎まれ役みたいな役を率先して、請け負っていた。

 

 要は、話を盛り上げるためのヤラレ役……みたいなもん。

 

 わたしには、良く解らない……せっかく拾ってもらった命なんだから、もうちょっと楽しんだ方が良いと思う。

 

 わたしは……というと。

 その27番目の世界ではなく、隣接する世界の担当者という事になった。

 

 そっちの担当は、同じく魔王様の使徒のひとり「シロ」が担当する。


 まぁ、あの娘はわたしと違って、いつも毒舌を吐いて魔王様を泣かせる困った娘なんだけど。

 仕事はきっちり真面目にやるので、余計なこともしないだろう。


 さて、この世界……便宜上の呼び名は「6番目の世界」と呼ばれている。

 何が6番目かは良く解らないけど、魔王様が適当に割り振った番号なので、どうせ深い意味はない。


 なお、正式には6の後にかなり長い少数点が付く。

 

 そして、わたしが黒木加奈子だった頃に生きていた世界も、同じ6番目の世界。

 違いとしては、その小数点が微妙に違う。

 

 要するに、過去の何処かの時点で、分岐生成された並行異世界のひとつ。

 

 何とも因果を感じる話だった。

 そして、この世界……それも日本国が、わたしの担当となってしまった。

 

 しかも、この世界……やたらとあちこちで、異世界を欲しがってる連中がいるらしく、5つもの勢力が参戦を表明しているらしい。

 

 そのうちのひとつが日本国……その担当がわたし。

 

 凄く作為的なその配置に、いささかの疑問を感じながらも、懐かしい日本の空気を堪能とばかりに、かなり好き勝手に歩いたのだけど。

 

 さすがに、わたしのお墓や住んでた家まではなかった。

 わたしに似た誰かも探せばいるのかも知れないけど、それはあくまで別の存在。

 

 下手に関わって、わたしの因果が流れ込んだりしたら、きっと不幸な結末となる。

 だから、別に探さないし、関わりも持たない……それでいい。

 

 もし、いたとしたら、そのわたしに似た誰かには、幸せになって欲しい。

 平凡で細やかな幸せ程度の人生だったとしても……だ。

 

 それにしても、この世界。

 

 地名に江戸時代の頃の土地の名が付いてたり、字が違ったり、聞いたことない県名だったりと、相応の差異があるのだけど、富士山とか、琵琶湖もあったりと地理関係はほぼ同じ。

 

 わたしの記憶では、作者の方が亡くなって途中で打ち切りになってしまった漫画が続いていたり、紅白に出てたような有名な歌手が鳴かず飛ばずで、動画サイトの歌い手どまりだったり……。


 なにそれ? みたいなロボットものが大ヒットしてたりと……なんか、色々違う。

 

 自律稼働のロボット自動車が走り回っていたり、無人戦闘機なんてのが実用化されていたり、妙な所で進んでいたりと、正直かなり違和感があった。

 

 インターネットなんかも、わたしのいた世界にもあったんだけど、人工知能がかなり深いところにまで入り込んでいて、もはや人間の手を離れて、独自進化を遂げているようだった。

 ……これがいつの日にか、電脳の神だとか、機械の反乱とか……そんな話になりませんように。

 

 先日も、この世界のキーマンとなる人物と正体を隠して、直接話しをしたのだけど、私が好きだったラブソングも全く知られてなかったと言うことに気付いて、ちょっと恥ずかしい思いをした。

 

 って言うか……リニアとか、第二中央高速って何?

 工業用の二足歩行ロボットなんてのが、闊歩してたのは、さすがのわたしも驚いた……なにがあったら、ここまで進むんだか。

 

 まるっきりSFアニメの世界みたい感じなりつつあるんだけど……。

 

 他にも、日本が転移門により、異世界と地続きになってしまっているのが決定的に違った。

 それも一個や二個じゃない……かなりあちこちにあるような様子だった。


 そこがわたしの知る6番目の世界との相違点であり、それが分岐するきっかけになったのでは……そんな風に思っている。

 

 調べた限りだと、どうも10年くらい前に境に、何か大きなパラダイムシフトが起きたのは、確かなんだけど。

 あまり、派手に探ると電子空間に存在する攻性ウイルスだの攻性障壁による総攻撃を受けかねない様子だったので、程々にした。

 

 ……と言うか、この世界の電脳空間マジで怖すぎ。

 誰だ……? こんなもん作ったのは。

 

 わたしのいた日本では、異世界と繋がる……なんて派手なイベントは起きなかった。

 まぁ、厳密には、繋がりかけたんだけど、それについては、このわたしが阻止してやった。

 

 もっとも、この二つの世界は、繋がっていると言っても、双方のマナ属性が致命的に違うせいで、住民同士は行き来できないようだった。

 

 要するに、異世界に行ったら死ぬ。

 酷くシンプルながら、双方を絶対不可侵とする目に見えない壁。

 

 その制約があるからこそ、地続き同然に接続されていたにも関わらず、たまに双方の世界の住民が迷い込む程度で、世界間の戦争とか、相互交流は起きなかったようだった。


 ある意味、それは凄く平和な事。


 異世界同士が地続きになるなんて、その多くが碌でも無い結果に終わる。

 価値観や世界観すらも違う者同士が仲良くとか、どだい絵空事。

 

 仲良く出来ないから、お互いの領域を決めて、むやみやたらと行き来しない。

 過去、国境ってのはそういう理由で作られたのだから。


 けれども、この二つの世界……どちらでも適応できる連中ってのが、現れたことで、状況が一気に複雑化している。

 

 人数自体は10人ちょっとながらも、資源片手に経済的に第6世界に進出することで、確実な影響力と言うものを手に入れていた。

 

 27番目の世界は、例のわたしがぶっ殺した神性存在が支配する世界だったのだけど。

 その目的は、マナの収奪。 


 一番、効率よくマナを大気中に大量放出させるには……マナに依存する生物の大量死が一番手っ取り早い。

 その中でも、人間の死は強烈にマナを放出するもので……戦場跡やら大規模災害で人が大量死したような土地は、高濃度マナ地帯になるくらい。 


 ……マナの収穫のための戦争を起こさせるために、魔王と勇者なんて存在を作り出して、その人材を調達するために、第6世界の住民を適応させた上で、送り込んでいたらしかった。

 

 強い個人を作り出すのに、異世界人を使うってのは確かに悪くない手なんだよね。

 

 異世界人ってのは、その世界の常識に縛られない分、言わばリミッターが外れた存在のようなもの。


 割と際限なく強くなるし……色々ややこしい事態を引き起こしたりしてくれたりもする。

 実際、わたしだって、ご同類のようなものだ。

 

 光と闇、勇者と魔王の争いという名の出来レース。

 そんな事を延々と続けさせて、マナをかき集めて……何がしたかったんだか。

 

 まぁ、より高次元の存在となることで、他の神々より高位の存在となる……そんなところかな。

 

 この辺もまた魔王様が義憤に駆られた理由のひとつらしい。

 たしかに、ムカつくそれ……万死に値するね。

 

 もっとも、割と問答無用でぶっ殺しちゃったんだけど……。

 まぁ、過ぎたことだしいっか。

 

 けど、その戦いの過程で、二つの世界に適応したハイブリッド種みたいなのが出来てしまって、限定的ながらも双方の世界のつながりが出来てしまった。

 

 なんとも、ややこしいことになってるのだ……。

 

 その上、どうも27番目の世界から、この6番目の世界にやってきた連中は、割と優秀だったらしく、いい感じに日本が欲しがってる資源をチラつかせる事で、資源外交を展開して、商売して大儲けしているような様子だった。


 そして、儲けたお金で大量の食料や技術を手に入れて、自分たちの世界を発展させる……なかなか、上手いことやっているようだった。

 

 この辺は日本の政府は、極秘にしてるようだけど……わたしはネットの世界に、フルダイブ位できるので、その辺は、あっさり調べは付いている。

 

 けれど、それ自体は、悪でも何でも無い……むしろ、日本は景気が加熱されて、活気づいているし、資源問題が解決して、エコとか節約とかもう知らね! ってな調子で地球に優しくなくなった程度。


 とにかく、彼らの行動の結果、誰も困ってないってのが実情。


 でも、このままじゃ済まないんだよねー。

 

 27番目の世界の寿命は、おそらく10年も保たない。

 異世界が滅びると、間違いなくこの日本も困ったことになる。

 

 この世界の日本って、資源問題が解決したとばかりに、それまで、割と領空侵犯やら、領海侵犯を何度もやらかしてた、お隣の国々に妙に強気に出ちゃって、人知れず日本海で一戦交えたりしちゃってるんだよねー。

  

 しかも、情報統制も専門AIなんてのを使って、完璧に誤魔化してるし……。

 一見、平和に見えるんだけど、空や海では双方無人兵器の小競り合いを繰り広げてたり、ステルススマート機雷なんて、陰険な兵器が日本海をウロウロしてたり、明らかに変な方向に進んでる。

 

 これ……戦争まっしぐらパターン。


 まぁ、やらせないんだけどね……どうせ、わたしはこの世界になんのしがらみもないから、どうにでもなる。

 

 とにかく、わたしは心情的には27番目の世界を勝たせてあげたい。

 ……景品の異世界が、27番目の世界の人たちのものになれば、万事丸く収まる。

 

 魔王様は、まるでこの6番目の世界で世界大戦でも起こすんじゃないかって勢いで、何人もの使徒を送り込んで、むしろ情勢を加熱させる方向で、煽ってるみたいなんだけど……。

 

 残念だけど、魔王様。

 このわたしがいる限り、そうはさせませんから。

 

 実は、魔王様はわたしに関しては、何の強制権も持ってない。

 私自身は配下のつもりでいるけど、存在としての格は同格と言えるらしい……。


 実際……反逆まがいのことだって、何度もやらかしてる。

 魔王様は、それも刺激のひとつだとか言って、普通に許されている……それがわたしと魔王様の関係。

 

 どうせ、魔王様にだけはわたしも勝てない。

 あの方の存在はもう訳の解らないくらい、幾重もの時間と空間に偏在してるから、殺し切るなんて誰にも出来ない。


 ぶっ殺し回数だって、30回位きっちり殺ってるんだけど……。

「ああ、死んだ、死んだ」なんて言いながら、しれっと玉座に舞い戻ってくるのだから、始末に悪い。

 

 とにかく、わたしはわたしの意志でもって、このクソイベントぶっ潰したーいと思いました!

 なので、わたしの使えるものすべてを使って、盛大にかき回すっ!


 そして、皆が納得笑顔のラストシーンを目指すのですよ! ああ、わたしって、ぐう聖。


 長々と述べたのだけど、つまるところ、これがわたしの結論。 

ストック余裕が出てきたので、デイリー更新にします。

余裕なくなってきたら、隔日になります。

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