第二十四話「とある少女のひとりごと」①
この世界に来て、唐突に、わたしはわたしの名前を思い出した。
そうだ。
わたしは、黒木加奈子という名前だったのだ。
……この名前は、随分と昔に置いてきてしまった名前。
もうとっくの昔に、忘れていたのだけど。
あの懐かしい世界に、とてもよく似たこの世界に来てから、わたしはその名前を思い出した。
今のわたしは、魔王の中の魔王に仕える魔王の使徒……そんな風に呼ばれる存在。
その名も執行者「クロ」……酷くシンプルな名前。
魔王様の意志を執行する……言わば、手足のような存在だったのだけど。
本来の名前を思い出したことで、わたしはわたしの確固たる意志を取り戻した。
いや、これは正確ではない。
わたしは、わたし自身の意志で過去の記憶を封印していたのだから。
何がきっかけだったのか……?
「27番目の世界」
便宜上、そんな風に呼ばれる世界があるのだけど。
その世界の命運に、共感したのかも知れなかった。
その世界は、マナの枯渇で風前の灯だった。
生きるもの全ての根源、マナの枯渇。
……それ自体は広い視点で見ると、さほど珍しい話でもない。
長い年月の果てには、星だってその寿命を尽きさせる。
言わば、自然の摂理のようなもの。
日が昇り、暮れるように……世界だって、終わるのだから。
とにかく、そのまま放って置くと、その世界は確実に滅亡する事が解っていた。
そして、その世界の住民たちも運命を共にする事が確定している。
もう幾度となく目にした出来事でもある。
ひとつの世界の終わり。
けれども、それは始まりでもある……マナが枯れ果て、死の世界となっても長い年月が過ぎれば、再び蘇る日がやってくる。
言わば、繰り返される自然の営みのようなもの。
でも、魔王様の気まぐれで、その世界の住人達に生き残るチャンスを与えると言う話になったのだ。
これだけ聞くと、いい話。
それだけならば、わたしだって、盲目的に賛同していただろう。
けれども、魔王様は無償の善意を施すようなお方ではなかった。
魔王様が所有するいくつかの無人の世界。
それ自体は、様々な経緯で魔王様が手に入れたり、誰も管理しなくなったからとか。
そんな様々な理由で、自らの管理下に置いていた。
そのひとつを丸ごと提供する代わりに、同じように異世界を安住の地を欲する者達同士で相争い、力づくで奪ってみせろ……なんて事を言い出した。
要するに、異世界争奪戦とでも言うべきもの。
魔王様は、その主催者……そんな所だった。
戦いを引き起こして、それをスポーツ中継でも見るような感覚で、観戦するつもりなのだろう。
あの方のやりそうな事なのだけど、なかなかにひどい話だった。
わたしが知ってるだけでも、かなり多くの勢力が参戦することになるだろう。
故郷の星を失い巨大宇宙船で、宇宙を彷徨う人々。
地上に生物が住めなくなって、空に浮かぶ岩の上で生活しているような世界の人々もいた。
滅亡と隣合わせ……そんな瀬戸際の攻防を繰り広げているような世界もある。
どこもそれなりに切実な理由を抱えている。
魔王様は、人の多く住む世界に支配者として君臨するような真似は潔しとしない。
基本的に傍観者でいる事を好む。
配下にしたって、明確な自我を持つものなんて、100人にも満たないし、割と各々好き勝手にしてる。
統率が取れてるかと聞かれたら、甚だ疑問。
わたしが思うに、魔王様って駄目ニートみたいなところがあるんだよねぇ……。
めんどくさい、つまらない……まるで、口癖のようにそんな事ばかり言ってる。
でも、そのくせ、退屈しのぎ感覚で、こんな形で異世界に大々的に干渉したりするのだから、困った話。
わたしも、もう随分長いこと魔王様に仕えているのだけど。
こう言うのも今に始まった事じゃない。
暇つぶしとか、やり口が気に入らないとか……そんな理由で、神性存在と呼ばれる存在に喧嘩を売ったりするようなお方なのだからね。
まぁ、それ自体は別に嫌でもない……むしろ、突発イベントのようなもので、わたし達魔王の使徒も結構楽しんでるきらいがある。
神性存在……神様とも言うべき存在。
けれども、それ自体はさしたる脅威でもない。
あれは、本来、誰も手が出せない高次元階層に篭っているから、不滅無敵の存在なんであって、同じ相対次元に入り込んで、直接相対してしまえば、ワンパンで即死したりする程度には、脆弱な存在だ。
その癖、造物主などと思い上がっていたり、一つの世界をテレビのスイッチを消すように終わらせたりとか、平気でする。
わたしは、あんな奴らは神様だなんて、認めない。
ただの寄生虫だ。
実際、わたし達は幾人もの神性存在を追い詰め、葬ってきた。
そこには、敬意も許容も、善悪の区別すらなかった。
わたし達と敵対した神性存在は、ほぼ例外なく殲滅してきた。
喧嘩を売られたというケースも少なからずあるが、大抵調子に乗って、全知全能の存在とか言い出して、好き勝手やってて……みたいなのが魔王様に目をつけられ、駆除対象とされる。
アレの正体は、言ってみればただの信仰が具現化しただけの存在。
人々の祈りと思いが神を生み、育てる。
そして、いつしかそれはスタンドアロン化し、自我を持ち、大抵自らを生み出した文明を滅ぼす。
一柱しか神と呼ばれる存在が居ない世界では、まずそうなる。
誰も止めないし、誰も殺せない……そういうのは、大抵果てしなく増長する。
日本やギリシャ神話みたいな多神教の神々は結構人間的だったり、俗物的だったりするのだけど。
一人だけってのは、大抵訳の解らない独善的な存在に成り下がる。
だからこそ、わたし達は、積極的とはいい難いながらも、神々と呼ばれるモノと戦い続けてきた。
お前達は、狩られる存在なのだと、奴らに思い知ってもらうために……。
27番目の世界もそんな風に、自分達が生み出した神性存在が原因で、滅びの道を歩もうとしている世界だった。
もっとも、そこを支配していた女神なんとかは、つい先日、わたしが駆除した。
魔王様に、理由も告げられずに神性存在のいる亜空間に送り込まれて、それっぽいのを問答無用で殴ったら、あっさり死んだ。
まさかのワンパン。
断末魔も「うぼぁー」とかなんとか言って、とってもかっこ悪かった。
光と闇の二重属性持ちで、世界を創造し数百年もの長きに渡り、裏で動かしてきたらしいのだけど……。
わたし達のような天敵が存在するなんて、これっぽっち思っても居なかったらしく何の備えもしておらず、そりゃあもう、あっさりと死んだ。
まさにクソ雑魚ナメクジ。
人の身で奴らに対抗するのは、水面に映る月を割ろうとするのに似ている。
水面の月をいくら砕いても、月自体は遥か宇宙の彼方にあるのだから、割れるはずがない。
なら、それを砕くには、どうすればいい?
答えは簡単、宇宙に浮かぶ月自体を爆破してしまえば、水面に映る月も消し飛ぶ。
あとには何も残らない。
理屈としては、こんな程度の話。
神性存在のような存在は、要はより高次元にいる本体と同じ次元に並び立つだけで、容易に駆除出来る雑魚に成り下がるのだ。
同じパターンで、何匹も狩られてるんだから、いい加減学習しろと言いたい。
驕れる者久しからず。
神殺しの魔王。
それがあの方の持つ数々の異名のひとつでもある。
そして、わたしは神殺しの異能を持つ14番目の使徒。
――『黒の節制』
それがわたしのもうひとつの名前。
この娘は、私の初期作品「転生したらちびロリ娘」の主人公くろがねですね。
セルフパクリですが、まんまじゃないです。
https://19841.mitemin.net/i220955/
↑昔描いたイメージイラスト。あんまり黒くない。
ちなみに、えらい時間にアップしてますけど、
あとがきに書いたじゃない……次回更新は3/14だって!
そいや、ホワイトデーですねっ!(笑)