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第二十三話「とある勇者の雪の日のまぼろし」②


「猛部さん、どうかされましたか?」


 妙な事を考えていたら、見透かされたように少女が身を乗り出してくる。


「いやいや、うちの子供達がどうしてるかなって……先に家に帰ってるみたいなんで、別に心配はしちゃいないけど、逆に心配されてるだろうなぁ……って」


「家族の待つ家ですかぁ……良いですね! 早くお迎えが来るといいですね! あ、お互い暇なんで、何かお話をしましょうっ!」


「そうだな。ただ、いかんせん……俺おっさんだからなぁ。君ら世代の話なんて、良く解らんから、むしろ、退屈かもしれんぞ?」


「いえいえ、年上の殿方を楽しませる話術と言うのも、乙女の嗜みですから! 最初のお題、そうですね! さむーい夜に君二人と言えば?」


「一杯やってこたつでヌクヌク?」


「ち、違いますよっ! なんで、あのタカクラマキのラブソングのフレーズが出ないんですかっ!」


「……いや、俺知らんし……っていうか、それ誰?」


 ……それから、しばしの間、俺はこの黒木加奈子と名乗る見知らぬ少女と話し込んだ。

 彼女は、色んな事を興味津々と言った調子で聞いてきた。

 

 何か事情があるらしく、少し世間から離れていたとかで、ここ数年の社会やら世界情勢とか、やたら小難しいことを聞いてきたと思えば、やたら古いアニメや漫画に詳しかったり……何とも不思議な娘だった。


 あの打ち切り漫画の本当のラストとか……違う雑誌で細々とやってたなんて、俺も知らなかったんだが、なんで知ってるんだろう? むしろ、俺も読みたいくらいだった。


 普通に考えて、こんな中学生にもなっていなさそうな女の子と話とか……まぁ、絵面としてはすごく犯罪者っぽい気もする……。

 

 けれど何故か、話をしてるとむしろ、もっと年上と話をしてるような気がしてくる。

 

 見た目はどう見ても小学生なんだがな……。

 所作とかどことなく洗練されていて、子供特有の野暮ったさやら、思考の浅はかさが見受けられない……。

 なんと言うか……ひどく老成しているようで、所々エラく軽かったり……。


 もっとも、志織辺りも年の割にえらくしっかりしてるので、さほど不思議には思えない。

 人間苦労してると、年の割に成熟するようなので、彼女もそう言う類なのかもしれない。

 

「ああ……すっかり話し込んじゃいましたね。こんな風に年上の男の人と、気ままに話をするってのも悪くないですね。それにしても、お迎えもまだ来ないみたいですね。この調子だと日付変わっちゃいますよね」

 

 時間を見るとすでに10時を周る頃……どうやら、一時間近く話し込んでいてしまった。

 実際、なかなかに楽しい時間を過ごさせてもらった。

 

「親御さんに連絡とかしなくていいのかい? 流石にこんな時間にもなると心配するだろう? 携帯とかは持ってないのかい?」


「まぁ……一般的にはそうですよね。携帯ですか? わたし、そんな便利なものは、持ってないんですよ……」


「そうか。なら、家の電話番号は? 代わりに連絡するよ」


「ああ、その辺は気にしなくていいですよ! 色々とワケアリと言う奴でして……。あ、猛部さん、あの車じゃないですかね?」

 

 言いながら、彼女は立ち上がると、指を指す。

 その視線を追うと、道路に盛大に積もった雪を物ともせず、デカい四駆がバスターミナルへ入って来るのが見えた。


「ああ、そうだな……ちょっと、そこにいてくれ!」

 

 俺もベンチから立ち上がり、車に向かって手を振ると、チェーンの音を響かせながら、目の前で停車。

 

「すまねぇ、兄貴! すっかり遅くなっちまった……。もうあっちこっち放置車両だらけで、道も大渋滞! 雪の日にサマータイヤの車で出てくるとか馬鹿じゃねーのっ!」


 毒づきながら、宇良部君が降りてくる。

 

 普段はバイクで移動してるのだけど、今日はトヨムラ「ハイランダーZ」


 砂漠やらジャングルでもガンガン走れるとの評判で、海外ではゲリラが戦闘車両として使ってるとか言う評判のタフな車だ。

 

 またエライので来たなぁ……しかも、車高を上げた改造車。


 それも見た目重視のDQN仕様なんかじゃなく、踏破性を上げるための大経タイヤとオーバーフェンダー装備のガチ仕様。

 

 これ……たぶん、河を横断できたりするようなヤツだ。

 もちろん、ドライブアシストAIなんか付いてない……フルマニュアルどころか、サブトランスミッション付きのド硬派仕様!


「いや、助かった! タクシーもバスも全滅、電車も動かねーから、今日はもう泊まりも覚悟してたとこだ……ああ、ご足労ついでに、ちょっとこの娘も送っていってやってくれないか? つい今しがた知り合ったばかりなんだが、帰れなくて困ってるらしいんだ」


「……この娘って……誰をだ?」


 不思議そうに訪ね返す宇良部君。

 

「誰って……この娘なんだが……」


 言いながら、振り返るとついさっきまでベンチに座ってたはずなのに、そこには誰もいなかった。

 足跡も俺の分しかない……文字通り、彼女は忽然と姿を消してしまっていた。

 

「……嘘だろ? ついさっきまで、隣で話してたんだが……」


「確かにバスターミナルへ入ってきた時、兄貴の隣に小さい人影が見えた気がしたんだが……。その割には足跡も……見あたらねぇしなぁ……」


「おいおい……まさか、幽霊とかの類じゃないだろうな……けど、普通に話してたし……」


「一応、言っとくが俺の鬼眼は、不可視の魔物や幽霊の類だって、見通すようなヤツだからな。……俺の目を誤魔化せるような奴は、そうそう居ねぇぜ?」


「そう言えば、そうだったな……。いや、しかしだな……あれが幻とかだとは、とても思えないんだが。……宇良部君、一体何だと思う?」


「さぁなぁ……どんなヤツだったんだ?」


「小学生くらいの小さい子なんだが……妙に大人びた雰囲気の子供だったな。真理達と同じくらいの外見だったんだが、妙に成熟してる感じで、中身は二十歳とかそんな感じに思えたくらいしっかりしてる娘だった」


「……魔術の使い手やら、化物の類なら、魔力の残滓くらい残すんだがな。見た感じ、そう言ったもんは一切感じねぇ。だが、何かがいて、霞のように消えちまった……となると、普通じゃねぇな」


「否定はしないんだな」


「俺達は常日頃、得体の知れない奴らばかりを相手にしてるからな。あり得ないはあり得ない! そう思ってないと足元を掬われるからな……目に見えている物が真実だとは限らねぇよ」


 自分でも白昼夢の類だと思いかけていたのだけど、宇良部君の言葉で考えを改める。


「そうだな……しかし、考えてみれば色々おかしな事を言っていたなぁ……」


 なんと言うべきだろう、その言葉の端々に知識の相違のようなものがあって、それを違和感として感じていた……それも事実なのだ。


 聞いたこともない歌手の聞いたこともない曲のフレーズ。

 打ち切られたはずの漫画のラストシーン。


 そうかと思えば、誰でも知ってるようなアニメの事を知らなかったり……。

  

「まぁ、とにかく乗ってくれ! 要するに、得体の知れないヤツがいて、そいつが忽然と消えた。……そういう事だろ? いずれにせよ長居は無用だと思うぜ。旦那は色んな奴から注目されてるからな……旦那が早々遅れを取るとは思えねぇが、出来れば、こう言う単独行動は避けてくれ……まぁ、今日は仕方ねぇと思うけどな」


「……そ、そうだな! 解った。とにかく、恩に着る!」


 言いながら、よじ登るようにハイランダーZの助手席に乗る。

 宇良部君が周囲を改めて警戒しながら、アクセルを吹かし、盛大に振り始めた雪の中を走り出す。

 

 ――降りしきる雪の中。

 

 幻のように、どこからともなく現れて、初めから居なかったように、忽然と姿を消した奇妙な少女との出会い。


 それが何だったのか……俺はしばらく経ってから知ることになる。


第五章はなかなかの難産になりそうなので、基本隔日更新です。


次回更新は、3/14を予定してますが。

延期の可能性もあります……その場合は、割烹で告知しますんで、よろしくー。


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