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外伝その2「とある勇者のとっくんの日々」⑤

 そして、特訓開始から10日ほど経ったある日。

 

「せいやぁっ!」


 ヨミコが案山子に斬りかかる!

 バシンッ! と言う小気味よい音が響いて、案山子が大きくしなる。

 

 あそこまでしならせるとなると、相当な勢いでの打ち込みだった。

 

 アルミナも同じように、私の真似の抜き打ちを決める!

 躊躇いのないいい剣筋になってきた。

 

「うん、二人共だいぶサマになってきたね……雨音ちゃんはどう思う?」


「そうですね……まだまだ素人に毛が生えた程度ですけど、最初の頃と比べたら見違えましたね」


「どや? ちったぁ、うちらもやるようになったろ?」


「いつまでも、雑魚と思うな……ってとこかしらね」


 ドヤ顔で得意満面と言った調子のアルミナとヨミコ。

 実際、良くこの短期間でここまで成長したもんだ。


「うん、まぁまぁだね……基礎は、大体身についたみたいだね!」


「そうですね。点数つけるなら55点ってとこですけど」


「雨音ちゃん、微妙な点数付けるのね……それ、結構駄目なんじゃ……でも、赤点よりはマシ?」


「せ、せやな……でも、四捨五入したら100点やっ!」


「おーっ! そうなるか! 私達、100点満点っ!」


 こいつら……ポシティブ思考と言いたいけど、いいのか? それで……。

 

「んじゃ、そろそろ帰ろうか……あんまり長居するとまた先生に怒られちゃう」


「せやな……なら、最後にアルミナ! ここで、うちらの集大成! 合体技 X斬り(クロススラッシュ)! からのシャイニングフレアを決めてみせるで! 密かに二人で練習した新必殺技のお披露目やっ!」


「はいなーっ! タイミングを合わせるよっ! この1ドル金貨が落ちた瞬間が勝負のときだぜ!」


 ……アルミナのネタは相変わらず、良く解らない。


 どう見ても、五円玉なんだけど、それを親指で弾きながら、腰を落とした脇構えで構える。


 クルクルと回りながら、五円玉が地面に落ちると、竹刀を持ったヨミコとアルミナが同じタイミングで、竹刀を地面に擦りながら、同じ速度で案山子に駆け寄っていく!

 

「うりゃーっ! ぶっころせーっ!」


「タマ取ったらぁっ! お前の血は何色だぁーっ!」


「「必殺! X斬りーっ!」」


 案山子の前でスレ違いながら、同じタイミングで切り上げが入る!


「凄い、息ピッタリだ!」

 

 衝撃に耐えきれなかったようで、案山子が地面から抜けて、空高く舞い上がる!

 

「「天へと還り(ライジング)光となれ(インパクト)!!」」


 二人の揃った掛け声とともに、地面から二本の光の柱が立ち上り、交差すると案山子を包み込む。

 

 そして、爆散っ!

 

 しーんと水を打ったように辺りが静まり返り、案山子の残骸がパラパラと地面へと落ちてくる。

 

「どやっ! これがうちらの合体技や! 二人揃えたタイミングで切り上げ、浮かせた相手にシャイニングフレアの焦点を集中し、殲滅する……う、うちら、恐ろしい技を開発してもうた……」


 大げさな仕草で額に手を当てるヨミコ。


 それ……田中さんがやってた仕草……と思ったのだけど、口には出さないでおこう。


 兎にも角にも、夕暮れ時の校舎裏。

 ついに、二人の特訓はここに。実を結んだのだった!

 

「二人共すごいっ! これなら、どんな相手だって、一撃必殺だ!」


「やり遂げましたね! お見事です!」

 

 思わず、雨音ちゃんと二人で手を打つ。

 ほんの10日程度の修業の日々……私は、雨音ちゃんと稽古したり、二人に罵声を浴びせてばかりだった気もするけど。


 ちょっと楽しかったのは確かだった。


 振り返った二人は何ともやり遂げたような顔で……それはもう、最初の頃の腑抜けた女学生のものではなく、二人の武人の顔だった。

 

 雨音ちゃんと二人で駆け寄ると、向こうも駆け寄ってくる。

 

 四人、スクラムを組むように抱き合って、喜びを分かち合うっ!


 ……そういや、何の特訓だったけ……これ?

 まぁ、どうでもいいや。


 とにかく、私達4人はこれがきっかけで、すっかり友達になってしまったのもまた事実の訳で……。

 

「んじゃ、ヨミコ! アルミナ! 今日はもう帰ろうかっ!」


「せやな……今日はどこに寄り道しよかっ!」


「志織ちゃん、今日は猛部のおじ様とお兄様が、晩御飯でも一緒にって言ってましたから、寄り道は……」


 あ、そう言えばそうだった……でも、お祝いにって事で、何かしたいなぁ……。


「雨音ちゃん! 雨音ちゃん! 私も……一緒って駄目? もう、家の前で待ち伏せとかしないからっ!」


「お前、そんな事しとったのか……あ、でも、猛部はんも一緒なら、うちも行きたいわ……! 志織、頼むわっ!」


 二人共、下心見え見えなんだけど……別に悪い子じゃないのは、もう解ったし。

 お父様もそれくらい許してくれるんじゃないかな?


「……しょうが無いなぁ……いいよ! 一緒に行こうっ!」


「「やったーっ!」」


 二人が手を繋いで、ピョコピョコと喜び合う。

 かつては、敵同士だったのに……いつの間にかこんな仲になってしまったのだから、世の中解らない。

 

 でも、これはこれでいいかなって思う。

 

 ……これは、私達の細やかな日常の一ページ。

 

 ある冬のちょっとした出来事。


この後、皆で食べ放題焼肉行って、めちゃくちゃ食べまくりました。

                        By シャーロット

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